173話 暗躍ノ主犯ト困惑
ハウルセン王一行は、モルディナ王国を目前にしていたが、賊の襲撃を受ける。
その賊の中でのリーダー格の人物が居る場所をシャルレシカが突き止め、ルティーナは他の賊をロザリナとエリアルに任せ、1人で突進するのであった。
ルティーナの足が漢字で強化されていることで、想像以上の速さで接近されたことに焦る男は、弓矢で攻撃を仕掛けるが、難なくかわされてしまう。
ルティーナも走りながら、【爆】が描いてある手裏剣を数枚投げ込み爆発させることで、男の視界から外れた瞬間に足を止め、地面に手をつき【凍】を描き広げ足元を凍らせることで拘束しようとした。
しかし、男は広がる漢字に気づき、近くの岩場に飛び乗り避けるのであった。
(マコトっ、この男っ)
(知ってる……だと? 俺たちの攻撃を……どういうことだ?)
(どうするの、この装備じゃ……)
「そうか、こいつがルナリカとかいう化け物かっ」
(酷ぉぉ~い、こんな可愛い女の子に向かってぇ~)
(マコトぉぉぉ~)
(はいはいお嬢様、さくっと黙らせちゃいますか)
ルティーナは、地面に手をつき【輝】を男の方に向かって描き広げていた。
男は漢字の意味が解らないが触れてはいけないと注意しながら横の岩に駆け上がり攻撃を逃れようとしたが、その瞬間にルティーナは目を閉じ『起動』した。
漢字に注意していたため凝視していた事で、目がくらみ登っていた岩場から転落してしまい地面にたたきつけられるのであった。
すかさずルティーナは【雷】を描いたクナイを男に投げ込み、電撃を食らわせ気絶させるのであった。
(ざっと、こんな感じで)
(さすがマコト、漢字を警戒しているのを逆手にとったのね! 勉強になったわ)
その頃、ロザリナとエリアルもあっさり賊を料理し終わっていた。
「ルナぁ、もう10km圏内には悪意はぁありません~」
「わかったぁ~! こっちも片付いたから、こいつを連れていくね~」
ルティーナは、捕えた男を皆のもとへ連れていき、賊、計20人近くを木々に拘束した。
そして早速、ルティーナの捕まえた男の記憶をシャルレシカが読み取るのであった。
(まずは、誰の入れ知恵なのか?)
(そして、何故、俺たちの『能力』を知ってた理由が気になる)
シャルレシカの力で、今回の首謀者の情報について記憶を読み取ると、水晶に映し出された男の姿にハウルセン王が凍り付いた。
その男は、自殺したと言われていた第一の側近グリンザルであった。
「何故あやつが……裏切っていたのか」
(だが……自殺する理由がない)
ルティーナは自分の『能力』の事を知っている件が気になり、それについてシャルレシカが記憶を読み取り続けていると、そこにギルド長のブランデァが映し出された。
「! なぜギルド長が一緒に」
そこ居合わせた執事は、映る男に今回の護衛の件を依頼し、次にノモナーガ城に向かおうとした時に、自分が伝えておくから大丈夫だと言われすべてを任せたと証言するのであった。
「つうことは、ブランデァはわざと夕方まで引っ張ったというのか? 当日に強引に出発される可能性を潰させて、コイツラに先回りさせて準備していたってことか?」
「まさか……あんな人望の厚いブランデァが、そんなことを……」
「そんな人には見えませんよね」
(でも、ブランデァさんが組織の仲間だったの?)
(勇者側の組織なら、今回の件に何の意味が……彼には痣らしきものはないし)
「ルナ、ノスガルドに戻ったら――」
「そうだね、でも、まずは今回の護衛案件を片付けるのが先ね」
「そうじゃルナリカ、1つだけ世にも確認させてもらえないだろうか?」
「あ、構いませんよ。情報は多い方がいいですし」
ハウルセン王は、シャルレシカにこの男がブルデーノでかかわった人物が他にいないかを確認した。
すると、水晶に思い当たる人物が数人映りこんでいた。
「お、お父様っ、彼らは……トレイユ伯爵、それにバレンツ侯爵まで……これは一体」
「あぁ、我が国はどうなってしまっておるのだ、貴族達までつるんでおったとは……なんたことだ……」
「シャルレシカの力があれば、こやつらからさらに探れるやもしれぬな――」
(相当、根が深そうだな)
(どこがどうなったら、こんな繋がりが……全然、関係性が見つからん)
(さすがのマコトでも、手詰まりなのね)
(そうだっ)
(?)
すると馬琴はルティーナを介し、ハウルセン王に耳打ちさせ得る。
現状を踏まえると、賊を一網打尽にしたことで、この先に大きな障害はないとした上で、護衛の方の2匹の馬を借り、案内役として大臣1名とヘイガルとエリアルとシャルレシカでブルデーノ王国に向かわせることを提案する。
「どういうことだ?」
シャルレシカは自分たちに向けられる悪意を容易に探し出すことができる事を利用し、ハウルセン王達がモルディナでの交渉後に帰国するまでに反対派の主要人物を拘束すると言い出す。
「なるほどの頭を押さえれば、次の手が打てなくなるというわけか」
「だが、そやつらがシャルレシカには関心を持たぬだろ?」
そこで一緒に戻る大臣に、ハウルセン王が信頼を置くそれなりの地位の人物と共に、貴族たちに対して芝居を打ってもらう作戦をすれば目が向くと。
ハウルセン王は、シャルレシカがいればグリンザルのように裏切りは判断できると理解し、数人の名前を伝えた。
だが、ハウルセン王はメンバー編成に不安を感じていた。
ルティーナは、悪意を判断するシャルレシカが暗殺される危険性が高いため護衛として騎士2人をつけることが必須だと判断した。
それに2人とも騎乗ができるため、借りた馬で2人乗り移動ができると。
そして、先に説明した通りこの先に障害が発生する可能性もなく、王達が万が一に怪我をした場合の治療にロザリナ、シャルレシカには及ばないが索敵ができるヘルセラと、護衛には自分が居れば対応はできると説明した。
「そうじゃな、ルナリカの予想どおりこの先、悪い予感はせぬな」
「(よかったのシャルレシカや、これでブルデーノに行けるな)」
「(はいぃ)」
「うむ、現状の最適な提案であることを理解した。それで頼む」
そうして、ヘイガルは大臣と、エリアルはシャルレシカとそれぞれ馬に騎乗しブルデーノまで最短距離で駆け抜けていった。
「おそらく、ブルデーノまで馬単騎であれば、東の森を無理やり抜ければ、2日もかからないはずだ……」
「こちらも出発するぞ!」




