187話 過去ノ栄光ト裏切
ルティーナ達は、全属性の魔法が使える様になったサーミャの『時間停止』魔法の評価を進めていた。
その様子を見ていたヘルセラは、サーミャに試してほしい『召喚魔法』があると語りかける。
「え、それってマコトを召喚した……そうか、『光』『闇』『無』の魔法属性の条件は揃ってるもんね」
「でもよぉ、それって70年か80年だっけ? ほうき星やら月食の条件が揃わねぇと使えねぇんだろ?」
「あぁ、それは『召喚魔法』の1つ『勇者召喚』じゃの」
「ワシが話すのは『対人召喚』――転移は対象の相手を想像してそこへ移動できるが、召喚は相手を想像して自分の目の前に呼び寄せることができるんじゃ」
(それなら『サモナー・ストーン』がなくても、俺を対象にしてもらえば……)
(マコトの顔誰も知らないじゃない)
(うぐっ、やはりそこが課題か)
「この魔法の利点は、例えば誰かが襲われそうになったときに、自分のもとに転移させて救出ができる」
「それに、用事がある人物を自分の元に呼び寄せたりもできる」
「なるほどな、そりゃ面白れぇ、早速試してみようぜ、で、詠唱を教えてくれよばぁさんっ」
(勇者召喚……時空さえ繋がれば、対人召喚と理屈は同じだよな……)
(呼び出せるってことは、その逆も――)
ルティーナ達が魔法の実験で盛り上がる一方、大海の先にある孤島の洞窟で思いふける老人がいた。
「6か月後の満月の日にヤツの封印が解ける……それまでに、ロザリナを手に入れなければ」
「封印が解ける満月を除けば、儀式ができるチャンスあと5回……まともに動けない俺には、時間がない」
「残るまともな手駒はもう4人だけか……しかしグラデスは、もう3年近く存在を感じられぬとは……」
「まさか『フィルス・ダーク・トランスファー』を自ら解除したとでもいうのか?」
――彼の名は鴨井 長明 1969年生まれ。
この世界の召喚師、つまりヘルアドとヘルセラの父親の手により1986年の17歳の時に勇者召喚されたのであった。
その時、為永 春斗 と、四条 尼帆 の同い年の男女2人も一緒に召喚されていた。
当時、3年後にノモナーガ王国を滅ぼすと予言された厄災を倒すという目的で、別世界から呼び寄せられた人間は強大な力を持つという理由だけで召喚されていたのだ。
最初は混乱してた3人であったが、自分たちに利益がないことに協力する理由はないと訴えたが、そうしなければ元の世界に戻れないと説明を受け悩んでいた。
ほぼ強制的な状況であったが、元の世界に戻りたい一心で黙々と渋々訓練をしていた3人であった。
長明だけは、自分の居た世界の高校生活に満足していなかったが、見知らぬ異世界に召喚されてからは、勇者としてもてはやされ今までにない高揚感に満ち溢れていた。
3人は絶対に自分の居た世界戻ると誓いをたてつつ切磋琢磨し、各々の『能力』を生かして成長をしていき、最終的には厄災を倒すことはできなかったが永久封印をする事を成し遂げたのであった。
だが厄災を封印した直後、不運にも火山爆発が発生し大地が崩壊する中3人のバラバラになり行方がわからなくなってしまった。
――そして何日が過ぎたかも解らないまま、長明は近くの海岸で波に打たれていた。
目を覚ました長明は、体がおぼつかないながらも他の2人を一生懸命探した。――しかし、自分以外誰もいなかった事に落胆した。
彼は重症ではあったが、手持ちの薬草を飲み浜辺から少しはずれた木陰で体を休めていると、翌朝日が昇る頃、1人の男が近づいて来る姿を目にする。
助けが来てくれたと安堵した長明は声をかけようとしたが、その男は気配を放っていなかった。
勇者だから分かる闇魔法を超越した感覚で、そこから伝わるのは紛れもない殺意を感じ取った。
不意に物音を立ててしまった長明に気付く男は、武器を手に襲い掛かって来たため戦うこととなってしまった。
結果、長明は死闘の末、その男を瀕死にまで追いやり『ダーク・トランスファー』により男の意識に入り込み襲ってきた理由を探ることで、驚愕の事実を知ることとなる。
数日前に、当時のノモナーガ王国のヘラルド王は、厄災を勇敢なる3人の勇者の命がけの闘いにより討伐し平和を取り戻したことにし各国に説明していた。
そして、この恐怖歴史を後世に残さないように各国に強要していた。
つまり厄災の出来事をなかったことにしようとしていたのだ。
さらには魔導師団から闇魔法が使える選りすぐりの格闘向きの人材を選抜し、勇者の捜索と抹殺と王直属の極秘任務を実行する暗殺部隊を創設していた。
――そして、その男は暗殺部隊の1人であったが、息を引き取った。
その男との闘いで、再び深手をおいながらも始末してしまった事で自分の存在が知られてしまったと察知し、とにかくこの場から去り全く違う場所へと必死に2週間ほど逃亡を続けた。
それでも暗殺部隊に発見されてしまうのであった。
必死に、長明は付近の岸壁まで逃げのび、そこから海に身を投じる事で死んだと思わせる作戦を思いつくのであった。
結果、長明の目論みは成功し、暗殺部隊からの追跡から免れたが、自身はもう浜辺まで戻る体力もないまま意識を失い、再び波に流されるまま漂流していた。
そんな中、何時間も海の上をさ迷っているうちに意識を取り戻したが、自分はこんな目にあっても死ねないと悔しいながらも遠くを見渡すと、目の前に孤島が見えたのであった。
しかし、波に浮かぶ長明に「デクーシャ――鮫の魔物――」が近づき襲おうとしていた。
それは幸運だった。その魔物を闇魔法で洗脳し島までたどり着く事ができた。
島に上陸できたのもつかの間、そこは魔物しか居ない恐ろしい場所であった。
だが相手が魔物であったため、容易に洗脳することができ難を逃れることができた。
その後は魔物を使って、大陸の人間を島に拉致しては洗脳を繰り返し有能な駒を作り上げ、大陸の情報を手に入れることにし無人島で復讐の為に力を蓄えることに決めたのであった。
その後、残る2人の行方も調べていたが、恋人だった尼帆の行方は掴む事ができたが、暗殺部隊に存在を悟られ消されてしまったと知り、さらに復讐心が増長した。
だが、尼帆には娘が居たことを知り、最終的に孫のロザリナの存在までたどり着くことができたのであった。
彼は、ロザリナの光に特化した内蔵魔力と新鮮な大量の血を入手し、そして『満月』の月光を浴びる条件が揃えば、自分の体が全盛期に戻ることができるという儀式魔法をイスガ人から入手していた。
そして、自ら行った厄災の永久封印を20年の時をかけ弱体化させ、最後は自分の手で完全に封印を解放し、闇魔法で使役することで大陸を恐怖に陥れる準備をしていたのだった。
「くくく、あと少しだ。俺をこんな目に合わせたこの世界に未来などない!」
(第捌章 「過去ト現在ト未来」編 完)
次回から、第玖章 「闇ノ孤島」編 に入ります。
ルティーナ達は情報を集め、ついに長明の居場所を突き止めます。
そして勇者同士の最終決戦が始まろうとしている。




