213話 紅ノ焦熱
馬琴の機転により、ルティーナから追い出された長明はそのまま地中で息をひそめていたが、手詰まり状態に焦りを感じていた。
元々、高齢だった長明では、いくら勇者の闇魔法を駆使しようが戦える体ではないため、最悪は魔物化の薬で戦うと決めていた。
だが、デルグーイは早々と羽を失い、有利な空に飛べなくなり、更にはルティーナを洗脳する魔法を使うために『マジックシール・ストーン』の首飾りを捨てたことで、シャルレシカには居場所を索敵され、サーミャの攻撃にも対応できい状況に追い込まれていた。
そして、長明の切り札は残り1本の魔物化の注射器のみであった。
「地面を広範囲で【硬】で固めておくから、ヒビが入る場所を見逃さないでね!」
「しかし、あれから2分経つが……奴は何を企んでいるんだ」
(まさか、もう、この辺りには居ないのか?)
(この島からは出られないでしょ? 周りは海だし)
(そうだね。逃げられないなら何をするつもりだ? もう不意打ちは通用しないぞ……)
長明の次の動きを警戒する中、洞窟で分断されていたサーミャ達が合流する。
サーミャは、今回の敵が敵だけに戦場への転移は危険が伴うと判断し、瓦礫に再び穴をあけ自力で抜け出してきたのであった。
「遅くなってすまねぇ、リーナに怪我を治してもらって遅くなっちまった!」
「ルナ、あいつは! あの野郎はどこっ!」
ロザリナは強がってはいたが、さすがに食事なしで2日間も拘束されていたため、体力は完全に回復していなかった。
馬琴は、長明がロザリナには攻撃してこない事はわかっていたが、ここに5人固まるのは棄権と判断し、早速、シャルレシカに索敵をさせる。
「あいつ、石を……」
「大丈夫、もう捨ててるわ」
「そうか、それならお礼が出来るってことだな! あんにゃろっ!」
「…………」
「どう?」
シャルレシカは『エクソシズム・ケーン』を借り10km索敵を行うが、長明らしき気配は見つからず、後方の1kmあたりでデフルウやデーアベがうろついているぐらいだと言う。
「右側の1km~2kmは、まったく索敵ができないですぅ……その先はぁ火山ですねぇ」
(――そうか、もともと設置している『マジックシール・ストーン』の領域まで逃げたってことか!)
(でも、そこって)
(あぁ、魔物が大量に潜んでいる可能性がある……それに日も昇っちゃってるし、デグルーイが居るとやっかいよね)
(これじゃ、ジリ貧だ――)
――ドゴゴゴゴーンっ(火山の爆発音)
「な、なんだ!」
「見ろ、あの山が噴火しているぞっ!」
突然、2つの火山のうちの1つが噴火を起こす。
ルティーナ達は地響きと揺れの中、火山の頂上からはマグマが噴き出し溶岩が辺りに降りそそいでいた。
(まさか、あいつ……火山を…)
長明は地中を掘り進み、火山の麓に仕掛けていた爆弾を爆発させ噴火を誘発した。
それにより、『マジックシール・ストーン』で気配が消されていた魔物達が避難するようにルティーナ達の元へ集まり始める。
シャルレシカの索敵では50、いや100近くの魔物が近づいていると皆に警告する。
ルティーナは、地面に両手を付き右側に向かって【斬】と【棘】を出来る限り大きく漢字を描き続けていた。
「おっ、久しぶりにアレをやるのか? リーナはこっちに居るし、ナガアキを巻き込んでも問題ないしな」
(漢字の大きさが1km超えると破綻しちまうから、12、13、14っと! 手を放してっ)
(そうだったね)
(さて次は……)
(2重描きするの?)
(それをやると、描いた漢字が砕けて相殺されちゃうだろ? この技とは相性が悪い)
(別の準備さ)
(?)
「デグルーイには通用しないから! 任せたわよ、ミヤ、エルっ」
「あいよ」
「任されて」
そして、1分ほどして火山灰とマグマから逃げ惑う魔物達の姿が目視でも見えてくるほど近づいてくる。
「来た来たぁ!」
(まだだよ、もっと近づけてからだ……)
「デグルーイは20、いや30ってとこか? あっちには巣でもあったのか?」
「それじゃルナ、好きにやらせてもらうぜ! 5倍『フィフス・エクスプロージョン』っ!」
「僕も大剣の風の刃を浴びせてやるっ!」
「ルナっ、カンジの範囲外から数匹寄ってきてますぅ」
「こっちは私にまかせて!」
「無理しないでリーナ」
「あいつのおかげで怒りが消化不良なのよ! やらせて!」
4人は力を合わせて大量に攻めてくる魔物をことごとく退治していた。
その頃、長明は――。
「(最終手段だったが、あいつらに無駄な力を使わせることができたか?)」
「(だが、この地震はおさまらんか……地上はマグマや火山灰に汚染され始めているだろう)」
長明は、このまま地中でやり過ごすにしても火山噴火の影響で安泰とは言えなかった。
仮にこの場から逃げられたとしても、自分の手足となる駒もない状況で、再びロザリナを誘拐することは不可能であり、結果的に、転身魔法する『ダーク・リージューヴィネイト』の野望は崩壊していた。
彼は老体であったため、今後の活動もままならないと決断し、死を覚悟してルティーナ達を道連れにすることを選んでいた。
そしてルティーナ達は魔物達をすべて倒し、シャルレシカは再び、長明の索敵を始める。
「ルナっ、魔物は払いのけたが、火山灰とマグマが見えるほど迫ってきているぞ! どうする?」
「ミヤっ! 『スプラッシュ・バイパー』をお願いっ」
「おいっ、水源がなきゃあの魔法は――」
「水なら、いっぱいあるわよ」
「?」
ルティーナがうっすら笑ったと同時に、足元から大量の水が噴き出すのであった。
(それでさっき、トゲの反対側にミズを描いてたのね)
「さすがだ、なら円了なく――5倍の『スプラッシュ・バイパー』っ『スプラッシュ・バイパー』っ! 2匹の大判振舞いだぜっ!」
「マグマと勝負だっ!」
そしてルティーナはすかさずボロボロになっている地面に向かって両手を置き、マグマの方向に向かって【凍】と【皹】を描き広げるのであった。
サーミャの『スプラッシュ・バイパー』で水浸しになっている地面はマグマと癒着し、そこを冷却することでマグマの速度は落ち、そこで大地にひび割れを起こし地面を陥没させるのであった。
「ミヤっ、あそこから『アース・クエイク』で海まで道をつくって!」
「お、おぅっ、5倍の『アース・クエイク』っ!」
馬琴の目論み通り、ルティーナ達の目前でマグマは方向を変え海に向かって流れ始め被害を回避することができた。
一方、シャルレシカは長明を探しているが、索敵ができない場所がないにもかかわらず半径2km以内には反応がなく困っていた。
「ミヤ~ぁ、杖を貸してください~っ」
再び広域索敵を再開すると、海からそれらしき反応を見つける。
しかし――。
「ん~魔物? でも、たぶんナガアキだと思うんですぅ!」
(シャルらしくない索敵だな? だが……)
「そうか! 地中から海に逃げてやがったのか!」
「シャルっ! とにかく、そいつの動きを追跡してっ!」
「う~ん、私たちがぁ最初に上陸したあたりに近づいてますぅ~」
「さぁ、みんなで決着を付けに行くわよ!」
「「「おぅ」」」
「――る、ルナぁ…………」
すると、その違和感の理由が判明する。
「ナガアキが、2、4……? 増えてますぅ~」
「はぁ?」




