216話 悪ノ終焉 ~後編~
長明は自分の事実と現状をルティーナ達に語り続ける。
彼の狙いは、馬琴を不安にさせ心理を狂わせようと目論んていたわけでなく、その話を聞かされたルティーナ達の不安を増長させる事であった。
「お前が、春斗の『能力』を使ってサーミャさえ操れば、危険な目に合わず、守る価値もないこの世界を見捨てて逃亡ができるぞ」
(! 人を操れるだと? 漢字で?)
(確かにハルトさんは、相手の記憶を操作したと言っていたな……)
(……)
「!(あたいを操る? マコマコが?)」
「!(僕の中にいるトモミさんにも、その力が? でも、彼女も僕を見捨てるなんてしないよね?)」
「!(私たちを見捨てて逃げるなんて!)」
「!(マコマコはぁ……そんなことぉ……)」
「それでもお前たちは、この出来損ない勇者に協力できるのかな?」
――馬琴がそんなことが出来るという事実を聞かされ疑心暗鬼になりながらも、しばらくの沈黙が続く中、5人の顔には迷いが無かった。
「ナガアキ……残念だけど――」
「「私たちは、マコトを見捨ないっ!」」
「「「私たちは、マコマコを見捨ないっ!」」」
「私達はマコトと協力して、必ず黒竜を討ち倒し平和な未来を作って見せるわ!」
「そして僕達は、必ずマコトさんとトモミさんを自分の時代に戻してあげて幸せになってもらうんだ!」
「私にはぁ、この先のみんなが幸せになっている未来が見えているんですぅ」
「てめぇ何を言い出すかと思えば、マコマコが最初っからそんなこと出来るなら、危険を冒してまでこんな島には来ねぇっつうの!」
「孫でも物としてしか思っていない、あんたなんかに私達の絆の深さと強さはわからないわ!」
(ありがとう皆! 俺も、お前たちの未来を、絶対、守って見せる!)
(うん、マコト……)
「ふん、つまらん……揺るがぬか!」
「だが、そう言い放ったなら、せいぜい後悔するがいい! 黒竜の力に落胆し、判断を誤ったこ――ぶはっ――」
「な、ナガアキ!」
長明は吐血しながらも、無駄話だったとうすら笑いを浮かべ、馬琴に対してルティーナ達は献身的であることを認めるが、ノモナーガ王国がどのような対応をするのか顛末が見たかったと吐露する。
「「「「「……」」」」」
(……)
「もう時間……だな」
「――この島は、さっきの火山爆発の影響で、もうすぐ反対側の火山も誘爆するだろう……」
「(いい顔だ、おまえら! 最後の手土産には十分だ)……この先、お前達の苦悩が……見れな……いの……が――」
ドゴーンっ(火山の噴火音)
長明の予想した通り、もう一つの火山が爆発を起こした。
だが、彼は不敵な笑みを浮かべながら息を引き取っていた。
ルティーナ達は後味が悪い思いをさせられながらも、長明の躯をそのままにし、崩壊寸前の八丈島から逃げるようにサーミャの転移でハーレイの元へ向かうのであった。
(あいう、最後に何を言おうとしたんだろう……)
(死に際の捨て台詞よきっと)
ギュイーンッ――
「おぉっ! おかえり、サーミャちゃんっ!」
「5人共、無事に帰って来たか! 奴の野望を打ち砕けたんだよな?」
「あ、はいっ」
「早速ですが、モルディナ王とモルデリド王にご報告をさせてもらいます」
「(顔が暗いぞこいつら、疲れならいいが……)」
「ルナリカちゃん、最後まで手伝えなくてごめんなさいね」
「体調はもう大丈夫なんですか?」
「ハーレイ様からたっぷり愛情を補給したから」
「おいっ!」
「あたいらが大変だった間、イチャイチャしてたのかよ?」
「してねぇよっ!」
「「「「あははは」」」」
最初はルティーナ達の苦悩だった顔つきも笑顔に戻り、疲れを癒す間もなくハーレイとウエンディを連れモルディナ王とモルデリド王の待つ王室に向かうのであった。
そして長明の件に関する報告を行い、モルデリド王の洗脳は解けたことを伝えた。
最後に、後日ノキア王から黒竜に関する情報交換をさせると約束をし、帰宅の準備を始める。
「私達は、アジャンレ村に寄ってから明後日にノモナーガに戻りますので、ハーレイ様は先に戻ってノキア王にこのことをお伝えください」
「わかったよ。俺は、今日中には戻るさ」
「よろしくお願いします」
「んじゃ、いくぞっルナっ!」
――そして5人はアジャンレ村へと飛び立つのであった。
(第玖章 「闇ノ孤島」編 完)
次回から、最終章 「黒竜」編 に入ります。
ルティーナ達は、長明の最後の言葉に疑心暗鬼になりながらも、ノモナーガ王国への疑いが強まるなか黒竜の討伐に協力できるのだろうか?




