2話 状況
奇妙な共同生活を始める上でルティーナの頭の中では、状況整理をしようと会話が弾んでいた。
そんな中、部屋に誰かが入ってきた。
カラーンッ!
部屋の中に、物を落とす音が響きわたる。
(え、誰?)
「えっ! ルナ?」
「あ、あなた! ルナがぁ、ルナがぁ、起きてるわぁぁっぁぁ! 目を覚したわ~」
歓喜の声を上げた女性は、ルティーナに抱きついてきた。
(えっ、お、お母さん? 目を覚ましたって何?)
母親の言葉に混乱するルティーナであったが、そこへヒゲもじゃの男が、大声を上げながら部屋に飛び込んできた。
「おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ、ルティーナぁ~ルティーナぁ~」
男は二人を一緒に抱きしめ、大泣きを始めた。しかしルティーナは喋ることも抗うこともできずなすがままであった。
あまりにも溺愛されている姿に馬琴は残念そうな気分になっていたが、ルティーナに自分の父親は極度な『娘好き』だと説明されるのであった。
身動きできないまま、熱い抱擁は一時間近く続いた。しかし、ルティーナがもみくちゃにされながら、両親から語られる当時の話を聞くうちに、馬琴はルティーナは7年近くも意識が戻らず、母親の献身的な回復魔法をこまめにかけ続けられ今日に至っていたことを知った。
しかしルティーナも自分なりに理解し、意識が回復したのは馬琴が意識に介入してくれたからだと感謝するのであった。
だが、ルティーナもだんだん当時の状況が昨日の様に思い出され、その日、『ウェンの森』にお花摘みに行った際に光る何か見つけ、それを拾おうとして崖から転落したことまでは思い出すのであった。
どうしても何を拾おうとしたのかを思い出せないことに落ち込むルティーナであったが、気にしすぎないようにやさしい声をかける馬琴であった。
だが、馬琴も冷静に考え、魔法がある世界ということを理解し、ここは異世界、つまり自分は異世界に召喚されてしまったのではないかと悩み始めるが、思っていた異世界召喚ではないことにこれが現実なのかと割り切り始めていた。
自分の考えたことが筒抜けのルティーナに、この世界の人間でないことを改めて認識されるのであった。
アンナはルティーナは今まで眠っていたことで声もまともに出せず体も動かせないことを悟り、体力をつけるため流動食を作ると、バルストと一緒に部屋を出ていくのであった。
馬琴はこの世界の事が知りたいとルティーナに求め、とりあえず自分の両親の経緯を聞かされることになった。
父親はバルスト、母親はアンナといい、共に冒険者をしていたが、結婚を期にアンナは家庭に入り、バルストは冒険者時代に剣豪異名をとったきねづかを手にノモナーガ王国の近衛兵団に入隊したのであった。
そして魔法の素質がないルティーナを、やんちゃな性格もあいまり女剣士として育てることにし、7歳のころから自分の休みの日は剣の修行に付き合っていた。
話しを聞いている内に、馬琴の中に素朴な疑問が2つ浮かんだ。
(ん? 異世界だよな? なんでルナと会話が成立してるんだ? 両親の話も理解できた? 言語は日本語なのか? そんな訳ないよな……)
(ニホンゴ? ってなに? これはムルシア語よ? これしか無いわよ)
聞いたことのない言語に呆然とする馬琴であったが、ルティーナの意識の中にいるため言語が理解できていると解釈するのであった。
もう一つの疑問は、7年という月日。
ルティーナに日の概念を問いたが、太陽が昇った時が始まりで、次の太陽が昇ると1日経過したことになるという。
そして各王国の城で時計係という官職が日を計上しており、1年を365日として管理していると聞き、自分の世界と同じであることに少し安堵した。
だが、両親は50歳ぐらいって実際の何歳かはもう覚えていないことを聞かされるのであった。
その話をしていたルティーナは、自分が18歳であることに気付くが、見た目は11歳だと馬琴に馬鹿にされ腹を立てるものの、逆に年齢を聞き返すことで29歳であることを知り、おじさん扱いしてやりかえすのであった。
そのうちにルティーナは体を若干動かせることに気付いた。おそらく、父親に1時間ももみくちゃにされたため筋肉がやわらいだのであろう。
喉の渇きもあり何か探していると、ちょうど机の上にある水壺が目に飛び込んできた。
覚悟を決め、ぎこちない動きで寝床から降りようと試みるのであった。