197話 歪ム過去
春斗達が拾ったイスガの書籍。
――そこに書かれていたのは、数千年前の地球の出来事であった。
西暦22xx年、にわかに信じがたいとされていた人間の持つ特殊な能力、つまり『超能力』を発現する人種が頭角を表し始めていた。
『超能力』はその後、内容を体系化され『魔法』という形で、全世界で統一化され認められる能力となるのであった。
当初は平和利用にその能力者は従事していたが、そのうちに軍事力として考える国が増え始め、戦争や諜報活動での投入を秘密裡に行っていた。
次第に各国同士の関係は裏で腹の探り合いとなり、いつ大戦争が勃発してもおかしくない状況になりつつあった。
そんな世界情勢の中、日本は『魔法』を治安維持や医療に使うことで住みやすい国と評価され続け、人口の3割近くがさまざまな国の人間が移住するようになっていた。
平和が続くある日の事、日本で『魔法』の軍事でのありかたについて協議するための、全世界の首脳を集めた平和サミットが東京で開催される。
しかし平和を望む裏で、『魔法』を使える者が少ない国はサミットに参加せず、独自のAIを使った軍事力強化の会議が行われていた。
だが、その会議の議事を取っていたAIが内容をまとめているうちに、『魔法使い』という不安定な存在がいることで人類はおかしくなると、非人道的な判断を下し自立的に各国の軍事ネットワークに強制的に潜入するのであった。
そうして『魔法』を軍事に持ち込もうとしている核施設の制御を制圧し、危険と判断した国にたいして無差別に核ミサイルを大量発射させてしまう。
そんな中、首脳がサミット参加で不在の大国では自動的に核ミサイルが発射され大混乱になり、どうすることもできなかった。
そうしてミサイルの雨は全世界の大陸を巻き込み半日以上やまず、想像を絶する光景が広がっていく。
その核の爆発の影響は計り知れなかった。
――マントルの亀裂発生による、不自然な大地震による地殻変動の発生
――次々に火山爆発が起こり、火山灰による太陽光の遮断
――放射能による汚染による、自然および生物種の大量崩壊
――両極の氷の崩壊による、海抜上昇と大陸の水没
幸いなことにサミットを行っていた日本は非武装国と判断されAIの攻撃対象となっていなかったため、核による直接の被害はなかったが、各国からの通信がどんどん途絶し孤立していく。
その内に隣国への核攻撃の影響で西日本側は海に沈み、地殻変動の影響で東側の大地がせり上がり水没からは免れるのであった。
結果、東日本に居た人間だけが生き延び、他の世界の大陸がどうなったかすらわかる手段もなく今に至っていた。
――しかし、生き残った人類にはさまざまな試練が待ち受けていた。
エネルギー資源は枯渇し、供給源を失ったたインフラは崩壊の一途を辿り、灰の空で埋め尽くされた大地は太陽光が届かず極寒の地となり、死んでいく者は絶えなかった。
しかし問題はそれだけではなかった。
核を浴びた一部の生物たちは生き延び、日本の海岸に各地に漂流していた。
それを捕食してしまった日本の動物が達が繁殖を繰り返し『魔物』と呼ばれる存在となり果て、人類を脅かし始めるのであった。
それに対抗するために『魔法』や剣などの武具で対抗し、強く生き延びていく日々が始まるのであった――。
そして、どれだけの時間が経過したかもわからない中で、生き残った人間達の手で徐々に自然が復活し始め、原始的ながらも人間らしい生活ができるようになっていく。
生き残った人間達はこれからどう生きるかを協議し、もう西暦の何年かもわからなくなったことを理由に、年の管理を撤廃し、過去の悲劇をふりかえらず未来だけを見てこれから生きていくことを誓い合った。
加え、後世に出来事を語り継ぎにくくする為、あたらしい統一言語を考え、世界的に表現力が優れていると評価されている日本語をベースにムルシア語を作り、以後、自分達の国の言語は使わないように全員に浸透させるのであった。
とりあえず日本としては、生き残った各国首脳に領土を分割しそれぞれの国を発足させ築いていくことで了承を得て、今回の事を教訓に情報管理統制する国、イスガを建国させることにしたのだった。
――それから数十年後には後世には正しく歴史が伝わらなくなり、今の現状が昔から続く当たり前のものとなっていた。
イスガの資料に真実だけを残して。
ルティーナ達を情報を共有したことで安堵したのか、春斗達はぐっすり眠るのであった。
「さすがに、疲れちゃったのかな?」
(私も意味が解らない内容で、疲れちゃったけど)
(そうだね、俺にしてみれば、自分の住んでいる世界が数年後にそんなことになるなんてぞっとする事実だけど、なんとなくこの世界に親近感があった理由に納得したよ)
「だけど、こんな事が書いてある本が残っているとはね」
(ナガアキは何かしら情報が集めたくて、イスガの情報を持っている者も探していたのかもしれないね)
(だから、この本を持ってた人は襲われたってこと?)
(どうだろ、この本は俺にとっては優位性の高い情報だったけど――ナガアキはこれを知りたかったんだろうか?)
そこへアンハルト達がルティーナ達に報告に部屋を訪れる。
「ルナリカ、戻って来たんだな」
「ちょうどよかった、これからどうする? 悪い話から報告すると、村民の3割近くが亡くなってしまったようだ」
「重傷の方も数名いらっしゃいますが一命はとりとめています。あと怪我人はほとんど生活に支障がない程度まで回復させましたよ」
「あとは復興だがよぉ……村人達の相当ショックだったみたいで元気がねぇ。時間はかなりかかりそうだぜ」
「ありがとうございます。皆さんのおかげです」
「とりあえずノスガルドに戻り、このことをノキア王に伝えた上で、『バリア・ストーン』を分けてもらい村に設置しようかと思ってます」
「私とミヤが居れば、石の運搬は簡単ですから」
「後は村人の中の魔力持ちの方に、定期的に魔石に魔力を補充をしてもらえば魔物対策は大丈夫でしょう」
「なるほどな、そりゃ名案だ。それなら、この村は安泰だ」
「ところでハルトさん達はこのままこの村で看病すんのか? ノスガルドに戻って良い施設に――」
「いやこの村に居た方がよさそうじゃぞ、もう彼らは……」
「ヘルセラ様……」
そしてルティーナは、その場にいる全員に過去の地球の話をせず、老人達が80年前の勇者であることとロザリナの現状について説明を始めた。
「つまりナガアキは、元の世界に戻してもらえる約束を破られた上、抹殺されそうになった……そして復讐の為に、ロザリナに転生して若返り、国に復讐をしようとしているってことか?」
「その黒竜ってのに蘇ってもらって困るのはナガアキなのでは?」
(……動物洗脳をやろうとしているのか?)
「しかしまぁ復讐心が沸くのも同情しちまうが、昔のノモナーガ王はそんな酷ぇ事してやがったのか」
「それより、姉さんはナガアキの子孫でなかったんですよね? ……次の満月までの10日のうちに救出しないと!」
そのことはルティーナも十分承知しており、予定通り『バリア・ストーン』を運搬後はアンハルト達に設置は任せ、4人で救出作戦を開始すると皆に説明した。
「ところで、ナガアキのアジトは解っているのか?」
「海の果ての孤島……その位置を確認できる場所があります」
「まさか、イスガじゃねぇよな? あそこはもう大地の下だぜ」
「行けるなら、あたいも、もう一度行きたいさ」
「ねぇミヤ。瀕死の貴方が、どうやってあそこから脱出できたか覚えてる?」
「え? あ、あの時は、ヴァイスの事を思い浮かべながら……んっ……まさかっ!」




