175話 私怨ノ強襲ト危機
時間は遡り、ルティーナ達がモルディナに到着していた頃、ノモナーガ城では――。
「ブランデァ様、お待たせいたしました」
「ノキア王の許可をいただきましたので、どうぞこちらへ」
そこには、ノキア王に謁見しようとするブランデァの姿があった。
そして何の疑いもなく彼は、王が待つ応接間へ案内されていくのであった。
「このような時間に、何があったのだ? ブランデァよ」
「はっノキア王っ、まずはこちらの物をご確認くださいっ」
ブランデァは懐から小さな箱を取り出し、ノキア王に差し出した。
「なんだこれは? 開けて良いのか?」
「どうぞっ」
そして、ノキア王が箱を開けた瞬間、箱の中から眩ゆい光が発生し、思わず目を閉じてしまう。
その様子を見たブランデァはノキア王の後ろに回り込み、首に『カース・ストーン』を装着するのであった。
「(くくっく、ギルドの封印庫に、こんなものがあるから悪いんだ……何が条件かは知らないがな)」
「さぁ~て、めんどくさい口調も終わりだ」
「おいダブリスっ、どうせその辺に居るんだろ? 隙を狙ってないで出て来いよ」
そこに慌てたダブリスが、屋根裏から飛び出し姿を現した。
「き、貴様っ、ノキアに何をしたっ!」
「(なぜこいつが、俺の事を知っている…………いや、ありえんっ)」
「おいおい、物騒なものはしまっておけよ、ノキアがどうなってもいいのか?」
「そ、その首輪は……」
「やっぱり、知ってる顔だな」
「(こいつ、どんな条件を付与したんだ?)」
ギルドの倉庫に有った『カース・ストーン』は、以前、サーミャがドグルスに装着されていたものを、ルティーナが外しギルドに保管されていたものであった。
当時は、『サーミャが魔法を使うと首が締まる』と脅されていたが、『カース・ストーン』には誰がという条件は付与できないことに騙されていた。
つまり、条件は装着者が『魔法を使うと首が締まる』であり、ノキア王は魔法が使えない為、実害はない。
だが、その経緯をブランデァは知っておらず、脅しに使うには十分な効果であった。
「さぁて、発動する条件は何だとおもうぅ~?」
「くくくくっ、王の命がかかってるぜぇ~慎重に考えるんだなっ」
「貴様っ」
「ダブリスは、ここに這いつくばれっ!」
ブランデァはダブリスから武器を取り上げ、王室の床にうつ伏せ状態で鎖で貼り付けにされた。
さらには自決用の薬を奥歯から抜き取り、睡眠薬を飲ませ沈黙させるのであった。
そしてノキア王には、城内の兵士に大広間で話があると集合させるように指示をだすのであった。
――コンコン。
「ハーレイ様、いらっしゃいますか?」
「ん? こんな時間に何だ? 入っていいぞ」
「ハーレイ様、失礼いたします。王からの指示で今から大広間に集まるようにと」
「こんな時間にか? (これから、サーミャちゃんに今日の分の魔力を補充しなきゃならねぇてのに)」
「他には?」
「ヘイガル様は護衛任務で不在ですが、それ以外の魔導師団と近衛師団の主要幹部に声がかけられているようで」
「緊急の指示があるとのことです」
「(緊急……?)わかった、すぐ行く」
――。
「しかし、ブルデーノの護衛を断ったから何か言われるのかとあせったが、こんな招集は初めてだな……っても俺が魔導師団長になったときは既に、王はタイヘイに操つられていたんだっけか……(だから、やらなかっただけなのか?)」
「(しかし、サーミャがここでずっと寝ている事はさすがに、王も衛兵も知らねぇか……)」
「とりあえず、魔力補充が優先だ」
――そして招集から20分程遅れて、ハーレイは大広間に到着するのであった。
「お、遅かったのハーレイ」
「すいませんっ、やっぱ俺が最後っすか?」
「(ん? 王は寒いのか? 首に布を羽織ってやがる――それに、なんでブランデァが王の横に居るんだ?)」
「ノキア王っ、近衛師団幹部7名全員揃いました」
「魔導師団幹部、俺を含めて……(あれ?)5名……」
「申し訳ありません、魔導師団の医療班がまだ揃っておりません」
「いらねぇよつ言うか、ここにいてもらったら困るんだよ」
「ブランデァ? 貴様――」
「この部屋はいざという時の仕掛けがしてあんだ、貴様らには大人しくしておいてもらうぜ」
「ちっ『ライトニング・ニー――』」
ハーレイがブランデァに先制攻撃をしかけようとしたその時、ノキア王の首元をあらわに見せつけた。
「そ、それは……『カース・ストーン』? じゃねぇか」
招集された全員は、その場を動かないように指示され、ブランデァはノキア王を引きずるように部屋の外へ連れ出すのであった。
そして、ブランデァが部屋の扉を閉めた瞬間、大広間の外壁から徐々に内側にむかって凍り始め、全員に迫ってくるのであった。
「なっ、何だこりゃっ」
「(この部屋になんでこんな仕掛けが? ブランデァの奴が? いやいや王宮だぞ! ここわっ)」
「(しかし、床に風穴あけりゃ脱出できるじゃねぇか)」
「てめぇら落ち着けっ! 『アース・クエイク』っ」
ハーレイは、魔法によって床は崩れ落ち、ここが2階であったため1階に脱出できると想定していたが、逆に怪しい煙が崩れた床石の隙間から噴き出し、周りにいた数人の近衛兵が倒れ込むのであった。
「どうなってんだよっ! (床から何っ――毒か? それで医療魔法が使えるやつを……)」
「おまえら四方に分散しろっ」
ハーレイの的確な指示で、土魔法が使える者に床の隙間を塞がせることと、『ロック・ウォール』を壁をつくらせ侵食の時間稼ぎをさせた。
そして、火魔法が使えるものには、その壁にむかって放熱することで氷を溶かすようにさせ、近衛師団は自分の周りに集まるようにした。
ハーレイは、サーミャに魔力を補充していたため、たいして魔力が残っておらず温存するしかなかった。
「(とは言うものの脱出方法を考えないと、全員魔力切れで全滅しちまうぞ)」
「(浸食の速度が意外と早ぇ、俺たちのあがきを計算に入れても10分も持つかどうかだな……)」
そのうちに、氷を溶かした蒸気で周りは見えなくなりはじめ、まわりの冷気で結晶化し呼吸するたびに肺の中に氷が突き刺さり、魔法師団の数人が体調不良を訴え始めて効率が悪化していた。
「くそ、やればやるほど裏目に出やがるっ」
「風魔法が使える奴っ、できるだけ凍りついた蒸気を周りにこさせないように、小間目に風で循環させろっ!」
――その頃、ノキア王は。
「さぁてノキア、貴様には案内してもらわないと、いけない場所がある――」
「(場所だと?)」
「(もうすぐ、俺様! 復活だぁ!)」




