167話 親子ト魔法ノ儀式
ルティーナはバルスト達に、暗殺に関わる事件は解決したことを伝えた。
そこへ、ジェイスと村に居るはずのヘルセラが、アジャンレ村にたずねて来ていた。
彼女は、皆が居る孤児院にやってきて、自分をノスガルドに連れて行くように言い出す。
ルティーナとサーミャは承諾して、ノスガルドまで転移するのであった。
サーミャとシャルレシカとヘルセラはルティーナ達より先に出かけ、ノモナーガ城に向かうのであった。
「しかし、また、ばあさんと逢えるとは思わなかったぜ」
「まぁまぁそう言うでない、救世――」
「あ~それ、かったるいから、普通に呼んでくれよっ」
「そ、そうかい、それじゃサーミャと呼ばせてもらうさ」
「サーミャ、お前さん私生活で何か悩みをかかえておるだろ?」
サーミャはヘルアドにハーレイとうまくいっていないにもかかわらず、これからどんな顔をして修行をつけてもらえばいいか悩んでいたことを見抜かれていた。
しかしヘルアドは、父親は自分は働くことしか子どもに貢献出来ない生き物であり、いつも大切に考えているものであると前置き、それがうまく伝わらずサーミャが避けてしまっているのではないかと伝えた。
「まぁあの親父は不器用だからな……助言として覚えておくさ、ありがとな、ばあさん」
そのうちに、ノモナーガ城の門前に到着する。
サーミャは守衛にはヘルセラとシャルレシカをノキア王に謁見できるように説明する。
「シャルレシカはここの兵士には大人気だから、よろこんで連れて行ってくれるってよ」
「ぶぅ」
「なんじゃ、お前、すごいんじゃな」
「違うもんっ」
そして、サーミャはしばらく留守にする為、何があれば使ってくれと『エクスシズム・ケーン』をシャルレシカに託し、2人を残し、城内の魔法師団の施設にハーレイを尋ねる。
コンコンッ
「ん? サーミャちゃんかぁ? 入ってきていいぞぉ」
「お、おうっ(なんか調子が狂うな)」
ハーレイはサーミャを自分の部屋にある個室へ案内し、ここで2週間生活してもらうと告げる。
しかしサーミャは目と鼻の先にある新しく出来た拠点から通ってもいいのではないかと疑問視するも、彼はそれは無理だときっぱり言い放つ。
「まぁいいけどさ(意味がわかんねぇ、修行だよな? 別に、帰って風呂ぐらい入らせろよ)」
「ところでサーミャちゃん、儀式の前に相談があるんたが……」
ハーレイはサーミャに『ディメンジョン・テレポート』のやりかたを教えてほしいと仰ぐのであった。
サーミャは『ヒーリング・ストーン』がないとハーレイでも無理だといい、この石は自分がルティーナからもらったもので、フォルブレア火山で発見されたものだと説明する。
「フォルブレアって、大噴火を起こして立ち寄れないところじゃねぇか」
「あとはルナが持ってるだけだし」
しかしハーレイはサーミャ以外にも使える可能性がある人間は自分しか居なく、万が一の為に知っておくのは悪いことではないと説得する。
サーミャも他に光魔法の代わりができる道具があるかもしれないと、渋々顔で詠唱と転移の条件を教え、さっそく『ヒーリング・ストーン』を使わせて試させるのであった。
そして詠唱を試したハーレイは、満面の笑みでその場から消えるのであった。
「うまくできたみたいだな」
「ま、王宮だし回復師使い放題だから、後で充電させてもらいえばいいか」
――そして数分後、血まみれになったハーレイがヘイガルに担がれて部屋に戻ってくるのであった。
「よぉ、サーミャ」
「はぁ、おっちゃん――って、親父ぃ?」
「あははは、うまくいったんだが……こいつに迎撃されちまった」
「そりゃ、そうだろ! あんな黒い空間が目の前に現れたら、誰だって攻撃するだろっ! まさかあれが転移魔法だったなんてな」
ハーレイはサーミャに転移先には十分注意しろと言われたばかりであったが、同じ場内にいるヘイガルであれば変な場所に出ることはないと高を括っていた。
彼はそもそもサーミャがどういう状態で自分の前に現れたのかを、一時的に失明していたため見ていなかったのだ。
「……この魔法は安易につかえないってことだな、サーミャちゃんが渋ってた理由が解ったよ」
ヘイガルはハーレイをベッドに寝かせ、回復師を呼んでくると慌てて部屋の外に駆け出すのであった。
そしてハーレイは、サーミャに治療がすんだら闇魔法の儀を始めるから待っててほしいと言おうとしたが、サーミャは理解しており傷口の止血を黙々とやっていた。
「(なんだかんだ、優しいじゃねぇか)」
その後、ハーレイは回復師により治療がされた後、説教されていた。
そんな中サーミャは、申し訳無さそうに『ヒーリング・ストーン』の充電もお願いするのであった。
「まぁまぁへこむなよ、親父」
「そろそろ大丈夫だろ? さっさと教えろ」
ハーレイはサーミャの左肩にある自分の細胞の因子を全身に展開することから始めると言う。
サーミャは言われるがままに個室のベッドに横たわらせられ、ハーレイは真剣な顔をして詠唱を始めるのであった。
すると彼の両手から魔力の球が現れ、サーミャの体に触れると黒い闇が包み込み始めた。
そしてみるみるうちにサーミャの左肩のあざが体中に広がりだし、きれいな肌色の体が見る影もなく黒く染まっていく。
「ぐっ、な、なんだよ……これ……親……父……か、体がぁ……く、苦しい」
「とにかく、10日ほどこの状態が続く、耐えてくれ」
「ま、マジか……よ……修行って嘘かよ! 最初に……言えよっ(帰れない理由はそれかよ)」
ハーレイは意識を失いかけているサーミャに、このことを最初に言ってしまったら嫌がることがわかっていた為、あえて伏せていたのであった。
しばらくするとサーミャは、全身が黒くなりながらも静かになる。
「後は俺が定期的に魔力を供給すれば、寝ている間の激痛はある程度緩和される……これから10日間は目が覚めないが、俺が守ってやるから安心して寝てくれ」
「(な、何……なんだよ……そいう言葉は……普段から言いやがれ……)」
ハーレイはサーミャの素質は自分以上のポテンシャルがあるのを薄々感づいていた。
不運にも闇魔法だけ遺伝しなかった事を知り、サーミャの為とはいえ10歳の誕生日にひどいことをしてしまったと後悔をしていた。
それが理由で、彼は無意識に距離を取ってしまい、アンハルトの元へ修行という形で冒険者にしていたのであった。
「サフィーヌの無系魔法の遺伝もなかった……お前が生きていれば、同じ事をしていただろうか……」
「しかし、しばらく見ない間に寝顔はサフィーヌにそっくりの美人じゃねぇか……もう少し女の子らしく育ててやればな……俺のせいだ……すまんなサーミャちゃん」
「(くそ、まだ意識は……あるんだよ! なにを恥ずかしいことを……ふん……ばあさんの言ってた通りか……こいつも素直になれねぇだけじゃねぇか)」
「(この儀式が終わったら……一発はぶんなぐってやるからな……覚えてろよクソ親父)」
「――? そうとう激痛だろうに、笑ってやがる」




