181話 儀式ノ産物ト希望
太平の暗躍は失敗に終わり、ルティーナ達は後片付けをデーハイグとダブリスに任せ応接室を去り、サーミャの眠るハーレイの部屋に戻っていた。
「ところで……ルナリカちゃん、デーハイグとサーミャちゃんに何の関係があったんだ?」
ルティーナは、暗い面持ちでサーミャとドグルスの間で起こった悲しい出来事を説明するのであった。
ハーレイはその話を聞き、本来の20歳の誕生日に黒魔法の儀式の話をするため『碧き閃光』の拠点に出向くが、サーミャが行方不明になっていた理由に納得がいくのであった。
「そんな事があったのか」
「(アンハルトの奴、サーミャちゃんの事を気遣いやがって……嘘をついてたのか)」
ハーレイはその時に儀式をしていれば1日で済んだものを、その期を逃してしまった為10日も要する儀式になってしまったという。
その話を聞いたヘルセラは、今、サーミャの体に起こっている異変に関連しているのでないかと言い出す。
異変と聞いたハーレイは一瞬驚くが、サーミャを見る限り異常は見受けられずヘルセラが何を言いたいのか全くわからなかった。
「こやつ闇魔法だけか? 今、体得しようとしてるのは?」
「俺の家系に伝わる儀式なんですが……まさか失敗――」
「いや慌てるでない、闇魔法は問題なく身に付いているようじゃが……」
ヘルセラは自分だからわかる無属性の魔法が芽生えてる兆候があることを説明した。
ハーレイは偶然に儀式が本来のタイミングで行われなかったことで、密かに妻のサフィーヌの無属性魔法の遺伝していたものが芽生えたのかもしれないと笑みがこぼれた。
「えっ、そしたら7属性持ちの魔術師になるの? 凄いじゃないですか?」
「そうなんだが、そもそも魔法の属性ってのは――」
ハーレイはルティーナ達に、紙を用意して、そこに星形の線絵を描き、それぞれの頂点から左回りにムルシア文字で『雷』『火』『土』『水』『風』を追記したのであった。
さらに、『雷』の下に点線を横に引き上側に『無』を書いた。
そして、その点線から星の絵を2つに割くように縦点線を引き加え、左右に『光』『闇』を書いたのであった。
「この点線のくくりは習得がしやすい属性同士なんだ。例えば『雷』を習得か素質があると、点線の外にある他の魔法は習得しにくくなる」
「ということは、『火』を習得すると『水』『風』が習得しにくくなるってことですね?」
「あぁ、よく『闇』魔法が得意な奴は『火』『土』魔法が得意って聞くだろ?」
(ヘレンや暗殺部隊の人ってそうだよね)
(なるほど、素人でも分かりやすい説明。さすが魔法の家庭教師をやってただけのことはあるな)
「それじゃ私は、『水』『風』魔法と相性がいいってことですか?」
「そうだなロザリナちゃんなら、その気になりゃ身に着けられるかもな」
それを聞いた馬琴は、サーミャは5属性の攻撃魔法が使えるのだから、それぞれに付随している『光』『闇』『無』を簡単に取得できるということではないかと考えた。
しかし、ヘルセラは馬琴の想像を否定するかのように1つだけ、ハーレイの説明に補足した。
「あぁ、ただし『光』『闇』『無』だけは遺伝や先天性によるものが多いんじゃ。つまり、ハーレイみたいな儀式でもやらない限り、努力や修行で身につくもんじゃない」
「あと攻撃魔法の5属性は、この星ので反対側にある魔法はお互いに相性が悪いから習得の難易度が跳ね上がるんだが、サーミャちゃんみたいにお互いの親の属性の遺伝するって事もある」
ハーレイはもともと『雷』以外の攻撃魔法と『闇』魔法が使える5属性魔法師としてモルディナ、旧グランデ王国で活躍していた。
そして、妻となるサフィーヌは『雷』と索敵が得意な『無』魔法が使えるのであった。
その2人から生まれたサーミャは、2人から攻撃魔法だけを遺伝していたのであった。
ノモナーガへ出向したハーレイは、自分のセンスで『雷』魔法の習得に成功し今の座に至っていた。
「でもミヤは、自分では気づいてないけど、サフィーヌさんの無属性魔法も遺伝されていたってことなんですか?」
「おそらく闇魔法の儀式で……」
「そうか、だからヘルセラ様はミヤのことを、救世主様っておっしゃっていたのですね」
「うむ、6属性使いは、そこのおやじみたいな奴とか存在しとるが、実質7属性持ち以上の人間はワシも聞いたことはない」
「私の姉の息子サハリドは、逆に『闇』『光』『無』全ての非攻撃魔法を使えたのじゃ」
「これは希少な人材で『ディメンジョン・デストール』という召喚魔法が使えたのだが、8年前の例の爆破事件で死んでしまったのさ」
「それならミヤは光魔法を擬似的に使えるから、召喚魔法が使えるんじゃない?」
(やったじゃない! これでマコトが召喚してもらえるじゃない!)
「だが、この召喚魔法は次のほうき星と新月が重なると言われる約70年先まで使えんのだ」
(あ、そうだった)
結局、普段の使い方は『サモナー・ストーン』があれば水晶に映る者や魔物を呼び寄せたり、術者が想像した人物をその場に呼ぶ時に使うものであった。
そしてヘルアドは続けて8属性が全て使える者は『時』が操れると語る。
「――時を操るって、時間を止めたり? 戻したり? 最強じゃないですかぁ~」
「いや、実際は何ができるかどうか。しかも、詠唱すらわからんから意味がないがな」
「そういえば、ミヤがイスガから、もって帰ってきた切れ端……8属性の詠唱魔法が書いてあったわね」
「それは本当か? それなら奇跡が起こせるかもな」
(血まみれで読めなかったけど……)
馬琴は魔法の詠唱がわからない以上は夢物語であり、まずは朝時がやってみせた『サモナー・ストーン』の手法で、ルティーナから外へ出られる方法を考えていた。
仮に、サーミャが召喚魔法が使えたとしても自分の顔を誰も知らない以上、想像による召喚は不可能と判断したからであった。
(俺の入っていた『サモナー・ストーン』かぁ)
(でも、タイヘイが集めた破片の中には、マコトが入っていたやつは無かったんだよね)
(誉美の石は、イスガの大地に埋もれて探しようがないか……くそっ)
(ここまで来たんだから、きっと何か方法が見つかるわよ)
「――リカ、ルナリカや? また、マコトとひそひそ話か?」
「あっ、すみません」
時間は深夜をまわってしまったため、ルティーナとロザリナとヘルセラは今夜は拠点に戻ることにした。
そして翌朝、ルティーナは2人を拠点に残しハーレイとウエンディの元へ転移するのであった。




