199話 迫ル脅威
サーミャ達が人形兵と戦闘していた頃、ルティーナ達は転移の罠が施されている分岐の扉の前に居た――。
「確かこの左の扉を開けると、ルナとリーナが転移させられたんだよね」
「そうね。同じように動作してくれるといいんだけど……」
「でも、そのあと僕達に合流するために、強引に通路に穴をあけて外に出て――」
「そう、その穴から通路に魔物化した人たちが、さ迷って侵入しているかもしれないわね」
「部屋が無事かは賭けだけど、転移した瞬間にすぐ会敵するかも知れないから構えててね」
「なるほどミヤにシャルを着いていくように言ったのはそういうことですか」
「でも、彼らを斬るのは心苦しいですが、再生されても少し大人しくしてもらうしかないですね」
「それじゃ、開けるわよ」
――予想通り、2人は転移魔法をかけられ目的の部屋に辿りつくのであった。
「あれっ、誰も居ない? 無事だったね」
「この見た事もないごつごつした物が、ルナの言っていた――」
「そう、これが壊されている可能性もあったけど無事でよかったわ」
「でも内心ほっとしたよ。魔物は入り込んでなくてよかった」
「そうだね……まぁ、何が起こるかわからないから、さっさ目的を果たしますか……たしかこれを押すんだよね?」
そしてルティーナは、馬琴の指示通りに機械を操作する。
馬琴の知識で、意外と簡単に画面の操作ができ、大陸の拡大地図を表示することが出来た。
(初めてこの部屋で見た時は、局地的な地図だったから気づかなかったが……こうして見ると確かに……北が上でないから違和感はあろけど、本当に書籍に書かれていた通りに東日本だけだな……だが、思った通り八丈島がある)
(ハチジョウシマ?)
(……全くついていけてないんだけど)
「でも、自分が住んでる世界はこんな大陸だったんだね」
「ところで、何かわかったかい? マコマコ」
「リーナを誘拐しようとした東側の海辺から、おそらく下にあるハチジョウシマ? 小さな島があるでしょ? そこへ連れて行こうとしたんじゃないかって」
そして馬琴は、シャルレシカの水晶に映っていた、グラデスが長明に誘拐された時に使われた船の国旗……モルデリド王国。
そのモルデリド王国は地理的には千葉県になり、八丈島は南房総からすれば距離も遠くないこと、そして今回のブルデーノ王国のデモに関わっていたのもモルデリド王国のギレイラであったことに裏があるとにらむのであった。
ルティーナが馬琴と話し合いをしている中、結論が出るまで待っていたエリアルであったが、部屋の外に不気味な気配を感じるのであった。
「ルナっ、何か外の様子が変だ! 奇妙な音というか? 声が……しないかい?」
「もしかして魔物はこの部屋に入れないだけで、通路には居るんじゃないのかい?」
(入れない理由はわからないが、部屋には何か加護がされているのか?)
「ところで……ルナが言うことだから気にせずに着いてきたけど、この部屋からはどうやって銅像の部屋に戻る気だったんだい?」
「大丈夫、これを見て」
「これがこの城の図面みたいなの。右上に赤い点が2つあるでしょ? たぶん、これはミヤとシャルよ」
「そうか、この場所の2つの赤い点は僕達ってことだね」
「ということは、この大きな四角いのは遺骨のあった大広間だよね? じぁあ僕達の位置から見れば……さっき転移した扉はあれだね?」
ルティーナは、この部屋を出てすぐある壁に穴をあければ、外に出なくても簡単に転移前の通路に戻り、そこから合流場所の銅像がある部屋にたどり着けると説明した。
しかし状況は一遍し、外に魔物がどれだけ存在するかも分からない状況に作戦の変更を余儀なくされる。
「それなら、この部屋から無理やり壁に穴でも開けて、いっそ外に出るかい?」
(どうするの? マコト)
馬琴は現状を踏まえ、外は未知数であり出来る限り城内での移動方法に切り出すことにした。
「いい? エル? 強行突破で行くわよ」
「わかったよ」
「3……2……1……0――」
ルティーナの合図と共に、部屋の外へ飛出したが、そこでは魔物化したイスガ人と駆逐しようとする人形兵達が戦っていた。
しかし状況は一方的で魔物は再生を繰り返し死ぬことはなく、人形兵は剣で切り刻む無残な無限ループが繰り広げられているのだ。
人形兵は、扉から出てきたエリアルを見るなり襲い掛ってきたが、2本の剣をそれぞれを雷と水の剣にして二刀流斬撃で人形兵を返り討ちにした。
「しかし、私とリーナが来た時に通路の人形兵は全て倒しはずなのに――」
(いや、再生したんだ……ほら、あの人形兵の頭の形だけ異様だろ?)
(あれは拳の跡よね? リーナがぶん殴った奴?)
(おそらく……この国の技術力なら、俺達が来てから時間が経過してるから……考えられる)
(でも……)
(とにかくあいつらは侵入者を駆逐するように作られていたんだろうから、俺達の作った穴から入り込んだ魔物化した人たちが――)
「エルっ、もうちょっとだけ時間を稼いでて」
「任されたっ」
(どうするの? 足止めするの? でもあの人形兵、凍らせても中から割ってでてきたわよね)
(わかってる)
ルティーナはエリアルが人形兵と戦っている間に、通路の床に手をつき、エリアルの戦っている方に向けて【粘】を描き広げた。
合図とともにエリアルはルティーナに駆け寄り、たどり着いた瞬間に『起動』するのであった。
すると、人形兵と魔物は通路に足元をくっ付けられ移動を鈍らせるのであった。
後方の安全を確保したところで2人は目的の通路まで、前方から迫りくる人形兵を蹴散らしながら突き進んだ。
そして奥まで辿りついたルティーナはエリアルに背中を任せ、壁に【穴】を描きながら、壁向こうの通路まで貫通させるのであった。
そしてなんとか、待ち合わせにしている銅像の部屋までたどり着くことが出来たが、その扉を開けた2人は硬直した。
「え、外?……いや、銅像の部屋が壊わされ――」
(どちらかというと踏み潰されているようにしか)
その瞬間、城の後ろの空から、聞いたこともない叫び声が響き渡る。
ギャオーーーーーーンッ
「「!」」




