212話 心ノ奥底
ルティーナとエリアルは、サーミャのこじ開けた穴から外に出ると、長明は右腕を押さえながら二人を見つめていた。
その姿は羽が完全に砕けてはいたが、堅い甲羅とハサミの防御力でサーミャの『ロック・バスター』をしのぎ切っていた。
(強がっているけど、さすがに効いたようだな……羽と右のハサミはもう使えないはずだ)
「(エルっ、一気にいくわよ! 牽制して時間を稼いでくれる?)」
「(わかった)」
エリアルは早速、小剣に炎をまとわせ、大剣には雷をまとわせ、2つの剣を同時に長明に向かって振り下ろす。
長明は魔法攻撃は通用しないと油断していたため、エリアルの攻撃をまともに受けてしまい雷撃と炎に身を焦がしながら地面に崩れ落ちる。
「よしっ」
好機と見たエリアルは地面に這いつくばる長明に詰め寄る。
エリアルが前面に出てくれるおかげで、ルティーナは『デストラクション・シューター』の準備を完了していた。
「な、まさか、今のは魔法じゃない? (そうか2人とも文字の力……)」
「くそっ、油断させられた! 貴様ら二人共っ春斗の子孫なのか!」
「竜の障害になる勇者召喚を阻止したのに、あいつの血筋が居ようとは!」
「やはり、あなたがドグルスに……それで私の家族は滅茶苦茶に……」
「こいつ……(これでシャルのおばあさんの敵討ちも追加だな)」
エリアルはルティーナの準備を長明に悟らせないため、すぐさま小剣を炎から雷に切り替え、2本の剣で雷撃を走らせる突きを放ち、注意を自分に引きつけようとする。
しかし、2本の剣撃の速度が徐々に低下し最終的に動きが止まってしまう。
よく見ると、攻撃していた剣のまわりに細い糸がからまり、雷撃も糸を伝わり外へ拡散していたのであった。
「なっ!」
エリアルがためらった瞬間、ハサミで小剣を捕まれ真っ二つに破壊されてしまう。
「『オブシディアン・ストーン』で強化した剣が、こうもあっさりと」
「ぬるいな、さっきは油断はしたがもう通用せんっ! 死ねっ――」
「エル、しゃがんでっ!」
ルティーナの声と共に怒号が鳴り響き、しゃがんだエリアルの頭の上を『デストラクション・シューター』から発射された数本のナイフが通過する。
そしてナイフは長明をかすめ切り刻むが、一本だけ右肩に命中し、硬い甲羅をものとせず突き刺さっていた。
(【雷】っ『起動』っ)
長明は体内に走る雷撃に苦しみ悶えたが、あたり構わず糸を噴射して放電しつつ、8本の足で地面をかき分け砂煙を撒き上げて、身を隠くそうするであった。
「エルっ、風の剣で砂煙を一蹴して!」
「わかってはいるんだが、この糸絡まって切れないっ」
「こうなったら大剣に、『ソード・オブ・ヴォルケーノ』っ」
(【炎】)
エリアルは炎で糸を焼き切ることに成功したが、晴れ始めた砂煙の先に長明の姿はなかった。
「逃げた? 空じゃない!」
(こんな見渡せる隠れる岩場すらないのに、逃げる場所なんて――まさか、石を捨てて闇魔法で消えたのか!)
……その瞬間、予想外にもエリアルの側面の地面から地響きとともに長明が飛び出しエリアルの大剣を叩き落とし、8本の足で羽交い締めにするのであった。
「なっ、地中から?」
「誰も、これで魔物化は終わりとは言ってないぞ」
「そう、4本目の注射……これはデルーモ――モグラの魔物――化。これで地中に潜ませてもらったのさ」
想定外の長明の行動に面を食らってしまう。
彼は羽をやられ、飛べなくなったことでデルグーイの力を解除し、左腕はデブラクのハサミはそのままで、負傷していた右腕をデルーモの土掻きに変化させていた。
そしてエリアルを人質にとり、ルティーナを挑発する。
「(そうだ面白い事を思いついた)」
長明はエリアルを助けてほしくば、今すぐ洞窟の3人を連れて来るようにルティーナに命令する。
ルティーナはそれを拒むも、長明は2分待つ度にエリアルの四肢を1つづハサミでで切り落とす言い、10分経っても帰ってこなかったら首を落とすと言い出した。
「急いだほうがいいぞぉ~さすがに首が飛んだら、さすがのロザリナでも治せないだろうなぁ……1……2……3……」
「2分なんかで戻ってこれるわけがないじゃないっ! やめてぇ――そんなこと!」
「そうか、お前は見殺しにするんだなぁ、仲間を、10……11……」
(ど、どうしたらいいの? マコト……わ、私のせいでエルが)
(ルナっ、弱気になるなっ罠だっ)
その瞬間、長明は不敵な笑みを浮かべながら、動揺しているルティーナに悟られないように『マジックシール・ストーン』の首飾りを捨て、弱みを見せてしまったルティーナに『ダーク・トランスファー』をかけた。
するとルティーナは突然、脱力したように瞳孔がひらききったまま呆然としてしまう。
「ルナ〜っあ!」
長明はエリアルを着き飛ばし、すぐさま地面に潜るのであった。
「くっ、解放された?」
「ルナっ! どうしたんだっ! ル……」
ルティーナはエリアルが近寄ってきた瞬間、短剣でエリアルに襲い掛かる。
「な、何をするんだっ! まさか」
ルティーナの攻撃をかわすエリアルに対して、地中からあざわらうような声がこだまする。
「そうだよエリアル、こいつは俺が洗脳して直接操っているのさ」
「ルナリカの手で全員皆殺しにして、こいつは最大の屈辱をうけたまま、最後は俺に殺されるのさ」
「どこまでもクズなんだっ」
ルティーナは短剣を振り回しエリアルに襲い掛かるが、エリアルは手が出せずに防戦一方となる。
しびれを切らした長明は、ルティーナを操り首元に短剣を突き立てる。
それを見たエリアルは、あわててルティーナの短剣の腕をつかみ、一生懸命『ルナ』と連呼して呼び覚まそうと頑張るのであった。
「(ふふふ、仲間を殺せないのは不憫よの。この様子だとまずエリアルは仕留めたな――)」
(ナガアキさんよ、こんな感じなんだな、ドス黒いっつうか……洗脳されてるって状態)
(俺の意識が一瞬、飛んでたよ)
「(! ルナリカの意識は……いや、男の声? どういうことだっ!)」
(残念だったなナガアキ! 俺は里見 馬琴 あんたが妨害した時に勇者召喚された男さ!)
「(そんな馬鹿なっ! それでは、このガキの能力は春斗の子孫ではなく貴様の力かっ!)」
操られるルティーナの頭の中で洗脳している長明は、馬琴の存在に初めて気づき、エリアルも同様に勇者の意識が存在していることを悟った。
(悪いな、あんたには出て行ってもらうよ!)
馬琴は、ある漢字の『停止』した。
ルティーナはモルデリドを出る時にひとかけらの『マジックシール・ストーン』をもともと5cmのものを5mmぐらいにして鞄の中に潜ませていた。
元の大きさに戻すことで、ルティーナの全身に魔法の無力化がおよぶのであった。
「(ま、まさか、貴様も持っていただと! しかも、こんな方法で……くそったれがぁぁ~っ!)」
ルティーナの洗脳は一時的に開放され、エリアルへの攻撃をやめ放心状態になっていた。
「ルナ! ルナ! 正気に戻ったんだね! よかった!」
「え、わ、私……マコト、助かったわ……エル、怪我はしてない?」
「これぐらい大したことはないよ! さぁ反撃だ!」




