222話 今生
ルティーナ達はついに誉美と意識が繋がるようになったエリアルの力試しと言わんばかりに、外で盛り上がっているサーミャとロザリナの模擬戦に割り込みをすることにした。
春斗は自分を軽くし、エリアルに抱きかかえてもらいながら、爆発音が鳴り響く村の広場に赴くのであった。
「な、なんなの? この人だかりは?」
ドカーンッ! カキーンッ! ボフッ!
「はぁ~い、皆さ~ん! 危ないですからぁ~もう少し離れてくださいねぇ」
「シャル? あなた、何をやってんの?」
広場ではサーミャとロザリナが戦う姿を楽しそうに村人たちが見守りながら盛り上がっていた。
シャルレシカは、アンハルト達と一緒に観客が怪我をしないように警備をさせられていた。
「ミヤとリーナが戦ってるのを見て、村人が楽しそうに歓声をあげてますよ」
(それ以前に、あの二人……いつになく笑顔だな)
(ぷっ)
「ほほぅ、もう使いこなしているのか? ロザリナ」
「「「「「おぉ! エリアル様もいらっしゃるぞ!」」」」」
そんな中、村人たちはそこに現れたエリアルを、模擬戦の場に担ぎ上げようとしていた。
エリアルは以前、アジャンレ村にスレイナが魔物を率いて襲撃してきた時に村を守った戦士として、そして今回も身を挺して村を守ってくれたロザリナと共に、崇められていたのだ。
もともとそのつもりだったエリアルは、大剣と斧の二刀流で2人の中に割って入るのであった。
(ねぇエル、私達戦うの? で、あの2人が、さっき言ってた仲間なの?)
(そうですよ。金の髪の子が魔法使いサーミャ、赤い髪の子が回復士兼格闘家ロザリナ、そこであたふたしている緑髪の子が占い師シャルレシカです)
(僕たち5人で、通称『零の運命』って呼ばれているんですよ)
(凄いわ! 綺麗……あれが魔法なのね)
(面白そう~! エルちゃんっ行きましょ)
「エルも行っちゃったよ……私も行っちゃおうかな?」
(まったく、うちの連中は戦闘狂しかいないのかよ)
(トモミさんもノリノリなんじゃないの?)
(げっ)
「ところでハルトさん、リーナの手が光に包まれてる? でかい拳に見える? あれが奥義?」
ロザリナが伝授した魔法は『シャイン・デベロップ』という、好きな部位に光の膜を集中させまとうことで、刃や巨大な拳にすることができ武術が得意な彼女には相性がいい魔法であった。
そして、その魔法を駆使して乱舞するロザリナと、あらゆる魔法を放つサーミャ、そして今まで以上の効果と威力が向上した武器を操るエリアルの三つ巴の闘いが繰り広げられていた。
「お姉ちゃん達、楽しそうに戦っているね」
「ルナはやらないの?」
「私は、流れ弾からおじいちゃんたちをまもらなきゃだから、今日は見てるわ」
「それにしても、村人達も魔物被害に逢って、さらには家もめちゃくちゃにされて疲弊しているかと思ったけど……」
「そうだな、くったくのない笑顔だ!」
「……お前達はみんなを笑顔にできるんだ! この世界の事、頼んだぞ(……後は託したよ)」
「?」
「気にするな――って! ロザリナっ、後がガラ空きだぞっ」
「大丈夫です、おじい様っ」
(リーナも、家族に応援されて嬉しそうだね)
「きゃっ! (と、トモミさん、それは火ですよぉ~っ)」
「エル~っ! やるな! 言った技と違う攻撃するなんて! 頭いいな」
「それとも、斧を使ってるからか?」
(『ソード・オブ・プラズマ』? そっか【雷】か……エルちゃん、ごめんね)
誉美は意識が無かった時に力を貸していただけにすぎず、意識をもってしまったためにエリアルの掛け声を理解して漢字を展開する必要があった。
馬琴の場合は、自分が指示してルティーナに動いてもらっているので完全に挙動の順番が逆になっているのだ。
(威力は上がったけど、トモミさんと連携が必要になるのか……)
「あはははエリアルはまだまだ、特訓が必要そうじゃな」
「ワシに大剣を貸せ、混ぜてもらおうか?」
「お、お父さんまでぇ」
(なぁ真帆、これで俺達の役目は終わったな)
(そうね春斗、最後にこんな素敵な人たちに逢えてよかったわ……)
(あぁ頑張って黒竜を封印した価値はこの世界にあったんだね)
そして彼女達は日が落ちるまで戦いにあけくれ、それを見守る村人達は辛いことを忘れ、まるで祭りの催し物を観るかのように楽しんでいた。
その傍らで、一部の村人が宴会の準備を始め、その勢いで村の復興祭りを執り行うことにまで発展してしまった。
そして、みんなのこれからの幸せを願いながら、ひと時の宴に安堵しつつ、楽しい一日は夜遅くまで続いた。
――翌朝、夜明け前。
「る、ルナぁ起きてくださいぃ!」
「むにゅ? どうしたの? なんでシャルがここに? あ、そうか、今夜は一緒に寝てたんだっけ?」
「もう少し寝させてよ~まだ夜も明けてな――」
「は、ハルトさんとぉマホさんの気配がぁ……生命力を感じないんですぅ!」
「!」
(!)
昨日まで元気だったはずの二人は、とても幸せそうな寝顔をしたまま亡くなっていたのだ。
「そ、そんなっ、おじい様っ! おばあ様っ! 目を開けてよ!」
「嘘だよね? ねぇっ! ねぇってばぁ!」
「『シャイン・レスト――』」
「落ち着けっ! リーナっ!」
「気持ちはわかるが……幸せそうに眠っているんだ」
「そのまま逝かせてあげよう」
「う、うっ~、き、昨日はあんなに楽しそうだったのに……宴で……うっく……一緒にご飯食べながら、私の話を聞いてくれて……笑ってくれたんだよ……」
(……リーナ)
(本当に遺言だったなんて、そんなのないよ)
(寿命が短いのは察していたが、昨日は相当に無理をしていたのか……)
(私達に最後の力を振り絞って、この世界を託してくれたってこと?)
(そうだな……)
(俺達で黒竜を絶対倒して、ハルトさん達を安心させてあげような)
(う、うんっ)
二人との突然の別れに動揺していたロザリナであったが、みんなに励まされ徐々に冷静さを取り戻していた。
夕方にはバルストとグルバスが立派な墓を村の高台に作り、春斗と尼帆は、みんなに見送られ埋葬されるのであった。
そして、悲しみが収まる間もなく翌朝――帰国する日を迎えるのであった。
「ロザリナ、元気を出すんだ。笑顔で居ないと2人が悲しむぞ」
「墓守は俺がちゃんとやっとくから、安心して戦ってこい!」
「ありがとうございます。バルストさん」
「(お父さんとお母さんの遺骨も、ここに連れてきてあげないとね)」
「まかしときな」
「それじゃお父さんお母さん、みんなを連れてノスガルドに戻るわ」
「後はよろしくね」
「たまには遊びに来てくれよ」
「はいはい」
「それじゃミヤよろし――」
「おい、ルナあれ見ろよ」
「?」
孤児院には、村人全員がルティーナ達に別れと感謝を伝えようと、ごった返していた。
「「「「「「「「「皆さーんっ! 本当にありがとうございました!」」」」」」」」」
「「「「「「「「「また、来て下さいっ」」」」」」」」
「ルナぁ~、さっさと魔物倒して村に戻って来いよ、嫁にしてやるからなぁ」
(ぷっ、相変わらずだなフラザンは……ヘレンにちょっかい出してたくせに)
「「シャルお姉ちゃんっがんばって」」
「はぁ~いっ! まかせなさぁ~い」
「「「サーミャお姉ちゃん、ロザリナお姉ちゃん、エリアルお姉ちゃん! 今度はいっぱい遊ぼうねぇ」」」
「「「あぁ! お土産、いっぱいもってくるから」」」
「「「「『蒼き閃光』の皆さんも是非、遊びに来てください」」」」」
「「「「「もちろんっ」」」」」」
「「「「「「「「「では、討伐、ご武運をっ」」」」」」」」
「「「「「皆さんっ! また来ますからお元気でっ」」」」」
そして、サーミャを軸にみんなが掴まり、ノモナーガに居るハーレイのも元へ転移するのであった。
二人の老人の笑顔を胸に。




