220話 覚醒
ロザリナと尼帆が修行の為に部屋から出て行った後、春斗は真剣な表情で、ルティーナたちの漢字の力……刻印魔法のことをどれだけ理解しているか確認をした。
(こ、刻印魔法か……そう呼ばれていたのか、しっくりくるな)
(なんか、かっこいいじゃん! 魔法だって! 私、魔法使いで登録できるんじゃない?)
(それはいいとして、彼はどうやって『能力』を理解したか聞いてくれ)
ルティーナが問うと、春斗は召喚された時、既に知識の中にムルシア語を勝手に理解したように、『能力』の使い方も全てわかっていたという。
つまり、馬琴は正しく召喚されなかったために、知識なく偶然、『能力』に気づいたのがきっかけだったに過ぎないのだ。
ルティーナは、今までに使った漢字や効果や条件について認識している範囲を伝えた。
春斗は、彼らの漢字の使い方はほぼ認識している通りで間違いは無かったが、それを独学で理解した事に驚いていた。
一連の認識を確認したところで、使ったことの無い漢字や使えない漢字についての知識を授けた。
(そうか、やっぱり【死】とか【殺】や【滅】は使えないのか……『起動』しても何も起こらないはずだ)
(そんなに都合がいい漢字だったの?)
(あぁ、漢字の意味合いなら瞬殺できる)
(え、もったいない!)
春斗の結論としては、馬琴の想像通り、普通に竜に長時間触れることはまず無理であるため、巨大な漢字で攻撃することはほぼ不可能だと言う。
だが、自分たちとの闘いとは違い、仲間に勇者級のサーミャが居ることは確かに有利だと言う。
(やはり、ミヤの時間停止が鍵か……)
「でも時間を止めなくても、致命傷近くまで追い詰めたんですよね?」
「あぁ、やつの甲羅を弱らせて、今からロザリナに伝授する尼帆の光魔法で貫いたり、長明の剣撃で……結局、持久戦になってしまったけどな」
(赤竜も相当甲羅が硬かったからな、それ以上だったら実質、詰みだな)
「だが、有効な漢字もある」
「!」
春斗が言うには、【脆】という漢字が一番効き目があったらしく、強度な皮膚を弱体化させることができ、そこへ皆の攻撃を集中させじわじわとダメージを与えたという。
ただし、一瞬、手で触れるのが精一杯だったため、実際は子供だましみたいな攻撃にしかならなかったようだが、サーミャのように時間を止められれば大きな弱体化ができると。
「俺たちはできなかったが、ルティーナ達ならいけるかもしれないぞ」
「ありがとうございます。なんか頑張れる気がしてきました」
(一応、持久戦対策を考えておかないといけないな)
しかし、ルティーナと春斗が盛り上がる中、エリアルは2人の会話に入れず黙り込んでしまう。
その様子を察した春斗が話しかける。
「確か、トモミさんだったか? 今でも、エリアルと意識が繋がらないんだよね?」
「はい」
「彼女の意識が繋がれば、君はもっと強くなれるぞ」
その理由は、エリアルは発現した能力を、なんとなくでしか使いこなせていないのではないかと指摘された。
つまり、ルティーナは自分で漢字の意味がわからなくても、マコトが操ってくれるから巨大な力を発揮できるのだと。
「つまり、トモミさんの意思がこの剣に乗れば……」
「そう、出来る確証はないが、彼女の意識を呼び起こしてみたいのだが――」
馬琴は誉美の意識が覚醒するかも知れないという言葉に、複雑な気持ちを感じていたのであった。
(どうしたのよマコト? トモミさんの意識が戻るって嬉しくないの?)
(そりゃ、嬉しいさ……でも)
(俺とは違って、今までの実践経験もない状態で、いきなり最終決戦に巻き込むなんて)
(そっか、私も嫌かも)
(だけど、このままでは黒竜戦の勝率は低い……何も知らないほうが誉美の為なのか)
(マコト! 絶対、勝つんだよね?)
(! 俺が弱気になったらだめだな……ありがとうルナ)
「悩んでいるのかい? マコト君」
「彼女をこの戦いに巻き込んでしまうことを――」
「いいえハルトさん、大丈夫ですと言っています」
「今の君たちなら、そうサーミャが居れば、召喚石を用意すれば外に出られる」
「そして現代に戻してもらうことができるだろう」
(ナガアキの言っていた通りだ、その方法で元の世界には戻れるのは本当みたいだな)
(……)
「もしマコト君、トモミさんの安全を願うなら、そのまま帰還する選択肢を選んでも、誰も文句は言わないだろう」
「そうだろ? ルティーナ、エリアル」
「そうね、今までいっぱい助けてもらったんだもんね」
「マコマコは本来被害者なんだし、後は大魔法使いのミヤと聖女リーナと大占い師シャル、そして、アンハルトさん達が居るんだから……」
(強がりを言うなよ)
(本音だよ!)
(俺がいなくなったらこの『能力』が使えなくなっちゃうだろ)
(そ、そうなっちゃったら、私は戦力外だけど……)
「ルナ、僕と同じことを考えてるね?」
「トモミさんが居なくなれば、僕もただの剣士になって役に立たなくなってしまいますが、彼女には今まで助けてもらったお礼がしたい」
(まったく、お前らは)
(誰もまだ見捨てるって言ってないだろ?)
(イスガ王の返答次第でどう動くという話はあるけど、もし最悪な結果だったとしても、絶対! 見捨てない!)
(ま、マコトぉ~ありがとう)
(そういうことだ)
(それじゃ、頼んでもらっていいかい?)
「ハルトさん、マコトがお願いしますと言っています」
春斗は小さくうなづき、エリアルを寝床に呼び寄せ額に手を添え、【憶】を描き移した。
そして『トモミ! 目覚めろと!』と声をかけ、続けて『起動』を叫んだ。
――しばらくすると、エリアルの意識の中で何かが呼応するのであった。




