207話 海ノ魔物
ルティーナ達は、無事にモルディナとモルデリド両国の戦争を終わらせ、兄弟の仲を取り戻させる。
そして、モルデリド王から一隻の船をもらい、長明の居る八丈島に向けて出港するのであった。
―― 一方、ロザリナは。
話しは先日の夕方、ルティーナ達がモルデリド王を救出するために奮闘していた頃、ロザリナは八丈島に到着していた。
ロザリナは『マジックシール・ストーン』の首飾りをつけられ、体は鎖で拘束され目隠しと口も塞がれた状態で、積荷の箱に入れられたままアレクサに洞窟に運ばれる。
そして積荷の中から彼女を出し、事前に準備されている椅子に座らされ鎖を撒きなおし動けなくするのであった。
「ナガアキっ、ロザリナを指示どおりにそこに縛っておいたぞ! 約束は守れよ!」
「ご苦労アレクサ。君の協力に感謝するよ」
「娘さんと奥さんに向けた刺客は撤退させた。安心してモルデリドに戻るがいい」
「……(くそっ野郎が、人質に取りやがって! もう金輪際、かかわらねぇ!) そうかい、じゃぁな」
アレクサはその場から去り、乗って来た船でそのままモルデリドに帰っていく。
長明は、アレクサの意識に介入し家族を人質に取ったと嘘をついて脅し、ロザリナの誘拐に力を貸さざる得ない状況にしていた。
そしてアレクサは用済みとして、爆散させられそのまま操舵を失った船はそのまま誰もしらない場所に流されていくのであった。
「ちっ、ロザリナを手に入れたことに浮かれすぎてしまった」
「ルナリカめ、モルデリドを……エラルに『マジックシール・ストーン』の領域に入らないように策を講じていたはずなのに……やってくれた」
「これで手駒は全て尽きてしまった……だが、あいつらにここを探す手段はもうない!」
「だが、俺のやりたいことは、この島で完結する!」
「(ナガアキはどこにいったの? ここはもうアジトよね?)」
ロザリナは、しばらく放置されていたが、アレクサを処分した長明が戻ってくるとすぐに、目隠しと口を塞いでいたものを取り除く。
「やぁ、やっと出会たね。ロザリナ、我が孫よ」
「! まさかナガアキ……(おじいちゃん)」
「満月まであと4日、残り3日そこでゆっくりしているがいい」
「(あと3日か、でも条件は揃えたわよルナ……私が死ぬのが先か、ルナが見つけてくれるのが先か……信じてるわよ)」
「しかし、本人を見るまでは噂には聞いていたが、本当に瞳が尼帆に瓜二つだな」
長明はロザリナを見つめながら不敵な笑みを浮かべ満足そうにしていた。
「(マホ……それが、私のおばあちゃん)」
「ナガアキ! 待ってなさいよ! 絶対、ルナが来てくれる……そして、あなたの野望を粉砕してみせるわ」
「ルナリカか……あの春斗の孫か……確かにあいつに似て頭が切れる、小娘かと見逃しておいてやったが、最大の邪魔者になるとは思わなかった」
「(一番重症だったあいつが生き残っていたとはな)」
「(ハルト? ルナはその勇者の子孫なの?)」
「まだその2人が、ご存命だとしたらどうするの? 逢いたくないの? 仲間でしょ?」
「ふん、くだらない」
「生きていようが死んでいようが、春斗は敵、尼帆は俺にはお前を残してくれたという嬉しさぐらいしか感じんな」
「(……この男、孫に逢えた感動なんてない……ただの道具としてしか見てない……クソ野郎だ……)」
そんな長明を目の前にしたロザリナの心には怒りと復讐心がこみ上げるのであった。
育ての父親はゲレンガに魔物化の実験に使われ殺された。
本当の親もナガアキに洗脳され、彼の手によって爆散し殺された。
「怖い怖い、何を睨んでおる? 可愛い顔が台無しだなぁ」
「あいつらも、色々頑張ってモルデリドまでたどり着いたようだが、ここはたどり着けない」
「それはどうかしらね」
「ふん、お前は『マジックシール・ストーン』で存在を絶たれ、俺の顔も知られていない」
「仮にシャルレシカがどうこうできるとしても、俺の最後の部下はすべて抹消した。つまり、追跡は不可能ってわけだ」
「……」
「唯一、俺の魔力から逃れているモルデリドから情報を探ろうとしても俺の顔は知られていないからな、サーミャで転移の目的地にすらできない」
「それ以前に、今までのシャルレシカの能力で覗こうとした者は爆散させられる様を見せつけてきたからな、うかつに手は出せずに、もがいているだろうさ」
「さらに、こんな海の真ん中の小さな島の場所がわかるわけがない……つまり、俺の野望は止める術はないということさ」
「よくもまぁペラペラと……きっとルナは何とかするから、見てなさいよ!」
長明は、ロザリナの強気の発言に嫌な予感に襲われる。
万が一、ルティーナ達が尼帆に遭遇して自分の情報を手に入れる事だ。
「(冷静に考えれば、グラデスの解呪ができるのは尼帆しか考えられない……であれば、まだ生きているかも?)」
そして長明は用心の為、『マジックシール・ストーン』の首飾りを自分もつけることにした。
特に魔法が使えなくても不自由はないと判断したのであった。
「次に会うのは3日後、採血を始めるその時まで、そこで大人しくしていろよ」
「(何をする気なの)」
一方、ルティーナ達はシャルレシカの索敵により魔物が近づいていると報告され、迎撃準備に入るが、魔物の種類が分かっていないため、出たとこ勝負の状況であった。
(海の魔物が2匹……)
(前は、船室でデスパトクオと戦ったよね?)
(今回は海の中から仕掛けてくる……同じ魔物なら地の利で優位をとられてしまう……)
「とりあえず、船は止めるぜ。1匹は、あたいが動きを封じてやるからエルが風の剣で切り刻めばいい
」
「のこり1匹は、『デストラクション・シューター』で撃ち抜くしかなさそうだけど……」
馬琴は1つだけ気にしていたことがあった。
それは陸上で戦う場合と違い、敵は攻撃をする直前まで海の中から姿を見せない。
それに足場は船の上のみであり、姿を見せないまま船を攻撃される可能性もあった。
「早いですぅ~、あと1kmまで迫ってきましたぁ~」
(やることは1つ……)
ルティーナは、馬琴の指示で手裏剣に4mぐらいの【爆】と【浮】を描き、『デストラクション・シューター』で船の前方100mか200m辺りに向かって6枚放つのであった。
そして船全体を覆うように【浮】と【|【硬】を描き、船の防御力を上げおくことにした。
「シャルっ! 300mぐらいまできたら教えてっ!」
「はぁ~い」




