211話 動ク戦況
ウエンディはさみしい顔をしつつも4人の無事を祈りながらその場から去っていくのであった。
それを見送ったルティーナはシャルレシカの索敵で、魔物の位置と索敵できない場所の情報を聞きつつ、リーナの杖の場所へ徐々に近づいていくのであった。
「リーナの杖までぇ、あと700mぐらいですぅ」
「この洞窟の中ってことだね」
(ナガアキの気配がないってことは、結界の中に居るのか? いやそれだと魔物が操れないから逆に襲われる……どういうことだ?)
(この先の杖の場所の近くに、魔法が使えない所で2人が揃って居るかもしれないな)
(それはそれで、まずいじゃん)
「みんな、これから洞窟に入るんだけど、いきなりナガアキに出くわすかもしれないから気を付けてね」
「それじゃ全員、姿を消ちまえばいいんじゃね?」
「それだと、シャル以外は仲間同士の場所がわからなくなり、逆に危険になるから却下だそうよ」
「「「……」」」
「それなら、シャルに小さくした僕たちを運んでもらったらどうだい?」
(それだっ!)
「?」
早速、ルティーナはシャルレシカ以外の3人に【微】と【軽】を描いたうえで、全員に【透】を描き、3人を先に小さくしシャルレシカの胸元に入れて、全員、姿を消すのであった。
「ってことでシャルよろしくね」
「なんでぇ~っ」
「どうせシャルしか杖の場所わかんねぇんだし、それに歩いても音がする装備してねぇしな。適任じゃねぇか」
そうしてシャルレシカはひっそり息をころしながら、リーナの杖の場所を探し求め洞窟の中を進み始めるのであった。
「……ふ~ん、私いっつもこうして皆を運んでいるんだね」
「とってもふわふわで居心地いいわ」
「「(……ルナぁ、シャルはいつも、逆の気持ちを味わってるぞぉ)」」
「ん? ミヤどうかした?」
「ん、な、なんでもえねぇよ」
「そういえば、罠なんてら張られてないよな?」
「マコトは罠はないと思うってさ」
「そうなのかい?」
「ここにリーナを連れ込む障害になるものは作らないだろうってさ」
「なるほどね」
「(し~ぃです! もう50mもないですよ)」
「(確かに、ぼんやり明るいな)」
そして、シャルレシカは最善の注意を配りながら息を殺し、明るくなっている場所をのぞき込むと、そこからさらに道が1本見えた。
と、その瞬間、その道に入っていく老人らしき存在に気づく。
「(索敵に引っかからない老人がいますぅ)」
(あれが! ナガアキ! ってことは、この先にロザリナが居る可能性が高いわね)
「(やっちまおうぜ! いくら勇者だろうが、魔法が使えない老人だ――)」
「(あいつが無策とは考えにくいわ、リーナの安全を確認してからよ!)」
そしてシャルレシカは長明の後を着いていき、拘束されてうなだれているロザリナを発見する。
しかし長明はシャルレシカの気配に気付き見えないはずの彼女を睨みつける。
「(げぇっ?)」
「(みんな、カンジを解除するから飛び出してっ構えてっ! シャルは後ろに下がって!)」
そして、4人は長明の前に姿を現す。
「ようやく会えたわね! あなたが元勇者のナガアキね!」
「くそっ、ここまで来れた知恵に敬意をくれてやろう! そして、これが褒美だ!」
長明は予想だにしていなかった状況に動揺したが、半ばあきらめ顔になりながらも、ためらいなく液体の入った注射器を3本取り出し、自らに打ち込むのであった。
「いきなり魔物化ですってっ! しかも3本?」
サーミャは魔物化される前に『クロノ・モラトリス』を仕掛けたかったが、長明の首飾りによって効果を無効にされてしまい、それを見たエリアルがすかさず飛び込み斬りかかる。
しかし、長明はデブラク化した左腕で剣を受け止め、エリアルの脇腹にデグルーイの羽を撃ち込み退かせる。
「痛っ!」
「「「エルッ!」」」
「な、なんだあの姿は!」
「背中には羽? デグルーイ? 上半身はデブラク? 下半身はデーダイパス? なの? 化け物じゃない!」
「くそっ! 血が止まらないっ」
「ミヤっ、ここは私に任せて、リーナを早く開放してエルを治療させてっ!」
「わ、わかった」
長明は、ロザリナを巻き込むわけにはいかず、そこへ向かうサーミャには攻撃できなかった。
そしてひるんだルティーナ達に容赦なく撃ち込んでくるのであったが、エリアルは負傷しながらも大剣に炎をまとわせ、ルティーナとシャルレシカを羽の攻撃から守る。
防御に集中しているルティーナ達を横目に長明は、蜘蛛の糸を洞窟上にぶら下がるつらら上の岩に巻き付けねじり切り、シャルレシカに向かって投擲し命中させる。
「ちっ」
「残念だったわね!」
「常に戦場ではシャルは堅いのよ!」
(こっちもいくぞルナっ)
ルティーナは、ウエンディに渡されたナイフとフォークにあらかじめ【爆】を描いており、長明に向かって数本投げこんだ。
命中し爆破させるも、煙の中から無事な姿で現した。
「む、無傷?」
「この甲羅はそう簡単には傷はつかない!」
「この魔物化の薬はゲレンガに人体実験で研究をさせ、最終的にスレイナに完成させた最上級のものだ」
「貴様らが今までに戦った奴らとは成分も効果も全く違う、時間切れもないっ! しかも、自分で解除を決められるのさ――」
「うっさいわね! クソじじぃ! 何をペラペラと……」
そこには拘束から解かれたロザリナが、サーミャにふらつく自分を支えてもらいながら啖呵を切っていた。
「! り、リーナ」
(怖い方の?)
「私の2人のお父さんを死に追いやった罪は許さない! しかも、その研究で得た薬を使うなんて!」
「おうおう、怒ると性格が変わるところも、あいつにそっくりだな! 2日以上、飲まず食わうに居たんだ、魔力はあり余っていても、体力は別物だ。そうそう動けないだろ? もうすこし大人しくしていたまえ」
「くっ、許せねぇ! 絶対、許さねぇっ! エルを助けたら、渾身の拳をくらわせてやらねぇと気がすまねぇっ!」
「ちゃんとリーナの分も残しておいてあげるから! 今は、エルを助けて」
「――取り乱してごめんね。『シャイン・レストレーション』っ」
「おまたせ! ルナ、あたいも加勢するぜ」
「うん」
ルティーナとサーミャの反撃が始まるが、漢字による攻撃は甲羅に防がれ、魔法もあたる直前で消失してしまう状況に防戦一方になり、ルティーナは岩の壁を作り反撃の時間を稼ぐのであった。
しかし、長明は容赦なく、蟹のハサミで岩壁を砕き近づいてくる。
(マコト、あれアンハルトさんが手を焼いた甲羅ってやつだよね)
(あぁハサミは切れ味が半端ないと言っていたな、うかつに近づけない)
(羽の攻撃もめんどくさい……蜘蛛の力はエルから聞いてたけど、あれも厄介だ)
そんな思案中に、サーミャが叫ぶのであった。
「ルナっ、こいつに魔法が利かないなら、こいつごと風穴を開けるぜっ!」
「み、ミヤっ?」
そしてサーミャは、5倍の『ロック・バスター』を放ち、巨大なドリル状の岩を、ルティーナの作った壁越しに長明を巻き込み、洞窟の壁を貫き外へと吹き飛ばした。
「ルナおまたせ、僕はもう大丈夫だ! ナガアキを追うよ――」
しかし、サーミャの魔法により洞窟に亀裂が入り、一歩前に出ていたエリアルとルティーナと、サーミャ達の間に天井が崩れおち、分断されてしまう。
「くそ、足が……ルナ、すまねぇ先に行っててくれ!」
「わかった。シャルの硬化を解除するから薬草でリーナと体力を回復とミヤは怪我を治してから追いかけてきて!」
「エル、2人で止めるわよ」
「あぁ、新旧勇者対決だね」




