176話 執念ト窮地ノ脱出
ルティーナ達がハウルセン王をモルディナ王国まで無事に護衛し終わっている頃、ノモナーガ城では異変が起こっていた。
ブランデァがノキア王に『カース・ストーン』の首輪を着け、人質にするのであった。
その場に居合わせたダブリスは睡眠薬で眠らされ、ハーレイと魔法師団と近衛師団の幹部達は氷に包みこまれる部屋に閉じ込められ、全滅の危機に追い込まれていた。
そして、ブランデァとノキア王は――。
ブランデァは、怪しいそぶりもせず平然とノキア王と一緒に、管理物を保管する倉庫の守衛に挨拶をしながら中へ入って行くのであった。
「それより、何故ハーレイ達は追ってこぬのだ」
「そりゃぁ~あの大広間の仕掛けから脱出できたらの話だな」
「仕掛けだと? 知らんぞそんな話っ」
「知ってるわけねぇだろ?」
ブランデァは、ドグルスに何かに使えると仕掛けを作らせていたと語る。
ノキア王は、彼が暗殺部隊の面々を知り、さらには指示まで出していた事を聞き、頭の中ではありえないと否定しながらも一人の男が浮かぶのであった。
「ところで、あんたの事だ、奴の遺体は無事なんだろ?」
「! まさか、ありえんっ、何故だ何故なんだっ! やはり貴様、生きておったのか!」
「やっと気づいたのか? 遅ぇ~よ」
ブランデァは朝時に操られていたのであった。
死んだフェンガの中には、抜け殻になった体の中で意識だけの状態で朝時は生き延ていた。
「つまりフェンガの遺体は、まだ無事ってことなんだろ?」
「(なんてことだ……私を救うために命をたった事を称えて、火葬でなく氷葬にしたのが誤りだった)」
「俺様があの時、興奮して粉々にしてしまったが、召喚された時の『サモナー・ストーン』には変わりねぇ、もう一度触れれば、きっと……」
「(それで倉庫に……)」
朝時はノキア王に、ルティーナ達の中にいる馬琴や、エリアルの中にいる誉美を外に出せるヒントになるかもしれないと水晶も保管している可能性を示唆した。
「お前の後生大事に、なんでも取っておく癖が仇になったなノキア」
保管庫には、朝時が入っていた今では粉々になってしまった水晶で一番大きめの物を見つけ、自分の懐に入れた。
そしてノキア王と調べたい事は終わったと守衛に伝え、倉庫を後にするのであった。
「しかしノキアになりきってた8年間に、ブランデァや他国の官僚達にも『ダーク・トランスファー』を仕込んで置いたのが、こんな形で役に立つとは思ってもみなかったぜ」
「お前は世になりすましていた間、国を良くするためでなく最初からそれが目的で外交に力を入れていたのか?」
「いや待て! まさか今回のブルディーノからの急な護衛依頼は、ノモナーガからルナリカ達を遠ざける為か?」
「くくくくっ、ご名答~」
そして2人は、フェンガの眠る城内の地下にある特設墓地の前まで着ていた。
「(どうすればよいのだ、このままではタイヘイが復活してしまう……また、私を乗っ取ろうとしているのか?)」
「(ヘイガルはルナリカと共にモルディナ、ダブリスとハーレイは拘束状態……他に、この異変に気づけるとしてもデーハイグか……気づいたとしても)」
ノキア王は対処も何も打てずに、特設墓地の守衛にも何も伝える事も出来ずに、ブランデァと2人中に入っていくのであった。
「特設墓地かぁ、てめぇの親の死後20年の墓参りをさせられた依頼だな」
「しかしこの国は、過去の国王とか英雄級の人物を氷葬するなんて趣味が悪いぜ、まったく」
「タイヘイ、フェンガの遺体はこっちだ」
そして、朝時は氷で作られた墓に眠るフェンガの前に立ちはだかり、ブランデァの火魔法を使い氷を溶かし始めるのであった。
「(もう、奴は止められないのか……これでは振り出しに)」
「ん、ノキア、お前勘違いしてねぇか?」
「!」
朝時は、フェンガから出た後はノキア王に乗り移る気はなかった。
彼はこの先、国がどうなろうと関係なく、ただただマコトに復讐したいがために、タブリスに乗り移る事を考えていたのだ。
「あんたに乗り移ったら最後、取れない首輪がついてるんだ、自殺行為だろ?」
「フェンガに乗り移って実感したが、ダブリスなら同様の身体能力の高さと、俺様の得意の闇魔法を全開に引き出せる相性がある」
ノキア王は、ダブリスだけを個別に拘束し、ハーレイ達と違う対応をしたのかを理解したのであった。
そして氷の一部が溶け、ダブリスの顔がむき出しになり、朝時はブランデァの懐から水晶の破片を取り出す。
朝時は勝利を確信し、ノキア王にペラペラとブルデーノでの所業を自慢気に語り始めた。
まずは第一の側近グリンザルにしかけていた洗脳魔法を発現させ、反対派閥にいらない情報を拡散させた後、この魔法は1度に1人しか操れない為、魔法を解除すると自我を取り戻されてしまうため自害させたのであった。
その時にハウルセン王を暗殺しようと目論む分子がいる情報を耳にし、続いてブランデァにしかけていた洗脳魔法を発現させて接触させ作戦を計画した。
そして、今回の護衛団に被害を与えつつ、ルティーナ達に白羽が向くように手配したのだと。
「だがこいつも、俺がダブリスに乗っ取ったらお役御免さ」
その頃、大広間に閉じ込められたハーレイ達は迫りくる氷の壁は時間が経つ程に厚くなり、ハーレイの最大魔法でも破壊できずにいた。
「ハーレイ様っ、お役に立てず申し訳ありませんっ」
「おまえらは回復薬で怪我人を介護してやってくれっ」
「まぁ気にすんな、後でヘイガルちゃんからきっちり貸しを返してもらうからさ(……とは、言うものの)」
そして閉じ込められて10分程の時間が経過した頃、防壁と加熱で時間稼ぎをしていた魔法師団達の魔力が底をつき始めた。
「(やはり外から解除してもらうしか手がないのか? 誰か……気づいてくれ……)」
ハーレイは部下達に強がってはいたが、さすがに諦めかけていた。
そんな中サーミャの顔が目に浮かぶも、このまま自分が戻れないと魔力補充が定期的に行えず激痛に耐えられずに死んでしまうことを悔やんでいた。
「(――そ、そうかっ!)」
「どうかされましたか?」
「聞けぃっ!」
ハーレイは部屋の中心に走り、全員に氷壁に抵抗することをやめさせ、自分の周りにぴったり着くように集まれと声をかける。
「は、ハーレイ様っ? 抵抗をやめたら自殺行為では――」
ハーレイは考えた。サーミャから預かっていた『ヒーリング・ストーン』を使えば、皆を連れて脱出できると。
だが充電ができなければ一度しか使えない転移の為、ノキア王救出を第一に優先するにはどうしたらいいのか、氷が迫りくる中で決断が出来ずにいた。
もしサーミャが眠る部屋に転移するなら、2度目の転移をすることなくノキア王の元へ駆けつけられるが、現状で疲弊してる兵力では返りうちに遭ってしまう。
そうなれば、頼りになる戦力を連れて戻って来る選択肢しかなく、真っ先にルティーナ達の存在を思い浮かべるが、ロザリナが一緒にいなければ戻ってこれずにノキア王を救えない。
逆もしかりでロザリナが単独行動していないとも限らないのであった。
困り果てたハーレイは、彼女達がモルディナに到着している事を願いつつも、最悪、出会うことができなかったとしても、確実に戦力になり2度目の転移が出来る女性を目印に、背に腹はかえられず転移を決断するのであった。




