146話 救出優先
ロザリナ救出で交戦するエリアルとヘレンはデダイパスを、アンハルトはデブラクを苦戦しながらも、それぞれ撃破することができた。
エリアル達は敵を焼き尽くしてしまったが、アンハルトは体だけになったデブラクを確保することができた。
一方、船に乗り込んだルティーナは――。
ルティーナは船の中での奇襲を警戒しながら潜入していた。
船は中型船であったためそれほど探す範囲も少なく、船後尾にあった部屋でロザリナを見つけることができた。
「リーナっ!」
「うぅ……ル……ナ……」
そこにはもう1人の男が、血を抜かれならが手錠で繋がれたロザリナを羽交い締めにした。
うつろな目線で助けに来てくれたルティーナを見て涙を流すのであった。
「おまぇ~っ! リーナにぃ――リーナにぃ何をしてる~~~っ!」
「こいつの命が欲しかったら、何もすんじゃねぇぞ」
「さぁて、お嬢ちゃんはこの船から素直に降りてもらえると無駄な血をながさなくてすむんだがなぁ~」
「そ、そしたらリーナが助かるとでも?」
「ははっ、んなわけないだろ! でも、この場から消えないと、今すぐ死ぬぜぇ~お嬢ちゃんのせいで」
(ルナ、構うなっ、こいつらはリーナを殺す気はないっ)
(で、でも……)
(わざわざ血液を抜いている意味がないっ! 最初っから血液が必要であれば殺す方が早いっ)
(ロザリナに死んもらうと困るのは、あいつらの方だっ)
ルティーナは状況を把握し、わざと言うことを聞いたフリをし外に出ることを承諾した。
「わ、私が外に出れば……あなたは船で逃亡するって事でしょ?」
「言うまでもないだろ、大海に出ちまえば、おまえらに追う術はないからな」
一刻も早く、ロザリナから管を抜いて止血するのが先決であるが、相手を油断させる必要もあった。
そこで、怒りが収まらないルティーナは自分の手でやらしてほしいと、馬琴に『武闘会』の時と同じ要領で能力支援を頼む。
そして、ルティーナは男の言う通りにし一旦、船から外に出た。
その様子を船窓から確認した男は、船を出港させるのであった。
(マコト、よろしく)
(あぁ)
馬琴は、ルティーナの背中に【翼】を描き、羽ばたき岸をはなれて間もない船に飛び乗るのであった。
船出したことで安心した男はロザリナのそばから離れ操舵に集中していた。
そのため、ルティーナが甲板に着地した事に気くことすらなかった。
すぐさま、ルティーナは船の上からロザリナが確保されている場所を想定して、縦向きに【割】を4m程の大きさで描き、船を真っ二つにした。
結果、船を浜辺から数十mも進まないうちに進行が止まり、まだ浅瀬であったため前後で真っ二つになった船は半分づつ沈んだ状態になっていた。
「はぁ? 何が起こった! ふ、船がぁ~」
「ちくしょ~っ、あのガキっ何をしやがったぁ!」
「あら残念っ、リーナは返してもらうわよっ」
(リーナ、もう少し待っててね)
ルティーナはロザリナを【癒】で包み込み、管をぬいて止血し、すぐに男が居る側の船に飛び移った。
「貴様、羽が生えているだと? 薬を使ってるのか?」
あわてて男は薬を首に打ち込み気味の悪い笑い声とともに、背中から触手のようなものを6本生やしながら体を肥大化させながらのたうち回るのであった。
(げっ、気色悪いっ何よあれっ)
(今度はタコ? 今回は蜘蛛とか蟹とか手足が多い奴らばっかりだな……どれだけ悪趣味なんだよ……だが、海上に出られるとやばいかも)
(なんていう魔物かしら?)
(う~ん、この世界観なら……タコだろ? デスパトクオ……あたりじゃないかな?)
(何よ世界観って……シャルみたいに名付け親にならないでよっ)
「何をぼっとしてんだっ! その女っ返してもらうぜっガキっ」
デスパトクオが振りかざした腕はルティーナを飛び越え、ロザリナに向かって飛んで行こうとした。
ルティーナは、すぐさま手裏剣を取り出し【斬】を描いて、その腕に投げ切り落とした。
腕はちぎれ落ちるも、簡単に再生されるのであった。
(再生するのかよっ、しかも早いっ)
ルティーナは床に手をついて、【凍】をデスパトクオを包むぐらいの大きさ描き氷漬けをもくろむが、自ら凍り付いた足を切り捨て脱出し、足を再生させるのであった。
「ふぅ~油断なんねぇな、なんだそれは――例のアレか」
(簡単に再生するのが厄介だなぁ、こりゃ捕獲して事情を聞くことは無理そうだな)
(んじゃ、やつは倒すってことで、作戦どおりよろしくねマコト)
デスパトクオは全ての腕を一気にルティーナに向かって伸ばす。
それに対して、ルティーナは腕の攻撃を剣でかわしながら、触れる所々に手のひらの大きさの漢字をそこら中に描き写しながら逃げ、一旦、船の外へ羽ばたき、デスパトクオの次の行動を観察するのであった。
「逃げた? ……ん?」
「(さっきから、変な模様がそこら中に……これが魔法もどきか?)」
「いろんな、模様があるな……それぞれ違う魔法がかかってるってことか?」
「それに近づかなければいいだけだろ?」
(やっぱり、ネタはばれているのか?)
(くすっ)
(都合いいじゃない? カンジの意味はわかんないんでしょ?)
デスパトクオは、漢字に触れないようにくねくね外に出てこようとしていた。
「このまま部屋から出していいのかい? 俺のステージに?」
ルティーナは、一番外側に描いていた2か所の【煙】のみ『起動』させた。
「なっ、煙? 視界をうばっても、模様があった場所は覚えてるぜっ」
「このまま外に出れば、俺に敵はねぇっ」
ルティーナが船内に描いていた漢字は、ほとんどが実用に耐えない適当なものばかりを描き、警戒させることで、すんなり外に出てこないように時間稼ぎをするのであった。
彼女は稼いだ時間で、手裏剣に4m程の【棘】を描き、『デストラクション・シューター』を外で構え、煙の中からデスパトクオが顔を出すその瞬間を待っていた。
そしてデスパトクオの頭が見えた瞬間――。
「くらえっ!」
高速に打ちだされた手裏剣にデスパトクオは反応することができず、頭の奥深くまで突き刺さるのであった。
「ぐへっ、何にをし――」
(『起動』っ)
デスパトクオの内部から棘が大量に吹き出し、絶命するのであった。
(お見事、ルナっ)
(えへへ。ありがと)
(さぁ、リーナを連れて帰ろう)




