174話 一時ノ平穏ト暗雲
ルティーナ達は襲撃してきた賊を捕獲し、リーダー格と思われる男の記憶から首謀者の情報を得ようとしていた。
しかしそこには、ギルド長のブランデァの姿があった。
今回の護衛案件に疑念が高まるも、馬琴はブルデーノ王国にはびこる反対派閥に釘を刺しておくことで今後の行動や、帰国時の妨害をさせない提案をする。
モルディナ王国の魔法師団長 ウエンディ=グランデ
ルティーナ達は、2手に分かれて行動をすることとなったが、男から引き出した情報に困惑を隠せずに居た。
賊はブルデーノに帰国後の証拠になるため、全員に【眠】と【微】を描き、眠らせ小さくした状態で馬車の片隅に乗せ、モルディナに向けて出発した。
しかし王をはじめ護衛共々、言葉を失い会話もなく時間は過ぎていき、気づけば最後の峠も越えた頃、日が暮れてかけていた。
「予定より早く、無事にモルデリド王国を抜けられそうですね」
「そ……そうだな」
(ハウルセン王……精神的にかなりきてるな)
そして何事もなく、モルディナに入国後そのまま王城までたどり着くのであった。
そのままハウルセン王とセレーナ姫は、モルディナ国王に挨拶するため、ルティーナ達は客間に案内されるのであった。
「とりあえず、ここまで暮れば目的は達成ですね」
「ルナリカよ、この城からは邪気は感じぬから、もう気を張る必要はなさそうじゃわい」
「わかりました、ヘルセラさんが居てくれて助かります」
「あとは、エル達が反対派を抑えてくれるといいんだけど……」
「今のままだと、帰りも護衛した方が良さそうだね」
「とりあえずは、婚姻の話が成功することを祈り――」
安心している3人の元へ、ハウルセン王の執事が部屋にやって来た。
話しによると、これから2時間後に食事会を設けることとなり、ぜひ『零の運命』にも同席してほしいとモルディナ王に相談を持ちかけられたらしい。
ルティーナ達は何故自分たちがと戸惑うが、ハウルセン王からの護衛の話し聞いたモルディナ側からの要望だと聞かされる。
(どうするぅ? マコト)
(今後の活動を考えたら、顔を売っておくのはありだとおもうぜ、光属性と攻撃5属性の魔法使いウエンディ様って人にも会えるんじゃないか?)
(そうだね……そういえばハーレイ様、名前を出した時に嫌な顔してなかった? 結構、めんどくさい人なのかしら?)
ルティーナ達は、二つ返事で了承し食事会に同席することとなった。
それを確認した執事は、城の関係者にそのことを伝えに戻るのであった。
そして数分後、ハウルセン王とセレーナ姫が挨拶から戻ってくるのであった。
「そうか同席してくれるか、ありがとう」
「ルナリカ、ロザリナ、ヘルセラ様、我々女性陣のお召しものを準備していただけるそうなので、それまでに入浴やら身支度をしておきませんか?」
「えっ、入浴……」
(今度こそ、しかも姫も!? キタコレッ)
「どうかされまして? ルナリカ」
「こういう機会もなかなかありませんし、ご一緒にいか――」
「あぁ~~そうそう、ヘルセラ様、セレーナ姫、3人でまいりましょう」
「あらロザリナ、ルナリカは誘わなれないのですか?」
「あ、あ、あ、そ、それがですね……(ゴニョゴニョ)……」
「……あら、そうでしたの? 気がつかなくてごめんなさいね」
「では、また後ほど」
「(ありがと~リーナ)」
(え~、何を気遣っちゃったの~姫~置いて行かないでぇ~)
(え~じゃないわよっ、全くぅ)
(それなら、今度ヘルセラ様となら入ってあげるわよ)
(……お、俺が悪かった)
ルティーナは、ロザリナの一言で納得したセレーナ姫に何を吹き込んだか気になってしまった。
すると、馬琴がさらっと口をすべらせてしまう。
(女の子がお風呂を遠慮すると言えば、あれだろ?)
(あれって何よ!)
馬琴は、ルティーナの反応に今更ながらの事実に気づいてしまった。
(? 生――あっ、まさか! ルナの体はまだ12歳……そういえば半年以上も一緒だったのに……一度も…………)
(なんの話よっ! 答えなさいっ)
(ひぃ~)
なんとか馬琴はルティーナを必死になだめ、衣装を着替え食事会が開催される会場に案内された。
まずは各々の自己紹介から始まる。もちろん、ルティーナ達の容姿にモルディナ王が突っ込まずにいられなかった事は語るまでもない。
そして――。
「――最後になりますが、わたくし、魔法師団長ウエンディ=グランデと申します。このような場にご同席させていただき――」
風貌は白髪かつシャルレシカに引けをとらない豊満な体型であり、年齢のせいか色っぽさというか母性が兼ね揃ってっていた。
(女性だったのね……なんでハーレイさんは?)
(でもさ、あの人シャルっぽくない?)
(マ・コ・トぉ? 何を見てシャルっぽいって思ったのかなぁ~? これはトモミさんへの報告案件ね)
(ぎゃ~っ!)
「って! もう、我慢でできません! 彼女達が噂で聞いていた『零の運命』――」
「おちつきなさいウェンディ! この場を何だと――」
ウェンディはモルディナ王と第三王妃との間に出来た娘であり、王位継承権は持っていなかった。
しかし、幼少の頃からずばぬけた魔法力と才能が開花し、今では国を守る重鎮となっていたのであった。
そもそも、この会にルティーナ達を参加させてほしいと依頼した張本人であった。
「皆様、興奮のあまり取り乱してしまいました。大変申し――」
「よいよい、これくらいに気さくな方が、気が楽ですよ。このような時間はそうそうありませんからな」
(少しは、笑顔に戻ってくれてよかった)
「ハウルセン王が、そのように言っていただけるのであれば……」
そして、食事会もだいぶお酒が進み盛り上がっていた。
お酒で気分が高揚しているウェンディがルティーナ達に本格的に絡み始めた。
「――今度は、絶対、サーミャちゃん連れてきなさいよぉ」
「そういえばロザリナちゃんってさ、私でも1日で2回が限界の再生魔法を連発できるんでしょ?」
(『ちゃん』って……なんだろこのノリ……まるでハーレイ様――)
「は、はぃ」
「でも、う、ウエンディは、そのかわりに全ての攻撃魔法が使えるでないですか」
「ルナリカちゃんだって、全ての攻撃魔法が使えるじゃない?」
「ねぇ~お父様、ルナリカちゃんと余興で手合わせしたいんですが、見たくないですか?」
(あははは、見た目はシャルだけど性格はミヤだな)
困り果てたモルディナ王は、申し訳無さそうにルティーナに依頼する。
そして、2人は明かりが照らされる庭に出向き、王達は2階のベランダから双方を応援し始めるのであった。
「さぁ~お父様っ、合図をお願いしますね」
「私が大怪我しても、ロザリナちゃんがいるし本気で来なさいっ」
「「(え~?)」」
そしてモルディナ王の合図で戦いが始まった瞬間、ウェンディの目の前に突然、『ディメンジョン・テレポート』の黒い空間が出現するのであった。
ウエンディはルティーナがいきなり大技を仕掛けて来たと勘違いし、相殺するために魔法で攻撃をしかけようとした瞬間、ルティーナは攻撃をやめさせようとするのであった。
(えっミヤが、なんでウェンディ様の所へ?)




