163話 過去ノ勇者ノ隠蔽
~漆章の振り返り~
自称、元勇者でありロザリナの叔父と名乗る男の組織に、ロザリナが誘拐されてしまう。
シャルレシカの能力で、なんとか居場所の情報を掴み、『碧き閃光』と共同で救出作戦を実行する。
その裏ではノキア王の命令で暗殺部隊がルティーナ誘拐を目論んでいた。
ついにロザリナを無事救出するも、油断した瞬間にルティーナが暗殺部隊に誘拐されてしまう。
ルティーナは魔力を持たないためいつものシャルレシカの残留魔力での索敵ができず、捜索を諦めかけるが、ヘルアドに教育をうけた予知夢によりノキア王といっしょにいる未来が見えたのであった。
そこでノキア王の監視をすることで、おのずと誘拐されたルティーナにたどり着けるとその時を待つ。
ルティーナが王城の地下牢に監禁されたことを確認し、『零の運命』が謀反を承知でノモナーガ城に殴り込みをかける。
城を守る近衛師団と魔法師団との戦いを経て、ルティーナの居る地下牢にたどりつき、ノキア王と暗殺部隊と対峙し勝利を収める。
ノキア王の胸に刺さっている水晶の破片には太平 朝時が取り付いており、それを抜き出し本来の王様に戻すことができた。
しかし、朝時の悪あがきでフェンガを操るが、結局、自決され終焉を迎えた。
そして、無事に事が終わり、ノキア王から勇者召喚で何があったかが語られる――。
ノキア王はルティーナ達に自分の知る話を整理し、80年前の勇者の話を語り始めた。
当時、勇者召喚されたのは、男2人と女1人で、男の1人は闇魔法の使い手の重剣士、もう1人は不思議な魔法のような力をふるう剣士、そして女性は膨大な魔力量をもつ光魔法の使い手で、彼らは1年後に訪れる厄災に立ち向かうことを使命とされ、その魔物を封印することができ世界を救ったと。
しかし、彼らも無事ではすまず、戦いの後に全員、息を引き取ったという。
「――と父が亡くなる前に聞いたことがあるが、ヘルアドが自分が子どもだった頃にあった話しとほぼ一致しているのだ」
(不思議な魔法のような力をふるう剣士? まるで、俺とルナのことじゃないか?)
しかし、討伐するはずだったにもかかわらず、なぜ封印したのか? そして勇者の3人共、死んでしまった詳細については、一切資料は残っていないという。
だがロザリナの話から、祖父と名乗る勇者が存在していることに、その時の話しの根底が崩れてしまうのであった。
「なぜ何も資料が……そんな伝説級な出来事、後世に残りそうじゃないですか?」
「そうか、その事実を隠蔽するために暗殺部隊が結成された……」
ルティーナは、馬琴の声がそのまま口に出てしまう。
それを聞いたノキア王は、暗殺部隊が結成された時期も重なることと、昨今の隣国との戦力情勢を考えると勇者が生きていたら都合が悪かった可能性を考えるとありえない話ではないと答えた。
そして、ダブリスから以前、暗殺部隊が結成から数年後、ある任務で全員死亡し総入替りになり今に至っていることを聞いたことがあると付け加えた。
(全員死亡? 勇者を暗殺して、その人間たちも隠蔽? 80年前何があったんだ)
(もしロザリナの叔父と名乗る勇者は、生き残り? いや、生き延びて復讐をしようとしていると考えれば……)
ロザリナは、その男には直接はあっておらず、声は洗脳された男の声だった為、本人かどうかはまでかは自信がなくなり初めていた。
仮に、生存していたとしても100歳前後であるのは間違いなく、普通に生きているとは思えず、勇者を語る誰かかもしれないと。
「なぁ親父、『ダーク・トランスファー』で操った人間を爆破ってできるのか?」
「はぁ、そんな事できるわけねぇだろ?」
(スレイナも、爆破されたよね?)
「やはり、ただの人間がそんな魔法は使えないってことですよね? 本当に、その闇魔法使いの勇者、本人の可能性はあるかもしれませんね」
「そういえば、召喚された女性は膨大な魔力量をもつ光魔法の使い手って言ってませんでしたか?」
(!)
サーミャは、ロザリナの膨大な魔力量と光魔法は、その闇魔法の男と光魔法の女との間に生まれた子どもからロザリナの母親キャサが生まれ、そして本当の父親ガベルと間に生まれ遺伝を引きついでいる話に触れ、その時キャサは魔力を混ぜたくないと魔力を持たないガベルと結ばれたと聞いている。
「何よミヤ、その話?」
「そうか、ルナには話す時間がなかったな――」
サーミャはルティーナに、ロザリナ救出時に反対の洞窟で起こった出来事を説明した。
「――そんな事があったのね」
(いや、それだと時間軸が……)
馬琴は、召喚から討伐まで1年もなかったことから考えて困惑していた。
出産を考えると、召喚された直後に闇魔法の男と関係を持ち、討伐前に出産したとしても戦える体ではなく、ましてや身ごもっていた状態ならなおさら討伐に参加できない。
そう考えると討伐直前に関係を持ち、光魔法の女が生き延びて出産したとしか考えられなかった。
(そうだとしても、『魔力を混ぜたくない』という言葉が引っかかり、闇魔法との男との間では成立しない……いや勇者の魔力と一般の魔力を混ぜたくなかったのか?)
「しかし、生き延びた暗殺部隊程の手練れが見落とすわけがない」
「だが、闇魔法の男が生きているということなら、暗殺の任務を失敗している可能性もある……」
「こればっかりは、想像の粋を超えてますね……」
(それ以前にやつはリーナを血を使って、何かをしようとしていたんだろう)
(ルナ、俺の想像は伏せておいてくれ、もうちょっと考えたい)
(わかったわ)
想像だけの話で会話が暗礁に乗り上げてしまったため、ルティーナは今後について話をすすめた。
自分たちは、ロザリナを誘拐しようとした勇者の仲間の1人を確保していることを話し、後日、シャルレシカの能力で組織を探る予定を説明した。
ノキア王も、ダブリスに他国の過去の記録や情報を調べさせることを確約し、今後、情報交換をすることを確約するのであった。
「しかし今回、勇者召喚はした……トモミという女性はどこにいったんだろうか?」
(ルナ、この期に言っておくべきだな)
「……ノキア王、ここだけの話にしていただきたいのですが、最低でも勇者はタイヘイ以外に2人、私とエルの中にそれぞれ存在しています」
「「「!」」」
それを聞いたハーレイは、タイヘイが入っている水晶を必死に触れさせないようにしていた理由を察した。
「私の場合は、マコトという召喚された人が意識の中にいて、私に能力を与えてくれてます」
「それが、勇者の力……分類できない職業の能力か」
「――と言うことは、エリアルちゃんには?」
「そうです。トモミさんは最初は剣に乗り移っていたようなんですが、今は僕の中に居るようなのです」
「しかし、意識はないようなのですが、剣に魔法を……たぶん、ルナと同じ能力を展開してくれるんです」
その話を聞いたノキア王は、ルティーナを誘拐した理由に納得がいった。
そして、朝時とは違い、馬琴と誉美が協力的な勇者であったことに安心をするのであった。
「勇者達よ、聞こえていると思うが、これからも彼女達を見守ってくれ」
(もちろんだ)
「とりあえず、『碧き閃光』の皆さんもなんらか気づいているので、ちゃんと説明させていただきます」
「そうか、あいつらか。いろいろ言い訳が大変だろうから、極秘ということで、正直に皆に伝えることを許可する」」
「あと、今後、この件を話が広がるような自体が発生した場合は、私に相談してくれると助かる」
「わかりました。そう言ってもらえると助かります」
「そちらはそちらで調べてくれたまえ。こちら側での調査が出来次第、招集をかけるから、ここで話そうではないか」
「「「「「わかりました」」」」」
「(フェンガさんの遺体の件は、よろしくお願いいたします)」
「(あぁ、ダブリスが対応しているはずじゃ)」
会議が終わり王城を後にする頃には、皆の眠気が吹き飛ぶ程の青空が広がる清々しい朝になっていた。
ルティーナ達はとりあえずアンハルト達に今回、世話になったお礼と、今朝の王との会話の内容、そして自分たちの秘密を説明するために『碧き閃光』へ向かおうとしていた。
しかし、サーミャはハーレイに話があると城に残るのであった。
「ルナ、先に行っといてくれないか?」
「?」
(親子で話したいんじゃないかな?)
「んじゃ、あとでね。 今回は助けてくれて『ありがとう』」
「(いいや、これからだ、おまえの役に立てるのは……)」
「おや、サーミャちゃん? みんなと帰らないのかい?」
「さては、お父様が恋しく――」
「なんねぇ~よっ、さっきの件だよっ」
「あぁそれか」
「それじゃ今日は体を休めて、明日俺を訪ねてこい! ただし、2週間帰さねぇから覚悟しろよ」
「?……わかったよ」




