186話 金色ノ魔女ノ誕生
ルティーナはブルデーノ王国でエリアルとシャルレシカに合流し、ハーレイとヘイガルの5人でブルデーノ城に向かう。
そこで大臣のアデルに事情を説明し大広間でウエンディの転移を待つのであった。
そして約束の日が暮れると、ハーレイの目の前に黒い空間が発生し、ウエンディとハウルセン王とセレーナ姫が飛び出してくるのであった。
「は、ハーレイ様ぁ~」
「げっ」
「きゃぁ (ドスンっ)」
「おぉぉっとっと……大丈夫かい? セレーナ? 確かに、着地さえ気を付ければな」
「しかしウエンディや、普通に移動で4,5日かかる考えると、若干の注意点を妥協しても、文句の言いようのない移動手段だぞ」
「――って、聞いておるのか?」
「あっごめんなさい、ハーレイ様に夢中で」
「つか、これ見よがしにに抱きつきやがって! 人前だから離れてくれないかな?」
「はぁ~い」
ウエンディは初対面のシャルレシカとエリアルに挨拶をするが、ハーレイはこれ以上、なつかれると困ると彼女にモルディナ王からの命令をしてくるようにと厄介払いをする。
しかしシャルレシカとエリアルは、彼女とゆっくり話しがしたかった。
そう、鑑定士ファイデンの命を救った時の水晶の映像に写っていた女性は豪雨でローブは被っていたが、モルディナの魔法師であり、白い髪と体型がシャルレシカとそっくりであったため、本人であることは間違いないと確信した。
「色々ありましたが、これで全てが終わりましたね」
「君たちのお陰だ。後は、謀反を起こそうとした者達の対応だな……これはかりは、この国の問題だしな、ここまでしてもらっただけでも十分だ」
「そうそう報酬については、ノスガルドのギルド経由でもらってくれ――」
「あのぉ王様ぁ――」
シャルレシカは、自分がここに残りフェリクスの取り調べの手伝いをしたいといい出す。
ハウルセン王はこれ以上ない申し出であり、そこまで甘えていいのかとルティーナに確認する。
ルティーナと馬琴は寝耳に水であり、彼女の行動は何を意図しているのか全くわからず返答に困るが、エリアルから後で理由を説明するから許可してほしいと耳打ちされる。
ルティーナはエリアルを信じて、シャルレシカはブルデーノに残る事になった。
そして夜も遅くならないうちにハウルセン王に別れの挨拶を行い、ハーレイはヘイガルとルティーナを連れロザリナの待つ拠点へ戻ることにした。
「んじゃウエンディちゃん、すまねぇがシャルちゃんの手伝いが終わるまでつきあってやってくれねぇか?」
「ハーレイ様の言うことなら、なんでも聞いちゃいます」
「それじゃぁルナぁ、すぐ戻りますからね」
「うん、待ってるね」
そして3人でロザリナの待つ拠点に転移するのであった。
「行ってしまいましたね。父上」
「あぁ、頼もしい連中じゃったの」
「ウエンディ殿、シャルレシカ殿、今夜は客室を準備しておくから、そこで休むとよい」
「「ありがとうございますぅ~」」
((んん? なんだろ? 被ってる?))
――そしてルティーナ達は、無事に拠点に転移したが、そこには予想外の人物が居たのであった。
「っと、着いたぜ――えっ! なんで?」
「なんでじゃねぇっ! どんだけ待たせんだよ、クソ親父っ」
「ミヤ? 起きて大丈夫なの? あと1、2日ぐらいは……」
「目が覚めちまったもんは、しょうがねぇだろ?」
儀式で眠って居たはずのサーミャが拠点に居たのである。
彼女は、今日の昼に目が覚めると部屋にはハーレイも居ない為、部屋の外に出ると王宮はドタバタな状況で、デーハイグから何があったかを教えてもらい、ロザリナが拠点に居ると聞き戻ってきたという。
「それより、あたいの『ヒーリング・ストーン』返しやがれっ!」
「あ、すまねぇ。でも、これのおかげで助かったぜ。ありがとなサーミャちゃん」
「ふんっ……無事でよかったな」
「あ……あぁ(もっと、怒られるかと思ったぜ)」
「しかし、ばぁさんから聞いたぜ! 7属性の魔法使い『金色の魔女』サーミャ様降臨だぜっ!」
「――って、あんな死にそうな思いさせやがってぇ! 儀式を始めてから説明すんじゃねぇっ!」
結局サーミャはハーレイを羽交い絞めにするのであった。
皆はその様子を見て、実は仲がいいじゃないかと微笑むのであった。
「それより、シャルレシカはどうした?」
――エリアルはヘルセラと目を合わしつつも、シャルレシカが何故残ったかを説明し始めた。
シャルレシカと街に出かけ、偶然、鑑定士ファイデンに知り合い、話を聞くうちにその男が落雷事故で助けてくれた人物を知りたいと調べたところ、その姿がウエンディであったことから、合わせる橋渡しする事にしたのだと皆に説明した。
「そうだったのね」
(エル、他にも何か知ってるな?)
(えっ)
(まぁ、シャルが秘密にしてる事に関係してるんだろ? 見守っておいてやろう)
(うん)
「だから、尋問の手伝いをするって残ったのね」
「そんじゃ俺はおいとまするわ。部下も、そろそろ帰国している頃だろうしな(ここにウエンディが居なくて良かったぜ)」
「ハーレイ様、ヘイガル様、色々とありがとうございました」
「タイヘイの件は、また後日、伺います」
「そうだな、よろしく頼む」
「後、サーミャちゃん、大きな力を手に入れたからって無茶はすんなよっ」
「な、なんだよっ……親父もな」
ハーレイ達が帰った後、結果的に光魔法は『ヒーリング・ストーン』で補うとしても全属性持ちになったサーミャはある実験をしたいと持ちかける。
彼女はルティーナ達を待っている間、イスガから持って帰ってきた魔法の書籍の一部に目を通していた。
脱出の際につけてしまった血痕で一部が読めなくなっていたが、ヘルセラとロザリナの協力で大体のことを解読できたのであった。
その魔法とは、『クロノ・モラトリス ――時間停止――』であった。
もう1つ『クロノ・テレポート ――時間転移――』もあったが、これだけは肝心な詠唱文が血まみれで解読ができなかった。
「ダメじゃんっ」
「まぁまぁそう言うなって」
「とにかく詠唱が判った『時間停止』の実験をしたいんだが、明日の朝、皆、付き合ってくれよ」
「「「うんっ」」」
そして翌朝、ルティーナとエリアルは武器屋に、以前、注文した武器を受け取りに行き、そのあとサーミャとロザリナの待つ近くにある平原へ向かった。
「さぁて、時間停止で試したいことが2つあるんだ」
「複数の相手に通用するか? 飛んでくる矢が防げるかどうか?」
「それじゃ私達3人で、ミヤに飛び掛かるから止めてみてよ」
3人は早速、サーミャの詠唱中に飛び掛かるが、結果、エリアルとロザリナの攻撃の寸止めをくらってしまった。
だがルティーナだけ動きが止まっていた。
そして2秒ほどすると、ルティーナは自分だけ状況がおかしいことに気づくのであった。
それから数回実験をしてみたが、結果はサーミャが詠唱中、視線で一番最初に照準が合った1人だけの動きを2秒間止められる事がわかった。
続けて、エリアルが木の枝を5本同時にサーミャに向けて投擲するが、物を対象とする場合も1本だけにしか効果がなかったのであった。
「う~ん……2秒か、微妙だな……意外と魔力は使わないし詠唱も短いから連発すれば……駄目かルナの石を借りても2回が限界か」
「ハーレイ様が使った『ディメンジョン・コフィン』は長時間拘束できるけど時間がとまっているわけではないんですよね? それに1度使うと魔力がなくなることを考えれば……」
「さぁどんどん実験するから、散った散った!」




