224話 不吉
ルティーナ達は、デーハイグから勇者暗殺の真実を聞き、思っていた内容と異なり、暗殺指示は出ていたが当時の隊長はそれに反して助けたかったという真意に安堵するのであった。
だがデーハイグは――。
「私は、息子ドグルスが勇者ナガアキにかかわっていたことを知ってしまった」
「本来であれば、『勇者が牙をむいた』とはこのことだと理解したのですが、当時の暗殺部隊はノキア王を乗っ取っていたタイヘイの掌握下にあり動かすこともできず、そして今ではダブリスのみ……」
「本当にどうすることも出来なかった……」
「そこで、私たちを」
デーハイグはルティーナ達に完全に甘えてしまったことを謝罪していた。
彼は、もしかしたらルティーナ達が説得し、昔の勇者としての志を持っていた頃の長明に戻ってくれるのではないかと心では願っていたのであった。
「結果的に、ロザリナ様を命の危険に負わせる羽目に……謝罪しても――」
「……いえ、もともと私が犠牲にならないとナガアキの居場所にたどり着けなかったので」
「でも、おじいちゃん達を暗殺しようと誤解して、睨んでしまってごめんなさい」
「(……『達』?) いえいえ、お気になさらず」
「話は変わりますがノキア王、ここまで来れば薄々気づかれていらっしゃいますよね」
「厄災を倒した後のマコトの扱いと、ナガアキが牙を向いた理由――」
「ああ、先々代の王は、召喚した勇者達を自分の世界に戻さずに、それどころか暗殺しようとしたからよの」
「そうですね」
ルキア王もデーハイグ同様、嘘は見抜かれることを前提で正直に話を始める。
彼は『勇者召喚の儀』の際にヘルアドから『召喚』ができる息子が居れば、元の世界にも戻すことができると聞いていた。
「では、マコト達を無事に召喚できたら――」
「もちろん、討伐が終われば元の世界に帰すつもりだったのだよ……あの事件さえなければ」
結果的に『勇者召喚』を妨害され、ヘルアドと息子は爆破に巻き込まれ亡くなってしまった。
つまり、元の世界に戻す方法を失ってしまったのだ。
だが、勇者召喚は結果的に成功し、一時は朝時に精神を乗っ取られた自分を、馬琴達が憑依したルティーナとエリアルに助けられ、勇者の存在の事実を知った時、元の世界に戻す方法がないことに絶望していたのだ。
「結局、元の世界に戻せない事を解っていながら、お前たちに甘えていたのは事実だ――」
「なっ! てめえっ、それじゃ――」
「サーミャ様っ、私の話を聞いてください」
「な、なんだよダブリスっ」
それまで黙り込んでいたダブリスが口を開く。
ノキア王には確証が取れるまで黙るように言われていたが、責め立てられ始めた彼に黙っていられなくなったのだ。
「誤解なさらないでください。ノキアもただ甘えていたわけではないのです」
「タイヘイから救われた後、ノキアは貴方たちを元の世界に戻す別の方法……つまり召喚士の捜索を私に指示していたのです」
「そうだったんですね……」
「すまぬ……ぬか喜びさせる訳にもいかなかったので話せなかったのだ」
(ちゃんと、それなりに考えてくれてたんだな)
「……感情が先走っちまっ――いえ、しまいました」
「気にするでないサーミャ、お主はハーレイに似て王様相手でも気にせぬのだな」
「も、申し訳ございません」
(ねぇエルちゃん? 私、話について行けないんだけど……元の世界に戻れるんだよね?)
(えぇ、今は王の真意を確認していだけですので)
(最悪な結果になろうと、僕達がちゃんと帰してあげますから)
しかしダブリスは今時点でも、召喚士の素質を持つ人間はどの国にも存在していないと報告する。
今後、生まれる可能性もあるが、そもそも反発する属性『光』『闇』『無』の3つを使える人材はそうそう居ないという。
「あぁ~それなんだが、あた――いえ、わたしが出来ます」
「「「!」」」
「なんだ親父の野郎、言ってねぇのかよ!」
「ノキア王の考えがわかったから、言ってもいいよな? ルナ」
「うん」
サーミャは、闇魔法を得た時に、自分の因子に存在していた母サフィーヌの無属性魔法が目覚めたことを説明し、転移転移魔法を使う時同様に、他の媒体を利用して光魔法を補えば召喚魔法が使えると。
「そうか、魔法を補うという考えがあったか」
「それであれば、2属性が使える人材を探すことで済んでいたのか……だが、こんな近くに探し求めていた人材がいたとは」
「……これは、ありがたい」
「これで勇者達を元の世界に戻してやれることができる! ありがとう、本当にありがとう」
(昔の王が、今のノキア王みたいな方なら良かったのに……)
「でも当時の王は何故……」
しかしデーハイグは暗殺部隊に入隊した時には、すでに召喚士という人間は存在していなかったと語る。
つまり、勇者召喚したはずの召喚士が居なかったということだ。
「どういうことだ?」
(春斗さん達が討伐する前にその召喚士が居なくなった? だから、抹殺するしかなかったのか?)
当時の理由はわからないままだが、召喚士の目途が付き一安心するノキア王であった。
だが、ルティーナから正式な回答がもらえておらず、しばらく全員の会話が止まってしまう。
そしてルティーナは皆と相槌をし口を開く。
「ノキア王、マコトも黒竜討伐に力を貸してもいいと言ってくれています」
「そ、そうか、ありがとう勇者マコト」
「あと1つだけ」
「僕の中にいるトモミさんも意識を持つようになったのでご報告させていただきます」
「なんと!」
「この場を借りて謝罪させてもらうぞ、本当に申し訳ないことをした。ゆるしてくれ勇者トモミよ」
(ゆ、勇者なんて……そう改めて言われるとはずかしいわね)
「彼女も、今回の件に協力すると言ってくれています」
「そうか、ありがとう。まだ見ぬ勇者達よ、心から感謝する」
「討伐の件、報奨金はもちろん弾まさせてもらうが、それだけでも足りぬぐらいだ! なんなりと条件を言うがいい! 国をくれてやってもよい!」
「ノキア王~報酬の規模がおかしいですよ」
「「「「あはははは」」」」
(それだけ嬉しいんだよ。俺達が協力してくれるって事が)
しかし、シャルレシカが難しい顔をしならが和んだ場に割り込む。
彼女は馬琴と誉美を2人から再召喚するために、純粋な『サモナー・ストーン』を探し出す必要があると告げ、自分の占いでは探せないのでなんとか情報収集をしてほしいとダブリスに依頼する。
だが、ダブリスは『サモナー・ストーン』は召喚士にしか見分けがつけられない事と、仮に原石を掘り起こしたとしても、それが『サモナー・ストーン』かどうか鑑定するしかないと現実を告げる。
「私、鑑定もする事が出来ますぅ」
「! 凄いじゃないか! (これほどの仲間に恵まれておるとは奇跡だぞ)」
「それなら場所の目途が立てば……ダブリス頼むぞ」
「――はっ」
(えっ! 初耳なんだけど)
「シャルが鑑定?」
「はいぃ、出来るようになりましたぁ」
「何時の間に……(そっか1人で行動したがってたあの時に?)」
「黙っているつもりではなかったんですがぁ~、ドタバタしてたんでぇ」
「そ、そうだよね」
(しかし『サモナー・ストーン』は簡単に見つかると思っていたが……誤算だった)
(でもシャルがなんとかしてくれるよ、きっと!)
(そうだな、ありがとうルナ)
「では私達『零の運命』は、半年後に復活する黒竜討伐までに――」
バタンっ(扉を開ける音笑)
「大変ですっ、国王っ!」




