206話 海ノ彼方
サーミャとウエンディはハーレイを救う手段を完全に失い、彼の命は消えようとしていた。
しかし悲しみに追い込まれた2人も元へ、爆音とともに地面に紙切れが貼り付いたクナイが打ち込まれるのであった。
「な、戦争は終わってんだ! 邪魔すんじゃ――いや、これは? ルナの……クナ――」
「なんだこの紙きれ……こ、これは」
「! さすがだぜ、ルナっ!」
「『クロノ・モラトリス』っ! 親父の時間よ止まれっ!」
「なっ、ハーレイ様が動かなくなった?」
「今、10秒時間を止めたぜ、『シャイン・レストレーション』の準備をっ!」
「でも、私には魔力が――」
ルティーナのクナイについていた紙切れには、『ダーク・コンバート』の詠唱が書かれていたのであった。
彼女が呪文を知っていた理由はどうでもよく、サーミャは躊躇もなくウエンディに全魔力を注ぎ込んだ。
「頼れるのは、あんたしか居ねぇんだ! 母さんっ! 親父を救ってくれ! 頼むっ!」
「サー……ミャちゃん、ありがとう! お母さんの愛の力を見せてあげるわっ!」
「『シャイン・レストレーション』っ!」
その様子を城の窓から見守るルティーナ達は、無事にサーミャに意図が伝わったことに安堵していた。
「――ルナぁやりましたよぉ、ハーレイ様がぁ助かりましたよぉ」
「良かった。ありがとうございましたモルデリド王」
ルティーナは、その場にいたモルデリド王が黒魔法使いであることを思い出し、『ダーク・コンバート』の詠唱を紙に描いてもらい、その紙をクナイに貼り付け『デストラクション・シューター』で打ち出したのだ。
「そうか、ハーレイを救えたか。役に立てて良かった……本当に良かった」
(本当に優しい人なんだな)
(こんないい人を操るなんて! 許せないっ)
そんな中、改めてエラルを調べようとした瞬間、彼は爆散する。
――つまり長明に証拠隠滅されていたのであった。
(くそ! ナガアキに気づかれたか! 一手遅かったか)
馬琴は長明に気づかれた事に動揺し、一刻も早く八丈島へ行かなければいけないと行動を起こす。
ルティーナはサーミャ達と急いで合流し、モルデリド王を連れ全員揃ってモルディナ王の元へ転移することにした。
早速ルティーナは2人の王に、モルデリド王を操っていた元凶について語り、今はその呪縛を解くため八丈島へ向こうことを説明した。
その話を聞いたモルデリド王は、ルティーナ達への計らいで、船を一隻手配するよう兵に指示を出してくれるのであった。
しかし、サーミャの魔力切れから回復するまで時間を要すこととなったため、一旦休息することにし翌日、急いでいるにも関わらず、あえて夜に決戦の場に赴くことにし、全員、部屋を用意してもらい休息をするのであった。
一方。モルディナ王とモルデリド王はその夜、6年ぶりの再会を果たしゆっくり今後の事を話し合った。
そして国民の混乱を避ける為に国はそのままにし、お互いの国の繁栄の為、同盟国として未来永劫、平和にしようと誓いあうのであった。
翌朝、一命をとりとめたハーレイは出血が酷かった為、最初は意識がなかったがウエンディの必死の介護で、意識を取り戻し喋れるまで回復していた。
「全く無茶しやがって! まともに動けるようになるまで、嫁さんに看病してもらってろ」
「俺は、ノキア王に報告してくるから、先に馬で帰ってるぞ」
「すまねぇなヘイガル……まかせたわ」
「だが、流石に死んだと思ったぜ」
「私とサーミャちゃんが居るのよ、見殺しにする訳がないじゃない」
「そうだな、2人が女神に見えるわ」
「でも、あの時のサーミャちゃんは立派だったわよ」
「つうかお前、今度は時間を止めたって本当か? 俺にもできるのか? 教え――」
「うるせぇ、てめぇが『ダーク・コンバート』の詠唱を最初っから教えてくれていたら、もっと楽だったんだよっ! ぜってぇ教えてやらねぇっ!」」
「ふふ、楽しそうね。お母さんも入れてよ……」
「!(かぁ~っ)」
「あの時、『お母さん』って言ってくれて、超~うれしかったわぁ」
「ごほっ、そ、そんなこと言ったか? あたい……」
「ぷっ、照れ屋なところはハーレイ様にそっくりだね」
「うるさいっ、しばくぞっエルっ」
「あたいは1人で生きていけるんだから、親父はケジメをつけろってんだ! 二度と女を泣かすなっ!」
「ぶはっ」
「「「「「あははは」」」」」
(いい親子になれそうだね)
(最強の親子の爆誕だな)
そんな穏やかな状況ではあったが、サーミャは完全に魔力も回復しており、夜に出航したのでは間に合わないのではないかと馬琴を問い詰める。
馬琴は、アレクサが2日前に八丈島に出航しており、すでに長明のもとへロザリナが運ばれていることは理解していた。
八丈島まではモルデリドの海岸から船で約8時間程で到着できる場所と自分の世界の認識で持っており、日が落ちてから出発すれば、闇夜に紛れ移動ができ明け方には到着できると。
そしてもう一つ理由があったのだ。
そして夕刻、ルティーナ達はモルデリド王の遣いから船の準備ができたと連絡をうけ、モルデリド港へ向かう。
船は風魔法を動力源として動かすことができると説明を受け、サーミャが操舵を担当することになった。
「「君たちの勝利を信じているぞ!」」
「モルディナ王、モルデリド王、お見送りありがとうございます」
「では、行ってまいります」
そして日が落ち夜空に星が見え始めた頃、ルティーナ達は八丈島に向け港を出航した。
出航して2時間、完全に暗くなり月の光に照らされながら船は順調に進んでいた。
「すげぇな船って、微量の風魔法で真っすぐ動くもんだなぁ」
「みんなが船酔いしちゃうからほどほどの速度にしてよね」
「そういえば、夜にした理由がもう1つあるって言ってたな?」
馬琴が夜にした理由は、船は海流に流さるため航海をしているうちに向かっている方角が判らなくなると、ルティーナに夜空の星を指ささせるのであった。
「星?」
ルティーナが指した星は、北極星でありそれを常に背にしながら進めば方向を見失わないと。
「そうか、あの星の位置だね」
「僕も馬で旅に出て森で迷った時に、その知識のおかげで脱出できたことがあったよ」
「なるほどな、だから夜にしたのか!」
「方向さえ間違わなければ、リーナがきっと残してくれてる目印をシャルが探せるわ」
「そうか、あの時、シャルがデブラクから見た島だけじゃ探せないけど、索敵範囲内までいければ直接、ナガアキを――」
「多分できないわ」
「へ?」
「マコトいわく、ミヤの能力はバレてるから、自分に向かって転移してくるのは対策しているでしょ」
「じゃぁ、アレクサは?」
「島には居ないんじゃないかな……とにかく、上陸させる危険性を排除している前提なんだって」
「じゃぁ、意味がねぇじゃねぇか!」
ルティーナは事前にロザリナと万が一の時の話はしていたことを説明しようとした時、定期的に索敵をしていたシャルレシカが騒ぎ出す。




