232話 機転
馬琴は、ルティーナを透明にし飛翔することで、竜の視界から消え、さらに意識介入からも逃れ優位に立っていながらも、次の手が打てずにどうすることも出来なかった。
ルティーナを探す竜は、空中から容赦なくサーミャ達を攻撃し追い詰ていく。
「(そろそろヤバいぜ、マコマコまだかよぉ~)」
「『シャイン・ウォール』っ! ミヤっ、ぼーっとしないで」
「すまねぇっ」
「ごほっごほっ、凄い砂煙だ」
竜は、消えたルティーナの場所を把握しようと焦り無闇に攻撃しすぎた為、偶然にも舞い上がった、砂煙で全員の姿が見えなくなる。
意識介入から一時的に開放されていた瞬間に、ルティーナ以外の3人は集まり密談をする。
(エルちゃん、私の作戦を皆に説明して……)
(マコトさんもきっと作戦を……それでは状況が混――)
(大丈夫、きっと馬琴は手詰まり状態よ)
(どうせ決定打の攻撃ができないとか言って、弱気になってるいるに違いないわ)
(だから、こっちから援護を仕掛けるのよっ!)
(でも……)
(いいからいいから、あいつの事は私が一番わかってるから!)
(まずは――)
エリアルは地面に強くめり込むぐらいに槍を突き刺し仁王立ちし、2人に誉美が立てた指示を伝える。
ロザリナには『シャイン・ウォール』で防御に集中してもらい、サーミャはそのまま待機するように伝えた。
『むっ?』
そして誉美は、槍の穂先を伸ばし始めた。
穂先は地面に突き刺さっているため、消えかかった砂煙の中から、槍の柄側が竜に向かって飛び出してくる。
突然の事に気づくのが遅れる竜であったが、とっさに身をかわす。
そして、攻撃は当たらなかったがそのまま槍は伸び続けていた。
その様子を竜の後ろから見ていた馬琴は、それが誉美からの手助けだとすぐ気づくのであった。
そして誉美は、そのまま槍を元の姿に戻すのであった。
すると、穂先だけが柄に吸い込まれるように元の形状に戻り、天空に槍が残った。
その一瞬――。
(ルナっ、あの槍に手を触れてくれっ)
(? わ、わかったわ)
ルティーナは、槍を掴み【輝】を描き写して、すぐさま竜に向かって投げつけた。
(マコト、こんな事するんだったら、最初っから透明にした手裏剣で攻撃しても……)
(いや、意味はあるさ)
(?)
(ありがとう誉美! 反撃開始だ)
『なっ、さっきの槍がこっちに! あの剣士の力かっ!』
竜は向かってきた槍を尻尾で振り落とそうとした瞬間、馬琴は漢字を『起動』するのであった。
突然、槍が発光したことで竜は視界を奪われた。
その瞬間、ルティーナは『デストラクション・シューター』で4m程の【水】と【貼】の2文字を描いた手裏剣を竜に向かって撃ち放った。
手裏剣は竜の背中に刺さり、貼りつくと共に、大量の水を噴き出し始めるのであった。
それを地上から見ていたサーミャは、すかさず『スプラッシュ・バイパー』で竜から発生する水を操り、翼を拘束して地上に引きずり降ろそうとした。
『な、何っ拘束された! なぜ我から水が――』
竜は動きを封じられ地上に引きずりおろされそうになるも、悪あがきで息吹を地上に向かって放ち反撃を試みる。
(そっか、槍の攻撃は地上から打ち上げられたもの……だから、私たちが空に居て攻撃を仕掛けたと思われてない?)
(そういうこと、誉美の機転のおかげで助かったよ)
そしてサーミャがほぼ地上まで引きずり降ろした瞬間、ロザリナが『シャイン・プリズン』を放ち首から上を光の檻で拘束し息吹の攻撃の自由を奪う。
「ルナぁ、いいかよく聞け~」
「今から、あいつの口をこじ開けてやるからなぁぁ~っ」
『何を企んでいるっ! 開けろと言われて開けるわけがないであろうっ!』
(みんな、俺の考えてることがわかるのか?)
(いや誉美だな)
(さすが息ぴったりじゃない)
(で、口をあけさせてどうするの? 『デストラクション・シューター』じゃ爆弾は撃ち出せないわよ?)
(まずは、ルナは少しでも口が開いたら手裏剣をぶち込むだけでいい)
(それじゃ……)
(大丈夫さ、ミヤ達が作る隙を見逃すなよ)
竜は、胴体は『スプラッシュ・バイパー』、首から上は『シャイン・プリズン』で拘束され地面でのたうち回っていた。
そんな中、ルティーナは口元を狙って『デストラクション・シューター』を構えていた。
そしてサーミャの攻撃に耐えられず竜が思わず口を数センチ開いた瞬間、2mほどの【爆】を描いた手裏剣を連続で、その口の隙間を狙って撃ち出すのであった。
光る手裏剣が飛んでるくことに竜は気付いたが、口の中に手裏剣が近づいた瞬間、馬琴は起動したことで大爆発を起こされ、たまらず口を大きく開いてしまう。
すかさずルティーナは急降下し、単純に手のひらぐらいの【爆】と【大】を何個も重ね書きした小さい爆弾のまま、竜の口にうまく放り込み、何をされたか理解できないまま飲み込むのであった。
それを確認した馬琴は爆弾にもともと仕掛けていた漢字をすべて解除し、もとの大きさに戻した上で、先ほど描いた漢字を『起動』し最後に爆発させた。
すると竜の口の中から大爆音が聞こえ、喉下が裂け緑の血が大量に噴き出し、虚ろな目をしたまま地面に倒れこんだ。
その瞬間、エリアルは大剣を氷の刃にし首元に刃を突きつけた。
(? マコトっ勝ったの?)
(でもなんで? ちっちゃい漢字なのに、あんな大爆発が起こせたの?)
(誉美がエルの槍を伸ばしてただろ?)
(?)
漢字の『能力』は触れている間に漢字を大きくできるが、それができない状況下では、漢字を重ね描きすることで、例えば【大】であれば倍々で大きくすることができたのだ。
(そっか、だから同じカンジばっかり言ってたのね)
(それならもっと大きくしてやれば……)
(いや、殺しては聞きたいことが聞けないからな)
そしてルティーナは姿を現しながら、空から降りてくるのであった。
『そ、そうか、貴様……姿を消し……て飛んで……いたのか……なんなん……だその能力は……』
『我に質問す……る権利はないか……くそ、我の負けを……認めよう……』
「さぁ約束通り、いろいろ聞かせてもらうわよ」




