195話 願ウ未来
ルティーナ達は、襲撃されたアジャンレ村に放置された朝陽で爆発する爆弾の処理を終え、孤児院へ戻ろうとした時に長明の情報を提供してくれたグラデスの遺体を発見する。
襲撃が無ければシャルレシカに記憶を詳細に探ってもらう予定であったために、長明に先に手を回されたことにしてやられたと感じたが、シャルレシカは遺体から強制的に断片記憶を読み取ろうとするのである。
最低限、グラデスが長明から受けていた洗脳魔法を解呪した老婆の顔が分かったことで、シャルレシカは彼女の居場所を占い、そこへ2人は向かうのであった。
ルティーナは、山の麓にある洞窟からシャルレシカの案内に従うまま侵入をしていた。
しかし、その通路は迷路のように入り組んでおり、明かりもなく陰湿な場所であった。
だが徐々にシャルレシカは2人の居場所に近づいていると語る。
そして、5分ほど何事もなく、通路を進んでいくと行き止まりになるのであった。
「う~ん、この岩の向こうですねぇ……」
(俺が使う、【窯】の岩壁に似てる……)
ルティーナは岩壁に手を当て、【穴】を描き壁の向こうに入り込むのであった。
そこには――2人で寄り添って横になっている老人達が居た。
「ごほっごほっ……ついにここがバレてしまったか」
「……すまない尼帆……これまでだな」
「いいのよ春斗……最後があなたと一緒なら」
(え、この人達、何をしゃべっているの? わからないんだけど)
(これは日本語だ!……それに、ハルト? と呼んで――)
(こ、この老婆、両目の色がロザリナと同じじゃないか! やはり)
(とりあえず、ムルシア語で話しかけてみてくれ)
(えぇ、通じるのかな?)
「ちょっと、待ってください! 私たちは刺客ではありません!」
「「!」」
「私たちの会話が解ったのか? 君たちは?」
(ムルシア語になった?)
「はい……さっきのはニホンゴですよね?」
「「!」」
「君は何故、日本語を知っている?」
「春斗、こんなかわいいお嬢さん達が刺客とは思えないわ」
「自己紹介が遅れました。私は、冒険者のルナリカ=リターナ」
「この子は、占い師冒険者のシャルレシカ=ブルムダールです」
「やっぱり、あなた達は80年前に召喚された勇者さん達ですね」
「「!」」
「話せば長くなるのですが、8年前にも召喚された勇者マコトが、私の意識の中に居るんです」
「「意識の中?」」
「そうか、そのマコトさんのおかげで私たちの会話が理解できたんだね」
「で、マコトさんという方の『能力』で、ここがわかったのかい?」
「私たちはグラデスさんから闇魔法を解呪した老人が居るって話を聞いて、シャルレシカがここに辿りついたのです」
「解呪ですって……その話が本当であれば、春斗が記憶を操作したはずなのに……」
「それより、ナガアキって人物をご存じですよね?」
「ナガアキ……長明だと!」
「あ、あいつは、やはり生きていたのかっ!? ごほっごほっ」
「興奮させてすみません、彼は貴方たちの仲間だったんですよね」
「そうです。本来であれば生きていて嬉しいと感じるのですが、グラデスという人がまとっていた闇魔法は……あまりにも憎悪に満ち溢れていた――」
「……はい、奴は半年後に封印が解ける厄災を使って、この世界を滅ぼそうとしています」
「な、なんてことを……やっぱり、この世界を恨んでいるのね……」
「何か心当たりでも?」
「そうだな、俺達もここに隠れて居た理由はそれにあるんだ」
「「!」」
春斗は、自分たちがこの山奥に潜んでいる理由と過去の話を始めた。
当時召喚された3人は厄災を倒す為に召喚された話はノキア王から聞いていた通りであったが、国の記録に残っていなかった衝撃の真実を聞かされるのであった。
厄災討伐前に、尼帆は長明と恋愛関係になり、対戦直前に闘いが終り元の世界に戻れたら結婚することを約束し闘いに望んでいた。
そして厄災と対峙するためにその大陸に乗り込むが、その姿に驚愕した。
厄災とは竜であり、彼らは容姿からそれを黒竜と名付けた。
結果は封印できたものの、満身創痍だった3人は突如発生した地殻変動により海に投げ出された。
その後、近くの海岸に打ち上げられた尼帆は目を覚ますのであった。
彼女は自動で発動する回復魔法により軽傷で済んでいたが、その場で大怪我をしていた春斗を発見し治療を施した。
その後、2人で辺りの海岸を捜索し長明を捜索していたが、見つからずの日々を過ごしていた。
そして、数日後――眠っている2人に怪しい影が近寄る。
その気配に気づいた春斗は身を守るために漢字の能力を使い拘束した。
それは暗殺部隊の1人であり、襲った理由を問うと勇者の抹殺するために捜索していたのだと知る。
そして長明は、すでに抹殺したと聞かされ言葉を失うのであった。
2人は、召喚された時に国王が『各国との勢力均衡が崩れる』事を心配していたことを思い出し、黒竜が居なくなった今、自分たちが邪魔になったと悟のであった。
自分たちの世界に帰してくれる話しがあったに関わらず。
非道な現実に絶望した2人は自分たちに足がつかないように、捕らえた男を春斗の能力で自分達と出会った記憶を消し、とにかく逃げた。生き伸びるために……。
しかし2人は生き延びる理由をだんだん見失いかけていた。
それでも2人は一緒にいるうちにお互いしか信じられるものが無くなり、お互いを求めあうようになっていた。
そして1年後、2人は尼帆の光魔法を受け継いだ女の子の赤ちゃんを授かるのであった。
しかし常に命が狙われる状況下で、赤子を育てるのは難しかった。
そこで自分達の素性は伏せ、近くの農村の夫婦に持っていた高価な防具を質に出してお金にして渡し、子供を養ってほしいと願い託し養子に出したのであった。
別れ際、春斗は能力で、自分たちとは違って、この先も生き延びて家族を作り幸せに暮らしてほしいと記憶の刻印をしていたのだ。
――それから10年ほどノモナーガからの刺客からの逃亡生活が続いていたが、なんとか始末された様に見せかけ、この土地に逃げ伸びたのである。
それから70年近く刺客に襲われることはなくなり、細々とこの洞窟で暮らしていたが、5年前に食料の山菜を探し外を歩き回っていた時に尼帆は長明の気配を感じ周りを見回すと、森でさ迷っていたグラデスに遭遇するのであった。
「――ひ、酷い……せっかく、世界の為に頑張ったのに……」
「闘いが終わったら、元の世界に戻してくれると最初は約束されていたのだがな」
「全くの嘘だったよ……馬鹿馬鹿しいな」
「だが、長明は……復讐に走る理由はそこからだろう」
「……でも貴方達は、呪わなわなかったですよね……お子さんの為に」
(って待てよ! そうしたらリーナは、ハルトさんとマホさんの曾孫じゃないか!)
(!)
「ハルトさん、マホさん、あなた達にはお孫さんがいますよ」
「? どういうことだい?」
「その生きてほしいと紡がれた命……その子の名前はロザリナ」
「名前からしたら女の子かしら?……うううぅ……逢いたい――どこ? どこに居るの?」
「――ごめんなさい、今はナガアキが自分の孫と勘違いして誘拐されてしまいました」
「な、なにをやっているんだ! 長明~っ!」
(しかし、これはまずいぞルナ)
(?)
(ナガアキが、自分の孫でないと気づいたら……次の満月まで安全なんて)
(!)




