171話 襲撃ト王様ノ胸中
ルティーナ達はノモナーガ王国内にあるブルデーノ王国の大使館へ出向く。
本来であれば、増援の護衛が来るはずだったのが到着が滞っているため、ギルドからの増援、ルティーナ達と、ノしかしキア王からの増援、近衛兵団にヘイガルが同行する事になった。
しかしハウルセン王はモルディナ王国と同盟を結ぶことを良しとしない派閥が存在していることが、今回の一連の状況に関与されていると不安を持っていた。
すでに出発準備が出来ていたルティーナ達は、ハウルセン王達の準備を待っていた。
「あと30分ぐらい、かかかるってさ」
「そういえばシャル、落ち着かないね」
「実はぁ〜」
シャルレシカは、ハウルセン王が依頼を出したのが朝と言っていたのに、自分たちは昼過ぎまでノキア王と居たにもかかわらず、そんな連絡は来ていなかった事に疑問を感じていた。
「! え、何っ? それっ」
「なんだと? 俺は別件で夕方に外出していたから依頼の経緯は知らなかったが、直前にギルドから伝令がきたって話だったぞ」
「それじゃ、ギルドで話が止まってたってこと?」
続けてシャルレシカは、夕方、レミーナから依頼を受けた時も、数分前に届いた案件と言っていたことを思い出した。
「ということは、ギルドに連絡が来る前に止まっていたとしか……ハウルセン王が出した使者が? まさか、例の反対派閥の回し者?」
ルティーナ達は、出発前にハウルセン王にこれ以上余計な心配をさせたくないと考え、ここだけの話にするのであった。
しかし、馬琴は、何故、依頼を遅延させる必要があったのか?
結果的にすぐ護衛体制が整ったことと、もともと本国からの増援待ちの午前中までが期限であったため、そのような工作があったとしても影響はしていないことに、理由が見当たらなかった。
そして数分後、護衛の男が出発の準備が出来たと、ルティーナ達を迎えに来る。
馬琴は回し者が一緒に同行している可能性を示唆しながら、わざと2台の馬車に搭乗するメンバーを提案し、護衛中に何かしらの動きを探ることにした。
先頭を走る馬車の客室には、ハウルセン王とセレーナ姫、そしてルティーナとシャルレシカとヘルセラとヘイガルが搭乗する。
続く、2台目の馬車の客室には、ロザリナとエリアル、執事と側近2人、そして護衛が2人が搭乗し、残りの護衛2人は騎乗で並走することになった。
―― 一方、ルティーナ達が大使館から出発する様子を、遠くの建物の影から見つめる男がいた。
「(まぁ半日も潰せたなら上出来か……これで、あいつらはこの国に戻れない)」
「(だか、サーミャはどこに行ったんだ? 後で合流すると言っていたが)」
「(あと厄介なのは、ハーレイとダブリスぐらいか……俺様をこんな目に合わせやがって……)」
さすがのシャルレシカでも、無索敵で悪意を察知できる範囲外であったため、男の気配に気付くことなく出発してしまうのであった。
「ところでルナリカや、馬車の振り分けの理由を教えてもらえぬか?」
「……ハウルセン王には隠し事が出来ないようですね」
ルティーナは、任務の依頼が前日の午前中に各所に届いて居なかったことを説明した。
ハウルセン王は正直、昨日の夕方にノモナーガ王国の増援が決まっていれば、本国からの増援到着を見切り、後から追いかけさせることもは視野にはいれていたが、ノモナーガ王国にも準備があると昨日はあてにしていなかったという。
ルティーナが指示を出した人物を問いたが、それは執事であった。
だが午前中には依頼の申請から戻って来ており、それから終日ハウルセン王と一緒に居たため、夕方に依頼が届くことはありえないと養護した。
「そうか、今回の件は反対派の仕業だと考え、何かを探ろうと馬車を分けたのだな?」
「ご明察でございます」
(そうなると、どこで依頼が……)
ハウルセン王は、話しの流れでルティーナ達に最近の不穏な出来事を共有し始めた。
それは、今回のモルディナとの同盟の件は2ヶ月前に決定し、国を出立する前日に自分の一番の側近が自殺する事件が発生した。
一番の理解者であった外務担当であっただけに、交渉への段取りが破綻しかけたがなんとか進める事ができたという。
結果、増援依頼の件も本国と動きがうまく連携できず、今回のような状況に繋がっているのではないかと。
「反対派に消されたのとうことですか?」
そこでルティーナは提案した。
もし、この先で賊の襲撃が発生した場合は、容赦なく拘束し、シャルレシカの力で捕まえた奴らから情報を引き出せると。
「そんなこともできるのか? 凄いな君たちは……それならば反対派のしっぽを掴むことができるかもしれぬな」
ギギーッ! ヒヒーンッ!
順調に走行していたが、最初の峠の入口で急に馬車が止まるのであった。
「何事じゃ!」
「シャルっ!」
「え、えぇ〜とぉ、周辺2kmには悪意はぁないですよぉ~」
すると、騎乗で並走していた護衛から、この先の峠が崖崩れで道が完全に塞がり、通過できないと報告が入る。
「なんだとっ……くそっ! これも……」
「ハウルセン王、ここは無職のルナリカにおまかせを」
「なっ、(まだ怒っておるのか?)」
ルティーナは颯爽と馬車を降り、崖崩れの中心に【溶】を4m程を描き瓦礫を溶かしては、次の【溶】を描き繰り返し、道を切り開いていくのであった。
「おぉ~、これは魔法ではないのか? ……素晴らしい」
「ルナリカさんて……何者なんですの? お父様」
「あやつは、職業に分類できんのじゃよ」
「なるほど、だから職業が無いと言われる理由か……世は、失礼な事を言ってしまったな」
無事に道が切り開け、馬車が通過しようとした時、シャルレシカが騒ぎ出す。
2km圏内に魔物が迫りつつあり両脇から10匹ほどづつ近づいてると、外に居るルティーナに声をかける。
「シャルレシカさん? ……先ほどから2kmって……そんな索敵が! 何者なんですの?」
「それより、なんなのだ! この出来すぎた状況はっ!」
外の様子を伺っていたエリアルはロザリナを馬車から一緒に連れ出し、シャルレシカに自分たちは右側を押さえることを伝え、彼女にはルティーナと左側を任せると伝言を頼んだ。
「え、ロザリナさん、シャルレシカさんも戦うのですか? 戦闘的な職業では……」
「まぁ、あいつらに任せとけば大丈夫ですよ姫様」
「(えぇ、ヘイガル様は何もされないのですか……)」
「ハウルセンっ、黙って見ておれ」
「は、はいっ、ヘルセラ様」
「(お父様、ヘルセラ様には本当に頭が上がらないのですね)」
魔物は地上系のデーアベとデアボだけであったため、ルティーナは余裕で手裏剣とクナイを駆使し充分対処ができた。
エリアルは二刀流の魔法剣、ロザリナは格闘術、シャルレシカはサーミャから預かった『エクソシズム・ケーン』による攻撃を披露し、いとも簡単に計20匹余りの魔物を5分もかからないうちに片付けていた。
あまりにもの手際の良さにハウルセン王とセレーナ姫は、呆然としていた。
「あはは、うちの護衛が出る幕がないな」
「(こやつらなら……)」




