162話 勇者召喚
朝時はフェンガを闇魔法で洗脳し、姿を消して悪あがきをしたが、ダブリスとハーレイから魔力を分けてもらったロザリナの『シャイン・キャンセラー』が炸裂する。
フェンガにかかっている闇魔法は消失し、姿を現わされ洗脳からも開放される。
しかし、彼はこのままでは再び洗脳されることを理解しており、朝時を道連れに自決を選ぶのであった。
そんな不本意な幕切れに一同は落胆しながらも、城内の混乱を収めるべく地上へとあがったのであった。
近衛師団と魔法師団が城内の片付けを始めた事、ルティーナ達はノキア王に連れられ王室へ入る。
全員が着席し、ノキア王から例の話を聞かされることになる。
「さて、落ち着いたところで、まずは8年前の爆破事件の話からしたほうがよいかな」
ノキア王は、8年前になぜ秘密裏に『勇者召喚』を行っていた理由を説明し、当日の謎の爆破により妨害され、自分を除いて全員が死亡してしまったこと、そして、次に気づいたときは朝時に完全に支配されていたことを淡々と話した。
召喚の儀の最中に水晶に2人だけ男と女の姿を確認したところまでは覚えており、他にぼんやり見えかけたところで爆発が起こったところまでが自分の体で自覚していた。
その後、朝時が自分の記憶の中から、その水晶に一瞬だけ映った誉美の姿を見た記憶に興奮していたのを覚えているという。
そして、ちらばった水晶の回収とこのことを知る人間の隠蔽の為に、暗殺部隊へ様々な指示を出していた。
「ところで、なんで爆破事件が起こったんでしょう?」
「犯人もわかってないんでしょ?」
「そうだな結局、タイヘイが調査を放棄してしまったからな」
「そうなんですね」
「そういえば、その隠蔽にはドグルスも居たのですよね?」
「あぁ、一緒に隠蔽していたが……ドグルスの事を知っているのか?」
「私たちと戦って、自分の罠で死にました」
「国を裏切り、他の組織に属していました」
「他の組織?」
ルティーナは、その組織が『勇者』を名乗る物が黒幕だと、そしてそれがロザリナの叔父であることを伝えた。
ノキア王も『勇者召喚』の儀を行うときに、ヘルアドから80年以上前にも勇者召喚されていたことを聞かされていたため驚きを隠せなかった。
そこに追い打ちを駆けるように、シャルレシカがヘルアドの孫であることを知り、ここに集う面々に因縁を強く感じてしまうのであった。
「しかし、いつから裏切っていた?」
「言われてみれば、どこで聞きつけたのか? タイヘイに『サモナー・ストーン』があれば、破片で魂を抜きだせる事を吹き込んでおったからな」
(あの失われた水晶にルナが触れることができれば、俺は外に出られるのか?)
(いや、水晶の中に移るだけ……だよな)
ノキア王は話が脱線したと、80年前の過去の話は後回しにし、朝時に関わることを続けた。
水晶探しとは別に、誉美が誰かに自分みたいに取り付いている可能性を示唆し、2年前から『武闘会』を開催し特殊な力を使うものを豪華賞金で誘い出すことにしていたと。
(たしかに大会で、あんだけ漢字を披露してしまったかなら、この世界の力でないって気付くのはわかるけど……)
「まんまと、乗せられちゃったわけね」
「「「まぁまぁ」」」
「それで、私にトモミさんが乗り移っていると勘違いして……リーナの誘拐騒ぎに便乗したのね」
(ある意味、エルにはちゃんとした理由があったけど、結果的にトモミには近づけたってことか)
結果、誉美がルティーナの中に居ると周りが見えなくなり、誘拐に至ったことですべてを失う結果となった朝時であった。
「もう少し冷静に立ち回られていたら、こんな話をすることはなかっただろうな」
「そういえば、さっきはぐらかされたが、サーミャが消えた魔法の秘密はなんだ?」
サーミャはルティーナと目を合わせながら、渋々、この後に続くノキア王の勇者の話にも関わるかもしれないと『ディメンジョン・テレポート』が使えるようになった経緯を話した。
「――ってことは、お前は俺の治療に使ったその石で、疑似的な光魔法と5つの攻撃魔法で転移魔法が使えたのか」
「この世界で光魔法と攻撃5属性が使える奴……モルディナ王国のウエンディだけか…………」
「ん、親父、だれだそれ?」
「あ、いや……」
ノキア王はその話を聞き、魔法の技術を共有するのが本来の姿であるとは思っているが、今はまだその時ではないという。
国家間の戦力バランスが一期に崩れかねない魔法であるからである。
そのため、この件については然るべき時がくるまで、最低限の人間だけの秘密にしておくことを願った。
ルティーナは、この事を既に知っている『碧き閃光』やヘギンズのことを情報共有し、彼らにも厳守を徹底すると約束した。
ただ、ルティーナは自分の両親の話は、今ではないと馬琴に言われ伏せることにした。
「しかし、80年前に謎の魔物に襲撃され砂漠になったというのは驚愕の事実だが……これも過去のの勇者召喚の時の話しに繋がっていたとはな」
「なぁ、親父……」
「なんだサーミャ? やっと魔導師団に入る気になったか?」
「違げぇ~よっ」
「あのさ、闇魔法の使い方教えろよ!」
「あ、それな。お前っ20歳になったら、使えるように儀式をするつもりだったんだが、行方不明になってだっただろ? 心配したんだぞこれでもっ」
「(20歳? その時って……心配してくれたんだこいつ)」
「ん――儀式?」
サーミャは、自分が闇魔法を使えるようになると言う話を聞き、期待感に目を丸くした。
「お前の左肩にあざがあるだろ?」
「そういうやぁ10歳の誕生日の朝だっけか? 激痛で目が覚めたら――ってなんで知ってんだよ!」
「あれは俺だ。お前がいびきをかいて寝てる間に、俺の細胞を埋め込んどいた」
「はぁ? いびきなんてかかねぇし!」
「それはどうでもいいっ! 勝手に、娘の体を傷ものにしてんじゃねぇ~っ!!!!!」
暴れるサーミャを横目に、ハーレイは黒魔法の遺伝子をもつサーミャが使えるようにするために、10年かかる儀式の前準備だったと語る。
「ハーレイ、久しぶりの親子の談笑もそこまでにせぬか?」
「……もう日が昇る。そろそろ今日は一旦解散するぞ」
「だから、最後に80年前に召喚された勇者の話をさせてくれ」
「つうことだサーミャちゃん、話は後、後」
「(クソオヤジが!)」
ノキア王は、自分が先代の王からおとぎ話のように聞かされていた話と、実際ヘルアドからも聞いた話を織り交ぜて整理した内容を語り始めた。
それは約80年前に、この世界を滅ぼす魔物が現れると言われた1年前に、ノモナーガ王国は3人の勇者を召喚した。
その3人は――。
(第漆章 「無明長夜」編 完)
次回から、第捌章 「過去ト現在ト未来」編 に入ります。
ノキア王から80年前の勇者の話を聞かされることなり、これから数年後に起こる大災害に向け、皆は自分のそれぞれの考えを見つけ突き進みます。




