166話 今後ノ課題ト会遇
ルティーナ達の念願の拠点が完成した。
彼女たちは理想の住処を手に入れた事に大満足したのであった。
そんな中、ルティーナは両親に朝時が封印されたことで、もう暗殺に怯えることはない事と一緒に暮らしたい事を伝えるために、サーミャの魔法でアジャンレ村へ飛んだ。
ルティーナとサーミャはバルストを目印に『ディメンジョン・テレポート』を行う。
そこには、さすがに一度体感はしているものの、何の予兆もなく突然に禍々しい空間が出現することに気もを冷やすバルストとアンナが、顔をひきつりながらおののいていた。
「事前に連絡してくれないと恐怖でしかないぞ……それに、お前らが来たら部屋がめちゃくちゃだ」
「ご、ごめんね急に……」
「まぁ慣れたけど――」
「あなたっ、ルナの服……あれって……」
「っ!」
「に、似合うかな? お父さん」
「あぁ……ぁあぁ……ううぅぅぅん、ちょ、超かわいいじゃないかっ」
ルティーナが来ていた服は、バルストが18歳の誕生日にプレゼントした服で、大きくて着れないと台無しにしてしまったものであり、事件が解決した時に着てよろこばせようと温めていたのであった。
着れなかったはずの服は、以前バルステンで皆でショッピングをしていた時、シャルレシカの服を加工したことを応用にして大きな部分を『能力』で細工し、自分に合う服に仕立てていたのであった。
「約束、守ってくれたんだな。ありがとうな」
「(そうか、ルナはこれを見せたかったんだな)」
「(あのクソオヤジとは、こんな風には出来ねぇんだろうな……)」
バルストはそんなルティーナを見て、何かを察する。
「そうだよ! やっと解決したんだよ」
ルティーナは、『王宮爆破事件』でノキア王が体を乗っ取られて別人になっていたことが原因で、その事件を知る者の命が狙われたことを2人に説明し始めたのであった。
ただしノキア王との約束もあり、たとえ親でも肝心なところはぼかしつつ、その陰謀をを粉砕したことで、もう命は狙われないことだけにかいつまんで話すことにした。
『勇者召喚』を行っていた事は話の辻褄をあわせるために、あえて実験的な目論見で召喚師にやらせていたことにしておいた。
だが馬琴と誉美の事は、これからの戦いに巻き込ませたくない為、話すことをやめた。
「そうか、あの時の光るものはその召喚の時の水晶の破片だったんだな……そして、それを知るものを始末か――じゃぁ、連絡がつかなくなったあいつも……」
「つまり、ルナ達がノキア王を水晶の呪縛から解放したってことなの?」
「そうだよ」
「だから、もう死んでたことにしなくていいの、お父さんお母さん……もう安全だから、ノスガルドの私たちの拠点で一緒に暮らさないかな?」
「「……」」
ルティーナから、自由に生活できることを聞かされたが、バルスト夫婦は悩んでいた。
一度は諦めていたが家族、3人が一緒に暮らせるようになることに喜びを感じながらも……。
「バルストさん、せっかく大好きなルナと一緒に暮らせるようになるのに、嬉しくないのかい?」
「あたいたちは大歓迎だぜ」
サーミャの温かい言葉に涙目になるバルストであったが、アンナが自分から皆に話すと切り出す。
アンナは、以前、ルティーナが訪問してきた時に事件解決までもう少しのところまで着ていると聞かされ、2人でこれからの事を話し合っていたと言う。
それは、この村での生活が気に入ったことと、それ以上にこの村の人たちに必要とされてしまっていること、そして一番はこの孤児院の将来だという。
子どもたちが不憫なことと、神父が寝たきりのままで動けないことを気にしており、自分たちだけ幸せに暮らしていいのかと悩んでいた。
「そっか、そうだよね……この村には必要な人になっちゃったんだもんね」
「それに、エリアルさんとお父さんはこの村を魔物から救った英雄になってるのよ」
「え、そんなことになってるの?」
コンコンッ
「あら、誰かしら? こんな時間に」
そこに現れたのは、ジェイスト村に居たはずのヘルセラであった。
以前、ルティーナがここを訪ねて引っ越す事を勧められていたため、アジャンレ村を一目見ようと先ほどに到着し訪ねてきたという。
この日にしたのも、彼女たちに会えると確信があったからである。
「でも、私たちが居るってよくわかりましたね」
「わしかて、シャルレシカには劣るが、それぐらい感じるわいっ」
「早速用件じゃが、わしを連れてノスガルドに戻れ」
「え? 突然ですね」
「たぶんシャルレシカが悩んでいるはずじゃ、役にはたつじゃろうて」
(シャルがやろうとしていることに関係するのかな?)
そしてヘルセラは、バルスト達はこの村に残すように伝え、娘の巣立ちだと思えば普通のことだと納得させた。
「こいつらがいなくなったら、ここに引っ越してきても意味がないからのぉ」
(それが本音じゃん)
「ところで夜も遅いし、今日は――」
ルティーナは、アンナに申し訳無さそうに予定があるので長居できないと謝罪した。
そして改めて皆で遊びにくることを約束して、ヘルセラと3人で拠点に転移するのであった。
バシュっ!
「消える時は普通なのにな、この魔法は一体なんなんだろうな……」
「でも、これでルナはもう危険にさらされることはないんですよね」
「そうだな。幸せになってくれるといいな」
そして、ルティーナ達はシャルレシカの部屋に到着した。
「ムニュ? おはよ――ばぁばっ~」
「おぉシャルレシカや、ってもう寝てたのか?」
ヘルアドに先日までの事情を説明し、今夜は一旦、シャルレシカの部屋で一緒に泊まってもらうことにした。
そして翌朝――。
「そっか、リーナとエルは初対面だよね」
「お主がロザリナかい? 勇者の血を引くものか」
「エリアル、あんたもルナリカと同じ匂いを感じるねぇ?」
「(さすが、シャルのおばあさんだ)」
「しばらく世話になるぞ、部屋はシャルレシカと一緒にしてくれ。色々話がある」
「あとこれからノキアの所に連れていけっ」
(呼び捨てする仲なの?)
「唐突だなばぁさん。どうせ朝ご飯を食べたら王宮に行くから、あたいが連れて行ってやるよ」
そして、朝食後にそれぞれに部屋に戻って出かける準備をするのであった。
ヘルセラの目的の1つに、シャルレシカが何かをやりたいことで息詰めっていることを察して居たため、それを手助けをすること。
そしてもう一つは、ノキア王に伝えたいことがあったのだ。
「お前にはいろいろと潜在能力はあると思うが、宛てはあるのかい?」
「ギルドに行けばぁ、1人……」
「そうか、ノキアのとこにお前も着いてこい! その後ギルドに着いれていけ」
「うんっ」
「それより、ちゃんと魔力制御の訓練はしとるじゃろうな?」
「……」
「しとらんのかいっ! これからは毎晩修行だな」
「ふ、ふぇ~っ」
「あんた、ルナリカの役に立ちたいんじゃろ?」
シャルレシカは自分が初めて出来た大切な友達のルティーナの力になろうと必死だった。
それは先日の予知夢で、彼女がこれから困難の壁にぶち当たる夢を見てしまい、なおさら思いが強くなっていた。
「ふんっ、本当に大好きなんだなルナリカの事が」
「うんっ」
「だが、きっとお前さんなら出来るさ」




