179話 混乱ト拘束ノ駆引
まさかの元暗殺部隊長のデーハイグの参戦により、朝時の計画を粉砕し追い詰める。
そんな中、状況を知らずにノキア王を救出するためにノモナーガ城に転移するルティーナ達。
ヘルセラに応接室の状況を確認させ、ルティーナとロザリナとハーレイの3人で突入を始める。
ルティーナ達が応接室の入口前に居ることを知らず、デーハイグとダブリスはブランデァをはさみ込み逃げ道を塞ぎ均衡状態になっていた。
一時は勝利を確信したはずの朝時であったが、想定外の出来事に動揺せずに落ち着いて逆転するきっかけを探していた。
「(こいつら、ブランデァを殺す真似はしねぇと思うが……こうなったら、こいつの体に刺して乗っ取――)」
ドゴーンっ!
爆音とともに応接室の扉が吹き飛び、中に居た全員が驚く瞬間にルティーナが透明になった姿で突入し、ブランデァの背後にまわり【硬】を描いた手を触れ硬化させルティーナは姿を現した。
「おぉ! ルナリカ! それにハーレイまで!」
「私もいますよ、ノキア王! 『シャイン・キャンセラー』で洗脳を遮断してます! 今のうちにフェンガさんの遺体を――」
「いや、違うんだ――」
突然ダブリスが騒ぎ始め――、ルティーナにフェンガの中から朝時は水晶の破片に逃げており、それを所持していたはずのブランデァが持っていないことを説明する。
(強引に突入した時に、石を隠したの?)
(それはない、『シャイン・キャンセラー』を展開していたから……ブランデァさんは操れない! まさか、また体を奪ったのか――)
しかし、馬琴の予想は外れていた。
ロザリナの魔法展開でブランデァから洗脳魔法が解除されたが、奇しくも朝時が今まさにブランデァに水晶を刺す体制に入っていた時であった。
正気を取り戻したブランデァであったが、爆発に驚き手に持っていた水晶をどこかに投げ捨ててしまう。
その時に偶然、触れてしまったことに気づくことなく――。
そんな事になっていることを知らないルティーナ達は、硬化させたブランデァに水晶が刺さっていないか確認していた。
そしてブランデァは自分がなぜノモナーガ城に居るのか? そしてなぜ体が硬化し皆に弄ばれているのか、錯乱状態になっていた。
予定外に彼の体を乗っ取て居ないことに気づいた朝時は、今の馬琴と同じ状態であることを瞬時に理解し、意識の中で冷静に息を殺すことに徹した。
「こ、ここは一体っ! の、ノキア王っ……デーハイグ様っ?」
「! ブランデァ? 正気を取り戻したのか?」
ブランデァの体には水晶が刺さった様子がなかったため、本人の言葉で間違いないと皆、安心したが、馬琴だけ腑に落ちていなかった。
そう、自分と同じように朝時も意識だけ入り込んでいる懸念であった。
その状態では体を操ることは出来ないが、ロザリナの魔法効果が切れた途端、フェンガの時のように再び『ダーク・トランスファー』で洗脳されてしまうと。
しかしブランデァの挙動を見る限り、ルティーナが自分と初めて邂逅した時のように混乱した様子は、一切見受けられなかった。
「私は何故、動けないのですか?」
馬琴は万が一を考え、硬化を解除せず事情だけを簡単に説明して、ダブリス達と一緒に『サモナー・ストーン』に触れないことに注意しながら部屋中を探すことになった。
その前に、ノキア王につけられている『カース・ストーン』の首輪を、サーミャを救った時と同じように指の平に【溶】を小さく描き取り外すのであった。
(この紐の断面はミヤにつけられていたやつか……千切れた紐の部分を加工し直したんだな)
「おぉさすがルナリカ! 助かったぞ」
しかし、その様子はブランデァの視覚と聴覚情報から朝時に筒抜けであった。
(くそっ里美、モルディナに居るはずが――)
(――なっ? 今……私の頭の中に声がっ)
(し、しまった……思考は筒抜けなのかっ)
「ぎゃーっ」
「ど、どうしたっブランデァっ!」
ブランデァは自分の中にいる朝時の声に恐怖し混乱した。
「お、俺の中に誰か居る~っ! ひぃ~っ――」
(ま、マコトっ)
(やっぱり! そこに居たかっ)
馬琴はルティーナにブランデァを再び触れさせ【眠】を全身に描き眠らせ静かにさせ、両耳に【音】を描くことで朝時の情報源を遮断した。
そしてロザリナの魔法に残り魔力であと何分延長できるかを確認後、急いで『サモナー・ストーン』の捜索を続けた。
しかし水晶の破片が小さすぎるため、簡単に見つけることができなかった。
「もう残り5分も持たないわ」
「ハーレイ様はほとんど魔力が残っ取れないんで、ダブリスさん、リーナに魔力をわけてもらえませんか?」
「あぁ、わかった」
全員が諦めムードになる中、ヘルセラが応接室に現れた。
彼女はハーレイの部屋で留守番している間、索敵を続けており大体の状況を把握していた。
どう見ても戦闘をしている様子はなく、30分近く朝時の気配は完全に沈黙している状態で、ルティーナ達の動きを見る限り何かを探していると判断したのだ。
「そうか、ヘルセラさんが居れば!」
ルティーナはヘルセラに詳しい状況を伝え、硬化しているブランデァに触れさせ朝時の魔力の残留がある水晶の破片を探してもらうことにした。
ヘルセラは、精神を集中しながら応接室に魔力を展開する。
2、3分すると彼女は、部屋の中にある置物の床との隙間を指さした。
一番近くにいたデーハイグは、置物をずらし水晶を発見し確保すると、急いでルティーナとブランデァが居る場所まで駆け寄った。
「ルナリカ、布は使わなくてもよいのか?」
「私には乗り移れないので、大丈夫です」
そしてルティーナは、水晶をブランデァに直接触れさせることによって、朝時を無事に抜き出すことに成功するのであった。
(くそったれがぁぁ~っ)
(こうなったらロザリナの魔法切れを待つしかねぇ、そうしたらもう一度ブランデァを洗脳して――)




