184話 鑑定ノ取得ト現実
ブルデーノ王国の不穏な因子の大半を拘束に成功した、エリアルとシャルレシカ達であった。
あとは、モルディナからハウルセン王を護衛したルティーナ達の帰還を待つだけとなった。
しかしシャルレシカが予知夢で、ルティーナに翌日の昼に合流すると言い出した。
そして自分はそれまでにやりたいことがあるとエリアルを護衛に外出し、後天性で鑑定士になったファイデンに出会う事ができた。
シャルレシカはファイデンに鑑定しになる方法を教えてほしいと言い出すが、彼は首を縦に振らなかった。
しかし逆にシャルレシカを鑑定させてほしいと頼み返された。
そしてファイデンはシャルレシカのおでこに左手を触れ、右手に水晶を持ち集中を始める。
すると、水晶は白く神々しく輝きだした。
「(じぃじに初めて職業鑑定してもらった時と同じですぅ)」
「なっ(なんなんだ! この魔力量は)み、見た事がない……」
「むふんっ」
「本当に、無属性魔法以外は使えないのかい?」
「はぁ~い」
「でもぉ、ヴァィスの杖があればぁ~無敵ですぅ」
「(ば、ヴァィス?)」
ファイデンは彼女の魔力量というより潜在能力が高いことに、普通に鑑定士になれるのではないかと伝えた上で、自分の方法では危険だと言う。
それでも話だけでも聞かせてほしいと、彼にお願いするのであった。
――そしてファイデンは、自分の昔話を語り始めた。
彼は25年前、父は『索敵』と『雷』魔法が使える冒険者、母は『回復』と『風』魔法が使える冒険者の2人の間に生まれた。
3歳の時に、父親は冒険者の跡継ぎにしようと職業鑑定をしてもらいに鑑定士に見てもらった結果、魔力量は軒並み外れていたが、職業の素質は全く見えなかった。
しかし、潜在能力が高いという評価に安堵し、きっといつかきっと凄い力が身に付くと両親は期待していた。
それから15年の月日が経過し、特に目立った力にも開花することもなく、両親は残念な思いのまま病気で他界してしまった。
その後、一人で親の薬代の借金を返済しながら生きていかなくなってしまった為、多少の無理は覚悟をしながらも激務の荷物運びの仕事を始めた。
そして5年前のある日、ファイデンは仕入れ先の荷物を運ぶ為、ある峠に差し掛かっていた頃、想定外の雨が降り始め、後方から黒雲が追いかける様に迫って来ていたのであった。
不運にも荷馬車には雨よけが付いていなかったため、小雨の内に急いで、次の街まで馬車を飛ばすことにしたが、予想以上な速さで黒い雲はファイデンの頭上を覆った。
そして落雷が……その一撃はファイデンを爆音とともに飲み込んだ。
その場に倒れこみ土砂降りの雨に打たれながら意識が遠のく中で、『これで両親の元へ行ける』と神に感謝しながら気を失った。
しかし数日後にファイデンは、現場近くの民家で目を覚ますのであった。
目を覚ましたファイデンは、『生き延びてしまったこと』と『今の仕事は確実に首になる』という事実を突きつけられ、どうやって生きていけばいいのかという苦悩に苛まれた。
だが、自分の枕元に水晶玉が転がっていた。
村人に自分の話を聞くと、ただ黒焦げになった荷物の横で、上に雨よけをかけられ倒れていたと。
そんな中、気絶していたファイデンは怪我1つ無く、手のひらに水晶玉を持っていたと言われた――。
そしてその水晶に触れた瞬間に、それを『鑑定用の水晶』だと鑑定できたことに能力の開花を確信し、今の仕事を始め借金をすべて返したのたった。
「……どう考えてもきっかけは、その落雷を受けながら無事だったことしか理由がない」
「なっ、これで無理ってわか――」
「(つまり、落雷にあって九死に一生? 何の根拠も無いじゃないか……いいや、ノキア王、いいや、タイヘイが武闘会の会食の時に、落雷から無事に生還したものに不思議な力が宿った人間が稀に存在すると言っていたが、それがファイデンさんのことか?)」
「わかりましたぁ~!」
「お、おいっ君! 俺の話をちゃんと聞いてたかい?」
「エリアルさんは、理解してくれてますよね?」
「つまりぃ~ミヤのぉ落雷に撃たれて、リーナでぇ生き返れらせてもらえばいいんですよねぇ?」
「いやいや、俺はただ偶然に鑑定士になれた話をしただけだ! 方法じゃないっ」
「エリアルさん、この娘に何とか言ってやってくれ」
「これじゃ俺は殺人の容疑で捕まっちまう」
エリアルは、冷静に『魔法の雷撃』と『自然の落雷』では威力や原理自体が全く違うことを説明した上で、ファイデンがどのような状況で遭遇したかも詳しい様子もわからないと説得した。
「そっかぁ~、ならぁファイデンさん、5年前の記憶をぉ見させてくださいぃ」
「って! まだ、わかって――そ、そんな事が出来るのかい?」
「(なんなんだ、この娘は……しかし、俺もあの日何があったかを知りたい)」
「しかしシャル、気絶していたら記憶もないだろ?」
「う~ん。でもその日の状況ぐらいわかるかもですぅ」
シャルレシカは、自分の水晶玉にファイデンを触れさせて当時の記憶を読み取らせてもらうことにした。
すると水晶玉には、彼が落雷に襲われる瞬間までの画像をみることができたが、その後は真っ暗になってしまった。
「やはり、直撃している……何故、俺は無事だったんだ?」
「やはりね、記憶がなければ――」
しかしエリアルの懸念をよそに、水晶玉に再びぼんやりとだが当日の様子が映り始めた。
それは、豪雨の中で1人のローブを纏う女性が、必死にファイデンに魔法をかけている様子であった。
そして周りの兵士達は2人を包む雨よけを立てていたが、そのまま映像は暗くなり何も映らなくなった。
「この魔法、リーナの『シャイン・レストレーション』だよね? シャル」
「俺は、そのシャインなんとかって魔法で助けたもらったのか? その中で、一瞬だけおぼろげに意識が戻っていたのか」
「でも、あの人は誰だったんだろう?」
「(体型はシャル? っぽいな……年齢は20中盤ぐらいか)」
「あ、あの紋章は……モルディナ王国!?」
「そうなのかい? その国って、ハウルセン王が国交を結ぼうとしている国じゃないか!」
「そうか……国交も無事成立すれば……その方に会えるかもしれないな」
「ありがとうシャルレシカさん」
「いいぇ」
「これでぇ『雷』の問題だけぇ解決できればぁいいってことですねぇ」
つまり、蘇生はロザリナが居れば大丈夫と確信したシャルレシカは、その時の落雷にどうやったら遭遇できる方法を探せばいいだけだと楽観的に自己満足していた。
「う~ん……こればかりは」
「私はぁ、ルナの力にぃなりたいんですぅ――」
「シャルの夢は当たるからね。でも、リーナが居る時にしてくださいよ」
「おぃっエリアルさんまで」
2人に呆れるファイデンであったが、鑑定用の水晶の事を忘れていることを指摘した。
だがシャルレシカは、占いで使っている水晶できっと大丈夫と根拠もなく言い放つ。
彼女の言っている事はあながち間違いではなく、自分に相性がいい水晶であれば鑑定士が使えることを後で知ることになる。
「ファイデンさん、ありがとうございましたぁ」
「さっきの女性を見つけたらぁ必ず連れて来ますねぇ」
「あぁ、よろしく頼む」
「でも無茶して、本当に命を落とさないでくれよな」
「はぁ~い」




