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☆見知らぬ世界で、少女のお目付け役になりました!  作者: うにかいな
第玖章 ~闇ノ孤島~

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205/250

205話 続ク不運

 ルティーナは眠らせたモルデリド王を、シャルレシカが見つけた『マジックシール・ストーン』の効果範囲に連れ込む事で、長明(ながあき)の洗脳から解放されたモルデリド王は正気を取り戻す。

そして自分が数分前に居た場所でない場所に来ていることと、遠くに側近のエラルが倒れている上、少女2人に囲まれている状況が全く理解できず困惑していた。


(手首の痣が消えたわ……)


(ナガアキの洗脳は効果が及ばないってことか?)


「き、君たちは誰だ? 離れろ! また余の別人格がっ――」


(別の人格? そうか――)


「私は、ルナリカ=リターナ。ノモナーガ王国の冒険者です」

「とにかく落ち着いてください! モルデリド王、事は急を要しております」


「うるさいうるさいうるさい! 余は呪われておるのだ」


馬琴(まこと)はモルデリド王の怯えている理由を理解した。

長明(ながあき)に洗脳を受けている者は、基本的に忠誠心があり必要な時に普段洗脳されていなくても、自分の意思で行動していた。

だが、モルデリド王のように忠誠心が無い人間は、洗脳されていない状態の時はどうするのかを疑問視していた。

たいていの人間なら、自分のやったことを覚えていないか断片的に記憶として残すことで、無自覚の自分の闇を植え付けることができると。



「直近の記憶が全くないと思います。あなたは今も『ダーク・トランスファー』で操られているのです。あなたは二重人格などではありません」


「何を馬鹿なことを! そもそも世も、闇魔法なら体得しておる! 洗脳されるわけがない!」

「それにエラルが――」


(! っそうか、痣の場所は――)


馬琴(まこと)は、ドグルスは脇腹であったが彼が元暗殺部隊であれば闇魔法の使い手であったこと、スレイナは魔法は使えなかったことを踏まえると、他の人間は不明だが、闇魔法が使える人間には完全な洗脳ができず最終的に爆散することまで出来ない可能性が高く、エラルはおそらく闇魔法が使えないと考察した。

そして、痣が発現する場所も頭から遠い場所になるなら辻褄が合うと。


(そっか! ゲレンガも闇魔法だったのかな? 痣の場所もそうだけど、余計な情報を私たちに喋ってもナガアキに殺されなかったもんね)


(なるほどな、エラルはナガアキに洗脳されてなくても動ける駒)

(モルデリド王の心理を誘導して、行動を制限させて戦争を起こさせたんだな)



ルティーナはその事実を踏まえ、エラルは魔法が使えないことと戦争の言い出し本人である事実確認をモルデリド王に取り、状況を説明した上でモルディナ王からの意向も伝えるのであった。


「――な! そんな事……」


「洗脳の件は、後でごご説明いたします!」

「とにかく今は、戦争を終戦させてください!」

「すでにモルディナ王側では被害拡大防止に動いてもらっています」


「うむ……わかった!」



 モルデリド王は、急いで兵に城から白旗を揚げさせ、停戦を呼び掛けるように遣いの者をモルディナに派遣した。

そして兵には、攻撃しなければモルディナ軍は反撃しないことを説明し、各地に配置されている『マジックシール・ストーン』を撤去または粉砕し、両国の負傷兵の治癒を最優先にするように通達した。



「あと、モルデリド王の洗脳は完全に解呪されたわけではありません」

「今は、この場所に居ることで、逃れているだけなのです」

「ですから、私たちがその権化を倒すしばらくの間、『マジックシール・ストーン』を持ち歩いていただけませんか?」


そしてモルデリド王は、自分の手に持てるぐらいに砕いた『マジックシール・ストーン』を持ってくるように兵に伝え、その間にルティーナはモルディナ王との会見をしてほしいと打診する。


「兄上……もう6年になるのか、会話するのが怖くてな、全てエラルに任せていたのだが……」


「大丈夫だと思います」

「むしろモルディナ王は、心配されておられました」


「そ、そうなのか。ありがとうルナリカ」


「失礼は承知で質問なのですが、何故、国を別つことになったのでしょうか?」


「そ、それは――」



 モルデリド王は、ルナリカに相談するように語り始めた。

自分はもともと兄を王として裏方として国を支えるつもりでいたが、6年前のある日、腹心であったエラルに海の調査に連れ出された。

しかし、そのあとの記憶が全くなく、意識を回復したと思うとモルデリド王国の国王として君臨し、すでに1か月経過していたと言う。


訳も分からない状況に、エラルに確認すると船出してすぐ体調を崩し1週間ほど寝込み、その後、モルディナ王の国家方針に異を唱え、国の西側を陣営にとり国民の半数と兵士を連れ国が別れたと聞かされ、自分が無意識でそんなことを仕出かしたような、ないような不思議な恐怖を覚え、兄には語れず弁解もできず、また何か無意識で迷惑をかけるのではないかと不安と恐怖に怯えながらも、分裂はしたが危害を加えないとうことで不可侵の条約を結び今に至ったと語った。



「――おそらく、そのエラルに連れ出された時、私達が探している男に洗脳にかけられたのだと思います」


(ここの港は、ナガアキからしたら地理的に都合がよさそうだし、グラデスさんもここから島に送られたんだろうな)


「一体、そいつは何者なのだ! そこのエラルも利用されていたのか?」


「彼はその男の仲間に成り下がっていたようです」

「この件につきましては、後日、必ず説明させていただきますので、この場では……」


「うむ、わかった」

「2国間の危機を救ってくれた君たちの言葉を信じて待つとするよ」

「だが、操られていたとは言え、世は……これから、どうすれば」


「あと、先ほども言いましたが、モルディナ王はあなたを信じておられます。むしろ貴方が王になるべきだったとまで」


「兄が……そんな事を……」



それを聞いたモルデリドは兵士から用意された『マジックシール・ストーン』を受け取ると、早速、モルディナ王の元へ謝罪に行く準備を始めた。


そしてルティーナは、眠らせているエラルから長明(ながあき)の情報を引き出そうとシャルレシカに声をかけようとした瞬間――。


「ミヤぁ……ハーレイ様がぁ……」


「親父がどうした?」


「命がぁ……消えかかってぇ――」


「おいっ! ちょっと待てよっ! ウエンディ様が居るんだろ?」


慌てふためくサーミャは単身、ハーレイの元へ転移するのであった。

そんなサーミャの目に飛び込んできた光景は……血まみれのハーレイに覆いかぶさりながら泣き叫ぶウエンディの姿であった。


「お、親父……どうして――」


「すまねぇサーミャ、こいつウエンディを守ろうと身代わりに……」


「――ウエンディ様、早く『シャイン・レ――』」


「――ごめんなさっ、サーミャちゃん……もう、それを使う魔力が残ってないのよ……今は……少しでも痛みを」


「ぶはっ」


「く、くそっくそっくそっ……馬鹿親父っ!」

「そうだ! あたいの魔力をウエンディさんに――っくそ駄目だ! 『ダーク・コンバート』の詠唱ぐらい教えてから、死にやがれっ!」


サーミャは闇魔法は覚えたてで動物の洗脳しか使えず、あくまでも時間停止と召喚魔法を使うための基盤としてしか考えていなかったのだ。


そして彼女は一か八か、『エクソシズム・ケーン』がロザリナで学習した『シャイン・レストレーション』を試みるのであったが、威力はロザリナやウエンディにも及ばず傷の再生は気休め程度にしか効果はなく、絶望の顔を浮かべるのであった。

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