169話 依頼ト思惑ノ任務
シャルレシカとヘルセラはノキア王に謁見に出向く。
ヘルセラは自分の直近の未来視で、80年前に封印された厄災が、今後6回目の満月の日に封印が解けることを告げる。
しかし、どこに封印されているかまではわからないため、現状では半年後の迎撃準備しか出来ない状況であった。
ヘルセラは必要なことだけをノキア王に告げ、シャルレシカの用事に付き合う。
シャルレシカは自分に鑑定の能力が必要だと、ギルドの鑑定士オリハーデと会う。
しかし、鑑定は遺伝だと言われ落ち込む彼女であったが、ブルデーノ王国に後天性で鑑定士になったファイデンという男が居ることを聞く。
希望が見えたシャルレシカが帰宅しようとした時、受付のレミーナから『零の運命』を指名する案件があると話しかけられた。
シャルレシカはレミーナから案件の全容を伺い、ルティーナに相談して明日の返答でいいと確認した上で、ギルドを後にするのであった。
しかし彼女は拠点に戻らず、反対方向にある武器屋タリスに足を向けるのであった。
「どこへいくじゃシャルレシカよ、拠点はあっちじゃなかったか? もう夕方じゃぞ、寄り道は明日にせんか――」
「ルナの気配がぁ、あっちにあるんでぇ~」
「?」
ヘルセラはシャルレシカの索敵精度の質問をした。
彼女からは2kmは当たり前と聞かされ驚愕する。高度な能力者でも500mが相場で、一族でもヘルアドが1kmの索敵を行っただけでも脅威だ言われていたにもかかわらず。
ヘルセラからしてみれば、シャルレシカは一族とは異質の無属性魔法が使えており、例えば、一族が得意な『未来視』が苦手で、一族で誰も出来ない物や人間の記憶からの『過去視』を得意としている事自体、異常な事はわかっていたつもりだった。
「――2kmが普通とかぬかしおる、末恐ろしい娘じゃて」
「えへへぇ」
「褒めとらんワイっ!」
「しかし偶然じゃが、狙ったような案件が迷い込んできたのぉ」
シャルレシカは、偶然にも目的のファイデンが居るブルデーノ王国からの案件であったことに、何か情報を得られるかもしれないと期待に笑みがこぼれていた。
そんな中、拠点に帰る途中のルティーナ達と出くわすのであった。
「あ、シャルにヘルセラさん! 迎えにきてくれたの?」
「はぃ~ミーナさんがご指名案件があるってぇ話を聞いてきましたぁ~」
そしてシャルレシカはルティーナに、案件の内容をそのまま伝えた。
――任務の内容――
[ノモナーガ王国内、ブルデーノ王国大使館→ギルド]
・モルディナ王国まで国王と姫の護衛。
・ブルデーノから本国の移動の最中に護衛団の半数が、魔物や盗賊との交戦により損失してしまったための現地補填。
・この先、盗賊や魔物に襲撃される可能性を払拭できないため、王都とギルドより信頼の置ける冒険者を希望。
・日程は1泊2日での馬車にて野営、状況次第では途中通過のアビリガ王国にて宿泊を検討。
[報酬]
・人数問わず、総額金貨300枚
「返答はぁ、明日の朝一にほしいそうですぅ」
「(別に帰り道だから、明日でなくても今から――)」
「どうしたのよ、エル? 姫様の護衛って聞いて本領発揮したくなっちゃったの?」
「もうリーナったら」
その内容を聞いた馬琴は、いつノキア王からの招集がくるか解らない状況で、緊急の大型案件にも関わらず明日でいいという行動の遅さに違和感を感じていた。
ギルドからは信頼の置ける冒険者として、なぜレミーナは兄のアンハルトが居る『碧き閃光』に声をかけなかったのか、それとも偶然シャレウレシカに会ったことで声をかけてくれただけで、断られたらそうするつもりだったのか?
あと、王都からも誰かを出すということは、兵団クラス。つまり、ハーレイかヘイガルになる――。
(――マコト、またいつもの独り言が始まった)
(招集の事でしょ? ハーレイさんかヘイガルさんが来るなら、王様も解ってるんだからこの任務が終わった後に調整してくれるよ)
(そうだな、考え過ぎか――)
黙り込んだルティーナを見ていたシャルレシカは、自分は皆が喜んで任務を受けてくれると願っている矢先に、馬琴とルティーナが口論になっているのではないかと心配になり、悲しい顔になってしまった。
「ごめんごめん、受けたくないとかじゃなくって! そ、そう、今さ武器がないから護衛をどうやってやろうかなぁ~って」
「そ、そうなんですかぁ?」
ルティーナはシャルレシカを気遣い、嘘を付く。
エリアルも何かの不安にかられていたため、ルティーナが無言の状態になっていたことを察し、彼女なら今まで通りの手裏剣の戦法で十分に護衛できるとフォロする。
それを聞いて安心したシャルレシカは、今夜は肉が食べたいとロザリナにおねだりし、買い物をしながら拠点に戻ることにしたのであった。
「(本当にいい仲間に巡り合えたんだな、シャルレシカよ)」
「なぁルナリカ、わしも連れて行け! 大使館にいる悪ガキに逢いとおなったわ。それに誰も居ない拠点に留守番は勘弁しておくれ」
(大使館に悪ガキ? 誰か知り合いでもいるのかな?)
「そ、そうですね。ミヤが居ないと転移は使えませんしね。わかりました」
そして翌日、5人は早速ギルドに向かい、レミーナを探していた。
だが他の受付嬢に話を聞いたところ急遽、体調不良で休みを取ったことを聞かされる。
やはり昨日、帰り道に声をかけるべきだったのではないかと後悔していたところへ、ギルド長のブランデァが顔を出し案件の話は自分が聞いていると手を差し伸べた。
そしてルティーナ達は、今回の任務を受理する意向を伝えるのであった。
しかしルティーナは馬琴が気にしていたことを、ブランデァに確認した。
すると、ギルドでの高難易度の案件が発生した場合に依頼するパーティーの序列があるという。
ここ数ヶ月前までは、第1が『碧き閃光』、第2が『暁の疾風』、第3が『黄金の月』であったが、2日前に序列変更の指示がノキア王から第1を『零の運命』とし以降は繰り下げとする命が降りていた事を聞き、前回の朝時事件の報酬とは今後のギルドでの高額の案件を優先に回してくれる保証をしてくれてたのだと理解するのであった。
(やっぱり、マコトの考えすぎだったのよ)
(すまん)
「あとモルディナ王国との交渉の約束が3日後なのでっ、急いですぐそこのブルデーノ王国大使館に向かってくれたまえっ」
「やはり急いでおられるんですよね? それならなぜ昨日のうちに――」
ブルデーノ本国に増援要請を出して、状況次第では今日にでも増援到着するか連絡を待っている状態であったため、回答は今日でも問題はないと説明された。
「じゃぁ、取り越し苦労で断れる可能性もあるんですね?」
(しかし、増援は来るだろ普通? 一国の王と姫の護衛だぞ……なんか裏がありそうだな)
「ところで、サーミャさんを見かけないようだがっ」
「あぁ、気にしないでください。そのうち合流するので」
(そんな嘘を言っていいの?)
(また勇者の手下が、監視しているかわからないからな)
(そっか)
「では、よろしく頼むっ」
そして、5人はその足でブルデーノ大使館に向かうのであった。




