21話 魔法使イ ~其ノ弐~
ルティーナは薬草採取の案件を想定を上回る日程で完了させた。
レミーナは数日でのルティーナの行為を見て、本当に無職なのが不思議に思っていた。
しかし彼女なら意外性があると見込み、自分の兄がパーティを組む『蒼き閃光』のメンバーにお目通しをする。
半信半疑ではあったが彼らは自分達の仲間であった魔法使いサーミャの行方を探してほしいと依頼するのであった。
アンハルト=オズール:金の剣士<『碧き閃光』のリーダー>
ルティーナ達はサーミャの特徴を詳しく聞き、事件に着用していた法衣を預かってその場を解散し、カルラの宿に戻るのであった。
サーミャの特徴は2年前の為、風貌は変わっている可能性もあるが、当時は金色の短髪で身長は170cm位で、瞳は黒く、今の年齢は22歳。
さらに彼女は、『白金の冒険者』に引けをとらない実力の持ち主で、5種類の属性の魔法が使える『金の魔法使い』と聞いている、
見つけ出した時の報酬が、『碧き閃光』の名前を使って仕事を受けてもいいと聞いたルティーナは俄然やる気になっていた。
シャルレシカはその人の使っているものがあれば人探しができると言ってギルドを出たが、2年前の法衣には気配が残っていないかもと弱音を吐くのであった。
「それじゃぁ始めますかぁ~この法衣ぉ~右手に持ってぇ、左手はぁ~水晶をさわるんですぅ~」
「集中するんでぇ~時間くださいねぇ~」
(…………)
(――シャル?……いつになく、近寄りがたい雰囲気~)
(そ、そうだな……たまに、あの子、天然は演技じゃないのか? って思うくらい別人な時があるよね……)
「……。る、ルナぁ~……。わ、わからないぃよぉ~」
「早っ! 無理なの? (いつものシャルに戻った~)」
「う~ん。 水晶にぃ~凄く闇がぁ~濃くってぇ~……」
「闇……?」
しかし、シャルレシカは具体的な場所は特定できないものの、モルディナ王国とモルデリド王国の間にある山脈が水晶に一瞬映ったという。
「モルデリド王国? 聞いたことがないわよ……。モルディナ王国って真ん中にでっかい山脈があるとこだよね? よくそこって解るよね?」
「そっかぁ~そうだよねぇ~。ルナはぁ知らないですよねぇ~。5年前にぃ建国したばかりのぉ国ですからぁ~」
「もともとグランデ王国ってのがあってぇ、それぞれ2つに別れたとかぁ聞いたことがありますぅ」
(2つの山脈みただけで、モルデリドとかって分かるシャルが怖い……実は頭いいの?)
「私ぃ~色々占っているからぁいろんなぁ景色や地理をぉ覚えてるだけですょ~ムニュムニュ……」
(げっ、心の声聞かれた? て、ムニュ?)
「ルナぁ……私ぃ~……これをぉ……やるとぉ眠くぅ~……」
(あっ、寝た……)
2人は翌朝、手がかりを掴むべくモルデリド王国へ向かって馬車に乗り向かうのであった。
移動中、シャルレシカはモルデリド王国の現状についてルティーナに説明をしていた。
モルデリド王国はモルディナ王国が分裂した国で、もともと2国の国王は腹違いの兄弟であり何かの事件をきっかけに国を別つことになった。
そのため国境をまたいで移動するときに手続きが大変だと語る。
「へぇ~何があったんだろうね? それよりシャルって、物知りなのね」
「モルデリドから逃げてきた人がぁ、アジャンレにぃ居てぇ悩みを聞いた事があるんですぅ~」
「それで詳しいんだぁ。その人、その事件に絡んでたりして」
「そこを詮索しないのがアジャンレ村なんですぅ」
「そっか~」
(そういう人から、普通に話が聞けるシャルが怖いよ……)
8時間ほど馬車にゆられてモルデリド王国の国境入口まで到着した。
2人は馬車を降りた後、そのまま歩きでモルデリド王国に入国するのであった。
街に入った瞬間から目の前には山脈がそびえたっていた。
それを見て今日は山脈越えは難しいと判断し、宿に泊まることにした。
「近くまで来たのでぇ~、後でもう一回ぃ占ってみますぅ~」
(2国の状況を考えると、簡単に移動する手段はなさそうだね)
(それじゃ、【翼】をシャルにも描いて、山脈超えて密入国しちゃおうよ)
(それな~、シャルが使いこなせると思うのか? ……それができたら、最初っから馬車を使わないよ)
(確かに……)
(ま、そもそも毎回毎回、飛ぶのは目立ちすぎるし、時間とか場所は選ばないと……)
(そっか! シャルをちっちゃくしちゃえばいいんだ!)
(え?)
「う~ん、ますます闇が濃くというかぁ強くなっているんですぅ~」
「ぼ~んやりぃ、小屋みたいなのはぁ見えるんですがぁ……」
「どれどれ? 水晶、私も見ても大丈夫ぅ?」
(全く、見えん……)
「――今日はこの辺にして、明日モルディナに着いたら、また占ってみてよ、シャルっ」
「明日は、日が昇る前に出かけるわよっ! だから今日は、さっさと寝ましょう」
翌朝――
(マコト、こんな朝早くどうするの? シャルをちっちゃくするって言ってたわよね?)
「シャルぅ、背中を向けてそっちを向いてね」
ルティーナは、シャルレシカの背中に手を当て、【微】と【軽】を、体を包む大きさまで描き、『起動』した。
すると、シャルレシカの体は衣装ごとみるみる小さくなっていき、約16分の1の大きさになり、重さも体が小さくなったことが相乗し約32分の1になるのであった。
「ほぇぇぇ~、ルナぁ~巨人ですぅ~」
漢字の実験の時、【小】だと物の大きさが2分の1ぐらいになった。しかし、この『能力』は同じ意味合いの効果として、漢字の画数が多いほど効果が強くなるのであった。
つまり13画の【微】は、3画の効果の4倍つまり4乗の効果がでると馬琴の読みが的中したのであった。
(え、計算ってなに? 失敗したらどうするつもりだったのよ……)
(止めるに決まってるじゃん……)
(――あははは)
「る、るなぁ~……、私はぁ、これからぁどうしたらいいのぉ~?」
ルティーナは小さく軽くなったシャルレシカを布にくるみ、自分の懐に入れ,、翼を広げ羽ばたき山脈を飛び越えるのであった。
そして山を越えると近くに森を発見した2人は、そこから入国しようと目論んだ。
が、しかし、着地しようとした瞬間、大きな布で身を隠す人影がいることに気づいた。
「あ……、見られた――?」
そして人影は、森の中に走って逃げ去って行ったのであった。




