180話 復讐ノ終焉ト真実
ルティーナ達は無事にノキア王を救出し、ブランデァの中に入り込んだ朝時も『サモナー・ストーン』に抜き取ることができた。
しかし、ロザリナの『シャイン・キャンセラー』の効果が切れるまであとわずか。
朝時は、その時を虎視眈々と狙っていた。
このままでは解決できないと、馬琴はルティーナを介しダブリスに相談をする。
すると、ダブリスはその場から消え、あるものを取りに向かった。
その間、デーハイグが自分がここに居る理由をルティーナ達に説明していた。
(デーハイグが元暗殺部隊の隊長? それだけでなく、あのドグルスの父親だったなんて――)
(そうだな、ここにミヤが居なくてよかったのかな)
(詳しい話は、太平の件を片付けた後だ)
――そしてロザリナの『シャイン・キャンセラー』が切れる数分前に、ダブリスが箱を持参して部屋に戻ってくるのであった。
「聞こえてると思うけどタイヘイ、あなたの処分はマコトが決めてくれたわ」
(里美~っ、俺をどうするつもりだ……(こいつに何ができる? 後、数分後には――))
ルティーナはダブリスから箱を受取り、中から石の着いた首飾りを取り出した。
そして朝時の入っている『サモナー・ストーン』とくっつけ、2つの石をつつみこむように【混《まぜる》】を描いていた。
(混ぜるだと? 何をする気だ? その首飾りの石――それは、まさか!)
首飾りは、ルティーナがノモナーガ城に誘拐された時に居場所を悟られないように着けさせられていた『マジックシール・ストーン』であった。
その事件後、この石もダブリスによって別の場所に保管されていたのであった。
ルティーナは朝時が闇魔法で、すでに『ダーク・トランスファー』をしかけた人間を操れないように『サモナー・ストーン』と『マジックシール・ストーン』を一体化させたのだ。
さらには布を巻きその上から【硬】を描き固めることで、誰も水晶に触れることも破壊することもできないようにし、完全な封印状態にしたのであった。
(くそっ! クソッタレがぁ~)
――しかし、馬琴は朝時を、人として助けてやりたいとも思っていた。
彼のやりすぎた行為を許すことはできなかったが、何もわからずに連れてこられた世界で見殺しにすることもできなかった。
自分としては甘い判断だとわかっていたが、無事に現世に戻る方法が見つかる時まで反省させ、その時は一緒に連れて帰ってやろうと思っていたのであった。
(マコト……優しいね)
「ルナリカ達にまた救われたな」
「まさか、お前たちをこの国から引き離す様に仕組んでおったとはな……ハーレイが転移魔法を使えて助かったぞ」
「ブルティーノ王とモルディナ王には、近々、私の方から謝罪しておく」
「お二人共、ノキア王をご心配されておられましたので、よろしくお願いいたします」
「――あのぉ~お取込み中すみません、ブランデァさんはどうしましょう?」
「おぉそうであった」
馬琴はブランデァに仕掛けている漢字をすべて解除した上で、ルティーナからブランデァに簡単な事の顛末と朝時と勇者召喚に関わる事を説明するのであった。
「そんな事が……わかりましたっ。この件は私も、その局面まで伏せておきますっ」
「よろしく頼む。ルナリカの事も内密にな」
「と言うことで、タイヘイの石はダブリスお前に任せる」
「はっ」
「さて、デーハイグ……本題に入ろうか?」
ノキア王は、デーハイグが知っている事をこの場で話す様に指示を出す。
元暗殺部隊としての正体はもう少し調査をしてからと考えていたデーハイグであったが、今回の事件で、正体を明かさざる得なかったため現時点での調査結果として報告を始める。
それを語る上で、王都爆破事件の頃の話を始めた。
デーハイグは王都爆破事件の2日前、息子のドグルスから自分でないと出来きない要件があると依頼され国外に出かけていた。
そして自分が居ないうちに何者かの指示で、王宮に爆弾をしかけていた可能性があると語る。
「つまり、ドグルスが爆破事件の犯人なのか?」
確信は持てないと言いながらも、当時から奇妙な単独行動が多く不審に思っていたことは認めるのであった。
実行犯がドグルスで計画者は別に居ると調べようとした矢先、怪我から復帰されたノキア王が召喚の隠蔽行為を裏で仕切り始めていた事や、ふるまいの変化に懸念を抱き、そちらの件も平行に調べることにしたという。
そのうちに2つの調査から、ノキア王の異変は『サモナー・ストーン』との関係性を知り、しらじらしくドグルスの裏の男を探る意味も込めて王が別人である情報と、水晶の破片が原因であることを伝えた。
「そして以前、王国武闘会が行われていた時に、スレイナという女幹部が国内に潜入しており、テレイザと何かやり取りをしておりました」
「その後、その女を尾行し調査をしておりました」
「そうか、それで武闘会が終わったあと、しばらく休暇をとっておったのか」
「そうです、その後、仲間らしき人物を洗脳し情報を引き出してはみましたが、ナガアキという闇魔法剣士が裏に居るというところまではたどり着きました」
「その者は、この大陸を取り囲む大海の先……地図はございませんが、孤島に潜伏していると思われます」
全員は「ナガアキ」という名前を聞かされ、この世界のものではないと確信し、80年前に召喚された勇者本人、ないし、接点がある人物に間違いないと睨む。
「それじゃ、ドグルスだけでなくテレイザも、そのナガアキの手下に成り下がってたのか……隊長として不甲斐ない」
(シャルの水晶に映ったもう1人の男って、デーハイグさんだったのね)
(そのようだな)
「私が現状、調査したことは以上になります」
ノキア王は後日、ルティーナ達とダブリスの調査結果を話し合うつもりであったが、まだ情報が集まりきれてないと伝え、デーハイグも引き続き調査に参加し日を改めて作戦会議を持つことになったのであった。
そして、ルティーナはデーハイグにドグルスの事を聞こうとした。
「ルナリカ様が何をおっしゃりたいかは、だいたい察しております。本当に申し訳ございませんでした」
「我が息子とはいえ、家系に泥をぬった男でございます」
デーハイグはルティーナ達が結果的にドグルスを罠にはめ殺してしまった件については、一切、恨んではいないと伝える。
むしろ、自分の手でと言わんばかりに。
守るべきノキア王を裏切っていた事を知っていながら、情報を得るためとはいえ野放しにしたことで色々な人たちを傷つけてしまったことを後悔していた。
(これって、デーハイグさんの本心かしら?)
(そうだな……でも、なんか複雑な気分だな)
「むしろ、サーミャ様に謝罪しなければならないのは当方でございます」
「ミヤは、その話を聞いてもデーハイグさんを責めたりしませんよ」
色々な思いを抱えるデーハイグは、ルティーナ達に暫くの間、頭を下げ続けるのであった。




