235話 召喚
ルティーナは、来る決戦に迎えて、日々、サーミャ達の飛翔の訓練を繰り返えし続けていた。
しかし最近ギルドにも通わず、毎日の様にフォレスタ平原に通うルティーナ達に疑問視する冒険者が増え、ここ最近の近隣国でのもめ事の多発とルティーナ達の不在が関わっていると噂すら流れているとアンハルトから聞かされる。
それを聞いた馬琴は誤解を生まないように、自然にフォレスタ平原に行くこと回数をすこしづつ減らしつつ、5人で交代交代でギルドの任務をこなすことにした。
ルティーナと組んで任務に出かけた者は、飛翔を兼ねた戦闘訓練をするようにした。
そして留守番になる者は背中に【翼】書かれた状態で、エリアルに連れられてフォレスタ高原で決められた時間の間だけ漢字を発動と解除をしてもらい、特訓を続けるのであった。
――それから半月、皆、飛翔も安定し、実践でも使える程度の技術が身についてきたころの朝の出来事。
「ルナぁ、お城の兵隊さんがぁ~例のものが準備できましたよぉってぇ、迎えにこられてますよぉ」
「ついに、この日が来たわね」
「あたいは気が進まねぇけどな」
「まぁまぁ、ある意味、都合のいい実験って思えばいいんだから」
(実験って……酷い言われようだな)
「マコマコだって、ちゃんと召喚できるって実績ほしいでしょ?」
そして5人は城へ向かい、そこで待っていたダブリスに連れられ広場に案内されるのであった。
彼はその場所には誰も近づけないように手配しており、『カース・ストーン』をチョーカーのように加工し準備をしていた。
「さすがダブリスさん! 解ってますねぇ……え?」
だが、そこに用意されていた『カース・ストーン』は、首飾りのサイズの1,2cm程の大きさでなく10cmの大きさであった。
(おいおい、変な条件にすると10倍も威力か……)
「申し訳ありません、見つけ出した石でこれでも一番小さいもので、これでも小さく加工するには時間がかかってしまいまして……」
馬琴は、少し動揺するも、脅しには効果的だと心に言い聞かせた。
(でもマコトも、お人好しよね。こいつをこのままにしておくつもりじゃないって言ってたけどさ……あんな目に逢わされたのに)
(まぁどっちらにしても、俺たちが帰る時が連れて帰ってやるつもりだったから、遅いか早いかの違いだよ)
(あんなやつでもな……元の世界に帰ってから『行方不明』扱いされてるって、あんまりいい気分しないだろう)
(そうね)
そして、シャルレシカが持ち帰っていた『サモナー・ストーン』を、朝時を強引に閉じ込めた『サモナー・ストーン』の横へ置き、サーミャは召喚魔法の詠唱を始めた。
(ねぇエルちゃん、あの石の中に朝時君がいるってこと?)
(そうですね、あの時は大混乱で――――。)
(そうなんだ……)
(でも、ルナちゃんの中に私がいると思い込んで、馬琴を溺愛してたなんて……なんか笑っちゃうわ)
(他人事ですね……これからは僕がそんな目で見られるんですよ)
(どのような殿方かもわからない人に)
(あ……エルちゃんは、ぽっちゃりって生理的に無理かな?)
(突然なんですか? 体型にだらしない男性は……苦手ですかね)
(それじゃ、しばらく我慢し――あっ、そろそろ始まるわよ)
サーミャの詠唱準備が完了したことを確認した、馬琴は『マジックシール・ストーン』と『サモナー・ストーン』に仕掛けていた【混】を『停止』させ、2つの石に別れさせた。
すぐさま『マジックシール・ストーン』をダブリスが影響のない場所までへ持ち出し、細かく破砕するのであった。
そして、サーミャは『サモナー・ストーン』に入っている朝時の姿を見ながら召喚魔法を発動させた。
――すると用意していた『サモナー・ストーン』が神々しく光始め、隣に置いた『サモナー・ストーン』を飲み込んだかと思うと、その中から中年太り姿の男の影が見え、朝時の雄たけびとともに外へ飛び出してくるのであった。
その場には、結婚式当時の姿のままの朝時が召喚されたのだ。
(えっ、俺達も召喚されたら、結婚式の姿のままかよ? そうだよな)
(えっ、私も召喚されたら、ウエディングドレスの恰好なの? それはちょっと)
召喚された朝時は外に出れたことに気づかず、まだ石の中に居ると思い込み荒れ狂っていた。
しかし、様子が違うことにようやく気づく。
「(……)」
「――た、タイヘイ、落ち着きなさいっ」
「き、貴様は……里見――ルナリカぁ~っ!」
怒りのままルティーナに襲い掛かろうとする朝時を、ロザリナが『シャイン・プリズン』で光の牢獄に閉じ込めるのであった。
「大人しくしてな。おじさんっ」
「全く反省してねぇのかよ」
「うるせえ、貴様らが化け物級の魔法使い共じゃなかったら~今頃ぉ」
「そんなことをしても、トモミさんはあなたには振り向いてくれませんよ」
「え、エリアル……姫」
「「「「「「「(エリアル姫?)」」」」」」」
「――里見ぉ~! てめぇエリアル姫をどこに」
朝時のエリアルに対する扱いは、あきらかに皆と違っていた。
その様子に馬琴は、おそらく自分では言う事を聞かないと判断した為、エリアルを少し離れた場所に連れ出し説得役として立ち回るように指示した。
――例の件は言わないように。
(そっか、私が意識を持つようになった事を知ってないんだよね?)
(しかし、こんなにねちっこい男とは……僕、違う意味で手を出しそうです)
(ぷっ)
「つべこべ言ってんじゃねぇっ! あんたは、腐っても勇者として呼ばれたんだっ」
「その力を、役に立てろっつーの」
「俺の力だとぉ? こんなクソ闇魔法程度が? ほとんど役に立たなかったじゃねぇかよっ! ふざけんなっ」
「タイヘイ! 落ち着きなさい! それは、あなたが不完全な召喚をされてしまったからよっ」
朝時は最初は奇声を上げていたが、エリアルに宥められ、嬉しそうに冷静さを取り戻すのであった。
(いきなり、効果覿面かよ)
すると朝時が急に頭を抱えながら、光の檻の中で、のた打ち回わりだすのであった。
「おいおい、大丈夫かよ? こいつ?」
「ミヤぁ、詠唱間違えたんじやぁないんですかぁ?」
「しばくぞシャル!」
「おぉぉ~頭の中に……流れ込んでくるぅ」
「タイヘイ?」
「わ、わかるぞ、わかるぞぉ~っ! こんな闇魔法もあるのかぁ~ふはははっはっ! これは凄いっ」
「「「「「……」」」」」
「なるほど、これが封印魔法かぁ……なるほどな、俺様に厄災と対峙しろってことかぁ?」




