160話 転移攻防 ~前編~
ノキア王が覚醒した。
朝時の入った水晶の破片の摘出が成功して一安心するルティーナ達であったが、1つの謎に直面していた。
この水晶に入っている朝時は、水晶から出られないのか? それとも、誰かが触れることで再び乗り移るのか?
摘出後、直接触れているのはルティーナとエリアルの2人。
彼女達には、馬琴と誉美が既に意識に存在していたという共通点で救くわれていたのではないかと馬琴は推測していた。
そして、朝時も同じ事を――。
馬琴は誰かに布か何か包む物を用意させるようにルティーナに伝え、朝時の入っている水晶の破片をハーレイのマントでぐるぐる巻きにするのであった。
そして、とにかく触れないように全員に注意喚起するのであった。
一旦、落ちついたが、馬琴はこの先、朝時の身をどう扱うか悩んでいた。
「ルナリカ、貴方には大変申し訳なく思う。だが、ノキアを助けてくれてありがとう」
「私達は、それなりの処分は受けるつも――」
「そうね、あなた達を許すつもりはないですが……」
「王直属の暗殺部隊って王の命令は絶対よね――だけど、王様は別人だったんだもんね、それぐらいわかってる」
「だから、暗殺部隊が何をしていたか話して頂戴」
「ご配慮に感謝する」
「暗殺部隊は俺とそこにいるフェンガと他に――」
「あと、最低3人はいると言うか、いたんでしょ?」
「! そこまで知っていたのか」
ダブリスは、横たわるノキア王を見つめながら語り始めた。
表舞台の近衛師団や魔導師団とは別に、影での国の防衛の為の精鋭組織として内密に前々国王の代に、他国への潜入や諜報、裏切者の暗殺など隠密活動を行う仕事をする部隊を結成した。
しかし、約80年前になぜ急にこんな組織を結成しようとした理由はわかっていない。
彼は30年程前、5歳の時に両親をなくし引取口がなく孤児院に預けられていたが、7歳の頃に闇魔法の片鱗が現れ始め、その様子を周りの子供達に恐れられ忌み子として孤立していく。
それの話しを聞きつけた当時の暗殺部隊の隊長に裏から手を回され、ノモナーガ王国の地下にある組織用の施設で育つことになる。
それから5年後の話。
当時王子だったノキアが、城の頂きにある展望室でふざけて遊んでいた時に誤って転落してしまったのを、隠密で訓練していた最中に偶然助けてしまう。
彼と同い年であった王子と、その日を切欠に心を交わす関係になった。自分は光が当たらない生活は変わらないまま……。
そして8年前、王都爆破時事件が起こり、ノキア王の安否を気遣っていたが、翌日、無事なことが確認でき安心したが、彼の指示に同様を隠せなかった。
水晶の破片について知る人間、関わる人間を違和感なくかつ事故、事件のようにし一度にではなく数年に1人か2人の単位で抹殺する事。
そして、水晶の破片を集める事。
「――だから、事件の日を境に人柄が変わったことに疑問を持っていたのね」
「あぁ、本来であれば爆破事件の真相を探る任務と思っていたが、その日からノキアとは本音で話すことがなくなり、事故の隠ぺいに力を注いていた理由を何も答えてくれなかったのさ」
「その理由は、タイヘイってやつに聞かないと解らないか」
「……その必要はないぞ」
「ノ、ノキアっ! まだ、安静に――」
「不本意とは言え、ロザリナ君に殴り殺されると覚悟を決めておったが、助けてくれたことを感謝する」
「きゃ~ごめんなさいっごめんなさいっごめんなさいっ――って、あれ? タイヘイに完全に乗っ取られていたのでは?」
「そう、私の中に居た、タイヘイという存在に体の自由は完全に奪われて監禁されていた感覚だった」
「そして時折、意識は流れ込んでいたんだ」
「ダブリス、世が不甲斐ないばかりに、今まですまなかった」
「いえ、本当にノキアなんだな」
「今は清々しい気分だよ」
「タイヘイの国政のお陰で国の経済、他国との国交や交流により国を豊かに変えてくれたことは感謝していたんだ」
「だが、本当の目的は、ただトモミという女性を自分のものにするために……ふざけた命令を……」
「ノ、ノキア……」
フェンガはその時、ダブリスが任務に失敗してもいいような口ぶりだった理由が理解出来た。
そして、いくら偽の王の命令だったとは言え、たくさんの人間を無意味に手にかけていた後悔の念が押し寄せる。
「ルナリカ、そこのフェンガの拘束もといてやってくれぬか? こやつもきっと反省しておるであろう」
「わかりました。ミヤお願いできる?」
そしてサーミャは、フェンガの体と口を拘束している紐をほどく。
拘束から開放された彼は、その場にいる全員に謝罪をするのであった。
「ところでルナリカ、その水晶の扱いはどうすんだ?」
「そうですね、このままにしておくのは……」
(……自分がもし外に出られてとしても――)
(大丈夫よ、マコトはちゃんと外に出られるわよ)
(マコトのおかげて、お父さんが殺されかけた真相にたどり着かせてくれて、本当にありがとう)
(今度は、私が恩を返す番だからね。きっといい方法を皆で探すから)
(そうだな……あり……が……と)
(もしかして、泣いてるのぉ?)
「――リカ……ルナリカ?」
「あ、す、すみません」
ノキア王はルティーナに、まずは城内の混乱を沈静化する協力をするのであった。
自分はもう動けるから、その場に行くことで混乱を収めると言い出す。
そして、この件が落ち着いた後で、8年前の朝時が乗り移る前の自分が知っている『勇者召喚』の出来事を話すと。
『(くくく、迂闊すぎぞ里見……奴を自由にしたのは失敗だったな)』
全員で地上に戻ろうとダブリスがノキア王に肩をかし移動しようとした瞬間――。
フェンガが突然、ルティーナから水晶を奪い取るのであった。
「なっ! フェンガさん?」
「……く、くくくく! 里見ぃ残念だったなぁ」
(太平っ)
「まさか、洗脳されてる?」
そしてフェンガは、水晶を包んでいるマントを捨て、手にした瞬間に眩い光を放ち、水晶の中から朝時の姿が消え、それを床に叩きつけて粉砕するのであった。
「ふははははっ! こいつの体はもらったぞっ!」
(やはりそうだ! 勝った! この状態では意思は乗っ取れないのか? まぁいい、洗脳し続ければ同じだ)
「貴様っ! フェンガに……」
朝時は、以前にフェンガが任務に失敗したことがあり、ここぞとばかりに『ダーク・トランスファー』をかけていた。
この魔法は、かけられた本人はそのことを忘れてしまうという長所があった為、フェンガは自分がそういう状態だと認識していなかった。
そして、誉美を手に入れることができた後に、フェンガを操りダブリスを暗殺し自決させるつもりだった。
「まぁ予定が変わっちまったが、これでお別れだ」
「「「「!」」」」
「『ダーク・バニッシュ』っ!」
「消えた! 逃げられるっ」
「サーミャちゃんっ! お前はそっちだ!」
サーミャとハーレイは息があったかのように、お互い反対方向に『フリーズ・ゲージ』を放ち、通路の前後を凍らせて動きを封鎖するのであった。




