188話 闇ノ証人 ~前編~
~捌章の振り返り~
ロザリナ誘拐事件を発端とした『勇者』という存在について、80年近く前に行われた『勇者召喚の儀』について3人の男女が召喚されていた事はノキア王も先代から話しづてでは聞いていたが、詳細な情報は全て抹消されていた。
そして、8年前に起こった『王都爆破事件』事件の時も『勇者召喚の儀』が行われていたが、『勇者』を名のる組織に裏切っていた暗殺部隊のドグルスが妨害をし失敗させていたことを知る。
結局、彼らが何を目論んでいるか全く見当がつかなかった。
そんな中、フェンガの遺体に閉じ込められていた長明の魂は、自分がノキア王になりすましていた時に洗脳魔法を仕込んでいた者を操り、ルティーナ達への復讐と復活を目論んでいた。
しかし、ルティーナ達の活躍で彼は、永遠に封印されてしまい野望は潰えてしまうのであった。
そこで偶然、救援に参戦したノキア王の執事デーハイグは、彼は元暗殺部隊長であった。
そして彼が独自に調査していた情報を得る事で、当時の勇者、長明という人物が存在している事を知る。
その長明は海の孤島で復讐のため1人、虎視眈々と来る時を待つのであった。
長明は8年前、暗殺部隊のドグルスを利用し、黒竜復活の為に邪魔な勇者召喚を妨害したにもかかわらず、自分の計画に立ちふさがるルティーナの存在にいらつきと焦りを感じていた。
そんな中、昔の仲間であった春斗の存在を疑い始めるのであった。
春斗は、黒竜との戦いで重症をおい、大地震に巻き込まれて死んだと思っていたが、彼の能力である魔法とは異なる異能力……念じるだけで漢字を発生させ関連現象を引き起こす『能力』――。
実際は見てはいないが、スレイナがルティーナとの戦いで得た情報から春斗と同様の『能力』だと疑いが尽きず、彼の末裔としか考えられなくなっていた。
彼は自分の存在を隠すために自分の代わりになる駒を、悟られないように間隔をあけ、有能な冒険者を魔物を操作して誘拐しては洗脳魔法を施し、術にかけられていることも知らずに大陸に戻していた。
しかし、彼には、今さら手間をかけて駒を増やしている時間はなかった。
「とにかく今はロザリナを……こうなれば、やつを操るしかないか。あの国王を……」
「厄災――黒竜――の復活は、この先6回目の満月の夜」
「それまでに、ロザリナを我が手に入れ秘術を実行せねば――」
――ルティーナ達が無事にノモナーガへ戻った3日後、突然ヘルセラは自分の役目は終わったとアジャンレ村にそろそろ帰ると言い出す。
「結局、シャルは戻って来ませんでしたね」
「やっぱり、迎えに行ってこようか?」
「気にするでない。根性の別れでもあるまいし、あいつにはまた会えるさね」
「(目標の邪魔しちゃ悪いしの)」
約束ではウエンディが転移魔法でシャルレシカを連れてくる予定になっていたが、転移先はハーレイの元がいいと駄々をこねられていたため留守にしても問題ないとヘルセラの意向を了承した。
ロザリナはいつものようにサーミャの転移目印として留守番をすると言い出すが、エリアルが前回のように1人になっては危険だと自分が残ると言う。
彼女はエリアルの気遣いが嬉しく笑みがこぼれる。
「でも戻ってくるときは、お風呂の時間以外にしてくれよ」
「「「「あはは」」」」
そして闇魔法が使えるようになったサーミャは、ハーレイに教えてもらった『ダーク・マニピュレート』で小鳥を洗脳し、通話用にエリアルに預けるのであった。
「しかし、一度に一匹しか操作できんぇのは使い勝手は悪いな……突然、使えなくなったらなにかあったと思ってくれ」
「君達が揃ってて、何かあるわけないだろ」
「「「「あはは」」」」
そして4人はアジャンレ村のバルストを目印に転移するのであった。
しかし、いつもなら喜んでルティーナに飛びつこうとするバルストであったが、真剣な顔つきで構えていた。
「ルティーナ……おかえり」
「ど、どうしたの? お父さん……」
(なんだ、いつもとノリが違うぞ)
バルストはルティーナに連絡がとりたくて困っていたところに、偶然、現れていたのであった。
「みんなも元気だったか……んっ、君はもしかして? ロザリナさんかな?」
「はい、初めまして」
バルストは、初めて来たロザリナを歓迎したいところであったが、早速、要件を聞いてほしいと焦っていた。
彼は半月前にあった村の襲撃事件の後片付けをしていた頃の話をし始めた。
その時、1人だけ挙動がおかしい村人の存在に気付いたが、「お互いの事に干渉を禁止」する村の約束であった為、気にかける程度に留めていた。
そして先日の話、バルストに意識されてるのに気づいたのか、その村人の方から助けて欲しいと相談を受け処遇に困っていたところであった。
話を聞くと、襲ってきた女幹部は自分の元仲間、裏切った自分がこの村に隠れていた事がバレて襲撃されたんだと思い込み、また襲われたらどうしようか? 他の村人達にバレたら追い出させると怯えていたと言う。
――その男性の名前は、グラデス。
彼は数年前に長明に誘拐され洗脳魔法を仕込まれていたが、偶然、巡り合った光魔法使いの老婆に解呪してもらい、命からがらアジャンレ村に逃げ込んでいたのであった。
「ちょっと待って! おっちゃん、ナガアキって言わなかったか?」
「あぁ、何か変な名前だよな?」
(ルナ、80年前の勇者召喚の話だけでも説明したほうがいいんじゃないか?)
ルティーナは、バルストとアンナに80年前の勇者が3人召喚されて厄災を封印した事、そしてその一人が長明という人物で、曾孫にあたるロザリナを誘拐しようとした事をかいつまんで説明した。
「何が起こっているんだ? その組織の親玉というか勇者がナガアキという男で、ロザリナさんの……」
「あ~情報量が多すぎるっ」
「ルナ、あなた! どれだけ危ない事に首を突っ込んでるのっ! もう、危険は無いって――」
「ごめんね。お父さんの為にノキア王の秘密を暴いたまでは良かったんだけど、色々絡んででね……この事はノキア王に関係者だけにしてくれと口止めされていたの」
「……黙っててごめんなさい」
しかしヘルセラが話に割り込み、ルティーナなりにしっかりやっていることと、すこしは自分の娘を信じろと説得し、両親は暖かく見守る事にした。
「ありがとう」
「あと、少しでたどり着けるの! 今、ナガアキの情報で手詰まりだったから、凄い助かる」
「そうか、ちょうどグラデスと約束している。今から一緒に逢いに行こう」
「アンナとヘルセラ様は留守番しておいてくれ」
「あぁわかったよ。特に不穏な気配は感じんからな」
(ねぇマコト、そのグラデスさん……信用できるのかな?)
(ヘルセラさんも大丈夫だって言ってるし、もし敵になら、とっくにお父さん達を襲ってるさ)
「ねぇお母さん、リーナ、洗脳を解呪する光魔法ってあるの?」
「聞いたことが無いわ」
「そうですね、シェシカさんからは知る限りの魔法は全部教えてもらいましたけど」
(誰も知らない……そして、老婆か)
そして3人はグラデスの住む家へでかけていくのであった。




