190話 戦ノ渦中
ルティーナ達は、ヘルアドがアジャンレ村に帰郷したいとのことで父親バルストの居る孤児院へ転移する。
しかし、転移先でバルストから長明に一時期だけ洗脳されていたグラデスを紹介される。
彼は老人の男女に遭遇し、洗脳魔法を解呪してもらったと聞いた馬琴は、ノモナーガ王国に彼を連れていきシャルレシカが帰還次第、過去視をさせようと考えていた。
だが、拠点に居るエリアルから不報が舞い込む。
ブルディーノ城の周辺には、モルディナ王国との同盟を反対と主張する50人ほどのデモ隊が城の門を落とさんとすべく、暴れて丸1日が過ぎていた。
一番の問題は、城内で魔法が使えない状況が発生しているため、近衛師団で防戦することしかできない状況であり、現時点では両者の勢力は拮抗していた。
しかしウエンディは転移魔法が使えず、シャルレシカと共にブルデーノ城での混乱に巻き込まれてしまうのであった。
ウエンディとシャルレシカ
ウエンディはこの状況は、ありえないが巨大な『マジックシール・ストーン』が城の周辺に設置されてしまっていると考え、念の為、ブルデーノの魔法師団総出で魔法が使える場所をさがすように指示を出していた。
「ウエンディ様っ」
「魔導師団からの報告ですが、予想どおり、城の中心付近で魔法が使える場所を発見したとのことです」
「やはりそうですか……城の大きさからして、100m級のかなり大きな『マジックシール・ストーン』が5個以上……配置されていると考えるのが妥当ですね」
ハウレセン王はこれ以上巻き込みたくないと、ウエンディにシャルレシカを連れて脱出するように勧めた。
だが彼女は能天気に見えても魔法師団長であり、同盟国の危機は見捨てられないと言い出し、負傷兵を魔法が使える場所へ連れていき治療するように指示をした。
「私も攻撃魔法は封じられていますが、城門付近まで行き、直接触れることで治癒魔法は使えるはずですので、現場の負傷兵の治療にあたります!」
「ありがとう、ウエンディ殿」
ウエンディは城門へ移動中、ある事に気がついた。
そもそも、大規模の『マジックシール・ストーン』をたがが民間人に準備できるわけがないと。
そして最近、隣のモルデリド王国の鉱山で大量に発掘されたという噂を思い出す。
「(まさか、この反乱軍、モルデリド……叔父上が絡んでいるとしか)」
そして現場で治療を始めたウエンディであったが、そこへフェリクスが集団の中で指揮を執っている男の事で相談を持ちかける。
ローブを被っている為、時折しか顔が見えないがどこかで見覚えがあると、男が見える場所へ連れて行く。
「っ!」
「あいつ……ギレイラっじゃないの!」
「ギレイラ……そうだ! グランデ王国の時の近衛師団長じゃないか!」
ギレイラは、もともとグランデ王国で近衛師団長をしてたが、モルディナとモルデリドに別れた際にモルデリド王側に付きウエンディと袖を分かつのであった。
「何故ここに? (それなら『マジックシール・ストーン』の件が納得できる)」
「ウエンディ殿……それが事実なら、裏で糸を引いているのはモルデリド王国ということですか?」
「そう考えるべきですね……」
困惑する2人の元へ、近衛兵が城門が破壊され民間人がになだれこんできたと報告が入る。
ブルデーノ城の作りは幸運にも城門から城の入り口までは深い川が通っており石橋を渡らなければならなかった。
フェリクスは最後の手段で、民間人が石橋をわたり切る前に爆破する決断をした。
城門側に民間人を抑えている近衛兵を数人残したままの苦渋の決断であった。
「くそ! すまない……フェイ、グレイス、アーク――」
「フェリクス様、英断だったと私は支持します」
「彼らの顔を見てください! 民間人に手を出さず、暴力をあびせられているにもかかわらず、あの誇りに満ちた顔を! 私は彼らがこの後、無事でいてくれれば必ず全力で治療してみせます」
「ありがとうウエンディ殿……モルデリドめ! 許さんぞ!」
「そうですね……次の手が打たれる前に、魔法封印をなんとかしなければ……」
「――シャルレシカちゃんが目を覚ましてくれれば、何とかなるかもしれないのですが」
「確かにシャルレシカ嬢の索敵能力があれば『マジックシール・ストーン』の場所を探れるかもしれぬが……彼女は2日前の夜に落雷に遭い王宮に担いこまれウエンディ殿の再生魔法で蘇生したはずにもかかわらす眠ったままなのですよね? しかし、あんなに天気の良い月夜に落雷が」
「そ、それは……」
時は遡り、ブルデーノ滞在2日目のシャルレシカは事情聴取の役目を終え、夕方にウエンディを連れファイデンに逢いに行くのであった。
彼女のお陰で、ファイデンは命の恩人であるウエンディに念願の対面を果たし、数日もしないうちに連れてきてくれたことに感謝されていた。
だがファイデンの店を後にし、一旦、ハウルセン王に挨拶をしてから今晩にでもハーレイの元へ転移するとシャルレシカに合意を取るウエンディであったが、いつもの笑顔が消えていた。
その様子を見てシャルレシカは不信に思い、ウエンディにそっと触れて、何が困ったことでもと白々しく質問を投げかけ、彼女の頭に浮かぶ記憶を読み取り知ってしまったのであった。
ファイデンは落雷に遭ったのではなく、当時、護衛任務中に魔物に遭遇してしまい悪天候の中で討伐をしていたウエンディの最大雷魔法の流れ弾を誤って浴びてしまっていたのであった。
一般人が巻き込まれたと護衛兵から報告を受け、その時の上官の指示で蘇生を試み助けていたのであった。
それを知ったシャルレシカは、この事をだまおく代わりにウエンディに自分にも最大雷魔法を落としてくれと懇願するのであった。
「――そうか、2日前の夜にそんな事があったのか……しかし、何故、断らなかったのです?」
「自分の新しい能力を開花するために必要だから協力してほしいと……彼女は予知夢で見たから大丈夫だと」
「そうなのか? 今は目を覚ましてくれると信じるしかないか」
「しばらくは、やつらも手が出せないでしょうからとりあえず私は、城内に担ぎ込まれた怪我人を治療してきますので、ハウレセン王に現状報告をお願いします」
「あぁわかった! よろしく頼む」
――それから数時間が過ぎ、ぼんやり朝陽が差し始めた頃、反乱軍は川の向こう側から火炎の筒を城に投げ込みはじめた。
「くそっ! 動き出したか」
「フェリクス様、大丈夫です時間はかかりましたが負傷兵は全員治癒できました」
「おぉ、さすがウエンディ殿っ!」
「(しかし魔法が自由に使えないのに、それでも全員治癒するとは、さすがだ)」
「ギレイラっ! そこに居るでしょっ! やめなさいっ」
ウエンディは反乱軍の奥の方にまで声が届く程の大声で叫んだ瞬間、攻撃が止まった。
「まさか! ウエンディ、なぜ貴様が!」
「(どういうことだ、連絡では3日前に同盟が結ばれた時にモルディナに居たと聞いていたのに)」
「何が目的ですか? この国と同盟がされている以上、モルディナとの不可侵条約に抵触しますよっ!」
「ちっ!」
「どういうことだ? ギレイ――」
「うるせぇ! お前らは俺から雇われてんだ! 雇い主にさからったら報酬はねぇぞ」
「わかったよ、どうすんだ? この先」
「魔法がなきゃただの女だ! 城を制圧するふりをしながら、しらじらしく始末しろっ! 報酬は倍にしてやるっ」
「(ちっ、万が一、俺が拘束されでもされたら……それだけは)」




