142話 生贄儀式
サーミャ達が罠にはまる一方、ルティーナ達はヘレンの闇魔法 による 野ネズミの操作で洞窟内を完全に探索できた
そしてついにロザリナを発見する
彼女は怪しげな管を刺され、自分の周りだけ機能する大きさの『マジックシール・ストーン』を身につけさせられた状態で拘束されている事が判明する。
ルティーナ達が洞窟の調査を始める前の話、ロザリナは洞窟で拘束されて以降、致死量にならない程度に、1時間毎に血を100ML程抜いては回復薬を与えられる状態を繰り返されて衰弱していた。
ロザリナの首には、予想通り小さな『マジックシール・ストーン』の付いた首飾りをかけさせられ、回復どころか身体強化の魔法まで使えないため、怪力もだせす鎖を引きちぎり脱出する術を失っていた。
「しかし、こんなことをやってちまちま生血を1L溜めるって、効率が悪いぜ」
「いっそ『キュア・ヒール』かけりゃ、少しは回復が速いのによぉ」
「しかたないだろ、この石のせいで、こいつに魔法をかけれねぇんだから……外したら外したで勝手に回復して怪力をふるわれちまうだろが」
「いっそ殺しちまえば1Lなんてすぐなのに」
「こいつは生きたままにしておかなきゃなんねぇし、採血した血液は3日間寝かせるって、一体、ナガアキ様はどんな儀式をしようとしているんだ?」
そんな会話をしている中、見張りをしていた男が騒ぎ出す。
「おぃ無駄話もそれぐらいにしとけ、もう客が洞窟に入ってきたみたいだぞっ」
「ちっ、思ったより早ぇじゃねぇか」
「ま、たらふく罠を仕掛けてあるんだ! そう簡単には、ここまでたどり着けねぇぜ」
「だが長居はできねぇぞ」
彼らは、予定より早くなってしまったが、隠し通路を使いロザリナを連れて外にある海岸に移動を始めた。
「だがよ、採血は今日中済まさねえと、間に合わねぇぞ」
「しかたねぇさ、これが失敗したら次の満月まで、こいつ連れて逃げ続けなきゃならねぇんだ」
彼らは余裕を振る舞いながらも、早々とロザリナの採血を中断し、回復薬を飲ませて袋詰めにしながらも2人で抱え丁寧に運ぶのであった。
そして採血あと2回。続きは脱出用に準備した船の上で行う事に決めたのだ。
「こいつ船酔いでさらに衰弱して回復薬まで吐かれてあげくに死なねえよな?」
「そんときゃ、俺らがナガアキ様に――」
「そんなにうだうだ、この女の世話が嫌なら、奴らの相手をして時間稼ぎしてくれてもいいんだぜ」
「ば、馬鹿言うなよ、あのスレイナ姉さんを倒したやつらだぜ」
「しかも、『マジックシール・ストーン』が効かねぇ怪しい魔法を使う小娘が居るんだろ?」
「たまったもんじゃねぇ」
「なら、さっさと運びなっ」
「へいへい」
しかし、3人組の予想とは裏腹に、ルティーナ達は罠が解除されている為、順調に迫っていたのであった。
「こりゃいい! 安心して進めるわね」
(ま、ルナは罠にかかりやすいからねぇ~)
(それ言わないで、気にしてるんだから)
「……闇魔法使いかぁ~こんなに便利なんて、うちにも居たらい――」
「おぃルナリカっ、サーミャに続いて、ヘレンまでやらんぞっ!」
「うっ……」
「それじゃぁ国王と考え方一緒じゃないか」
(げっ、今のマコトの独り言が漏れちゃっただけだからね)
(あははは)
「やだなぁ~引き抜くわけないじゃない」
「これ以上、駒が揃ったら『零の運命』は軍隊になっちまうから、やめてくれ」
「大袈裟な」
「皆さん、冗談はほどほどに……この奥ですよ」
「この先は、ネズミしか通れない隙間があったみたいですから、おそらく土魔法で埋めたんだと思います」
エリアルは大剣に『ソード・オブ・スラッシュ』をかけ、一刀両断で目の前の塞がれた壁をいとも簡単に切り開くのであった。
その開かれた先には、移動の片付けをしていた男が1人残っていた。
「ひっ~い」
「ろ、ロザリナぁ~どこぉ~っ! さっきまでそこに繋がれていたはずなのに……」
「そこのあなた、ロザリナをどこにやったのかしら? 説明してもらうわよ?」
(こいつ? 手の甲に痣?)
「く、くそっ! (早すぎだろっ、簡単にだどり着くかれてんじゃねぇかよっ)」
「結局、俺が食い止めるしかねぇのかっよっ」
その男は、注射器で首に薬を打ち込み、急に大笑いし始めるのであった。
「ふひひひゃはぁははひぃ~、き、気持ちがぁ気持ちがいいぜぇ~っ」
(な、こんな洞窟内でデルグーイになるつもりなの?)
「(せ、背中から……う、腕?)まさか、デダイパス――大蜘蛛の魔物――か?」
(げっ今度は蜘蛛かよっ)
「ルナっ、ここにリーナが居ないってことは、仲間が連れ去ったということですよね」
「ここは僕が引き受けます。先に行って下さい」
「分かった。まかせたよっエル」
ルティーナ達はエリアルを残して、先に進もうとしたその時――。
「きゃっ!」
「ヘレンっ」
デダイパスはエリアルと対峙していたにもかかわらず、ヘレンの体に糸を巻き付けたぐり寄せたのであった。
「くそっ! 今――」
「戻るなルナリカっ、あの場は2人にまかせろっ!」
「…………わかりました」
エリアルはデダイパスと対峙しながらも、冷静に状況を分析していた。
「(このデダイパス、後ろにも目があるのか)」
「(ヘレンさんが人質に……うかつに攻撃できない、僕を始末する方を優先しているってことか?)」
うかつに切り込めずに、ひたすら攻撃を受けかわすエリアル。
糸に身体を縛られ天井に吊るされたヘレンは、捕まった時に『エクソシズム・ケーン』を落としてしまった。
さらには詠唱は出来るが、両腕が糸に絡まっている為、放つ事が出来ないのだ。
デダイパスは、ひたすらエリアルに前脚2本の爪で襲い掛かり、エリアルは剣と大剣の盾でかわしながら、ヘレンの居ない方に移動した時に斬撃を繰り出すも、いとも簡単に素早い動きでかわされるのであった。
その頃、ロザリナを追う2人は海岸にたどり着いていた。
「ここは海岸? 船で逃亡するつもりだったのかっ」
「あの船にロザリナを連れ込んだってことですかね?」
すると、船の中から1人の男が現れ、注射をしながらルティーナ達の前に迫ってきた。
「(ルナリカ、間違いなくロザリナはあそこだっ、合図したら君は突入してくれっ)」
「(あいつの相手は私がしよう)」
「(わかりました)」
男の身体は見る見るうちに甲羅のようなものが身体をまといはじめ、手はハサミのように変化し始めた。
「(今度は、デブラク――蟹の魔物――? こいつも魔物に)」
「(だが、1対1なら思う存分戦えそうだ)」




