156話 反撃開始
ルティーナの誘拐を指示した犯人はノキア王=太平 朝時という、馬琴と同じ高校で政治経済の教師をしていた男であることを知る。
誘拐した理由は、勝手にルティーナの中に誉美が存在していると思い込んで居るためであった。
彼は、ドグルスから入手した情報で、もともと勇者召喚の時に失敗した水晶の破片があれば中から魂を抜き出せるという話しを聞き、集めた水晶の破片でルティーナから誉美を取り出そうとする。
しかし、すべて反応がなかったため、力ずくでルティーナの体内に水晶の破片があると服を脱がそうとするが、ルティーナの機転で危機を脱する。
その時、遠くから爆発音が鳴り響く――。
ノキア王はルティーナが誉美であったことに歓喜しつつも、想定外の出来事に動揺していた。
ダブリス達をこの場から退かせていたことにより、調査が一歩遅れることになる。
「この上で何が起こってる! まさか、こいつらの仲間が? しかしどうしてここが……」
「まさか、あいつらヘマをっ!」
「ダブリスっ! ダブリスどこだっ! 近くに居ないのか!」
(ダブリス? 俺達を誘拐した奴等を呼ぶ気か)
その頃、ロザリナはルティーナが居る牢屋まで、約30mぐらいの距離まで近づいていた。
そこには地下階4階に繋がる秘密通路からダブリス達が迫っていた。
「な、フェンガっ! 勝手に『ダーク・バニッシュ』を解除するんじゃないっ」
「ダブリス、姿が見えてますよ?」
「! まさかロザリナの奴、使えたのか……『シャイン・キャンセラー』を!」
「しかし、あれはそんな長く――」
「やつは『シャイン・レストレーション』を乱発する程の尋常でない魔力量を持っている。その考えは期待するな!」
「……しかし、シャルレシカが居ないとはいえ、このままでは、見つかってしまいます」
「くそっ」
そんな状況下で、土砂崩れの通路から脱出したサーミャとエリアルとハーレイも集まろうとしていた。
「上から声が……もうエリアルが来ているのか?」
「フェンガっ! おそらく、広範囲では展開していないはずだっ『シャイン・キャンセラー』の圏外に出て、やつらの足止め……いや始末しろっ」
「俺は、このままノキア王のところへ行く!」
「わかりました」
ロザリナは、地下4階で1つだけ空いている牢屋が気になり耳を済ますと、ルティーナらしき声と男の声が聞こえた。
そこへ駆けつけると、そこに慌ててダブリスを探すために、牢屋から出てきたノキア王と邂逅するのであった。
「の、ノキア王っ! やはりあなたがっ」
「……ロ、ロザリナ……(バレたっ)」
「ルナはそこに? そこに居るのねっ!」
「抵抗するなら王様だろうと、鉄拳制裁しますよっ!」
太平は、自分が勇者召喚されたはずなのに、闇魔法しか使えず洗脳しかまともに使う機会がないことに憤りを感じていた。
おそらく、正しい召喚がされていれば違う『能力』が目覚めていた可能性があったかもしれないと。
「(ロザリナから弱みを握るチャンスはない……どうする?) わ、私をどうするつもりかね?」
「しらを切られるんですか?」
「何の事かな? (くそっ、このままではまずいっ)」
「その声は、リーナなのっ!」
「ルナっ! 今すぐ助けますからねっ! さぁ王様っ、私と戦いますか?」
「王に怪我をさせたらどうなるかわかって言っているのかな?」
「解ってますよ……ガタガタ、うるせぇやつだなっ」
「ぐっ(目つきが変わった……まるで赤い悪魔)」
ロザリナの鉄拳は、ノキアの腹部を完璧にとらえ後ろの壁に向かって吹き飛ばすのであった。
「ブハッ……ゲホッゲホッ……き、きさまぁ……ワシを殺……すつもりかぁ」
「ご安心を死にそうになったら私が、治してあげますからっ」
「ひっ (こ、こいつ本気だ……姿を消して逃げるしか……)『ダーク・バニッシュ』っ」
「……!」
「残~念っ、闇魔法は使えねえよ」
「まさか、王様が闇魔法使いだったとわね」
「な、何故、姿が消えてないっ! 『ダーク・バニッシュ』っ『ダーク・バニッシュ』っ……くそっくそっ」
「惨めねっ、大人しく気絶してな――」
グザッ!
「――せ、背中に……」
「! だ、ダブリスっ~! た、助かったぞっ」
ロザリナは後からダブリスが投げた短剣が背中に刺さったが、すぐに抜け落ち自動治癒が始まっていた。
ノキア王に怒りをぶつけ冷静さを失っていたが、そのお陰で自動的に肉体強化がされており、深く刺さることはなかった。
「(心臓を狙ったのに……こいつ)」
「ダブリス! 賊としてワシが襲われた正当防衛ってことにするから、そいつを始末しろっ」
「はっ」
「やっと、本性をあらわしたわね! (怒ってなかったら死んでた?)」
「まさか誘拐犯は護衛だったとはね! 出て来なさいよっ 居るんでしょ」
「この化け物が……」
「残念だったわね」
「これぐらいじゃ、致命傷にもならないし、あなたの得意の黒魔法は使えないわよ――」
ドーンッ! ドーンッ! ドーンッ! 痛いっ! ドーンッ! ドーンッ!
「こ、今度はなんだっ! 牢屋から?」
……。
――ガチャッ。
ルティーナの居る牢屋から、小さな爆発音が複数したことで、皆が一瞬戸惑い牢屋を見つめた。
すると中から拘束されていたはずのルティーナが、右腕から血を流しながら外に出てくるのであった。
「ルナっ!」
「リーナ、王様は別の人格に乗っ取られてるだけなの、殺しちゃだめよ。逃げない程度に動きは封じておいてっ!」
「こいつには世話になったから、私が相手するわ」
「ルナ……」
「だ、大丈夫よ、片手があれば『能力』は使えるわ!」
「【癒】で痛みはごまかしてるし、リーナなら5分以内なら治せるでしょ?」
「(ちょっと無駄に魔力を使いすぎちゃったかも……)ルナを治療したら、ぼこぼこにした王様は保証しないけどね」
「誉美が何故、拘束していたのにどうやって?」
「あぁ、小芝居まだ続いてるんだっけ? あれは全部嘘よ嘘っ! あなたの正体を知りたかっただけ」
「残念ながら、私の中に居るのは、トモミさんじゃなくって、あなたの大嫌いな、マコト! サ・ト・ミ マ・コ・トよっ!」
「マコト? 馬琴だとぉ~~っ! そ、そんなぁっぁ~! 嘘だっ嘘だと言ってくれぇ!」
馬琴は、ダブリスが戻ってきた場合、ロザリナが危ない事をルティーナに相談し覚悟を決めさせた。
偶然にも、ノキア王がルティーナの服を脱がそうとして鎖を緩めていたままだったため、腕の拘束も緩んでいた。
ルティーナは指を内側に折り込み、左手の5本の指の腹に2cm程の【爆】を描き、触れる可能な範囲の鎖や椅子にふれて転写した。
そして、手を守るために両手に【硬】を描いて硬化し順番に爆発させ、拘束から脱出したが右腕だけ爆発に巻き込まれて負傷していたのであった。




