140話 洞窟探索 ~前編~
ロザリナ救出のためルティーナ達は2組に別れ、ノスガルドから半日ほどかかる範囲にある東西の2箇所の峠にある洞窟を目指す。
洞窟潜入チーム(西部側峠班)
後方左から ブライアン/グルバス
手前左から シャルレシカ/サーミャ/シェシカ
ルティーナ達は2班に別れロザリナ救出に向け移動開始を始め、翌朝の日が登ろうとしていた頃、サーミャ達は先に目的の洞窟付近に到着していた。
到着後、早速シャルレシカは洞窟内の索敵を始めた。
「1人だけぇ洞窟の奥に居ますねぇ……悪意はぁ感じられませんけどぉ」
「ヘレンから連絡あった闇魔法で操られてるかもしれねぇな」
「他に潜伏している奴が『マジックシール・ストーン』を使ってる可能性もあるが、わざわざ1人だけ索敵されるってのが腑におちねぇな」
「誘ってるんですかね?」
「ヘレン、聞こえるか?」
「(――あっ、はい)」
「こっちは――」
ヘレンが用意してくれた通話用の小鳥で、現状をルティーナ達と共有するサーミャであった。
ルティーナ達は、あと1時間で現地に到着するとのことで、サーミャ達は先に突入し結果次第で合流する方針となった。
そしてサーミャ達は、シャルレシカを頼りに人が居るとこまでの道案内をさせながら洞窟を突き進み始めた。
「……罠とかねぇよな」
「さすがに、シャルちゃんは罠までは探せないんだっけか?」
「もう落とし穴とかはぁ簡便ですぅ」
「?」
ブライアンは罠の存在を危惧し自らが先導となり、剣を使って道の先を小突き回しながら慎重に進むことにした。
そして、ゆっくりと洞窟の中を進み10分ぐらいすると――。
「ん? シャルレシカさん、この先で合ってますよね?」
「……行き止まりですがぁ、この先100メートル先にぃ気配がありますぅ」
サーミャは通路を塞いでいる岩壁は、おそらく土魔法『ロック・ウォール』で埋めたものだと判断し、みんなを後ろに下がらせ『ロック・バスター』を撃ち岩壁に風穴を開けると、その先には予想通り通路が現れた。
すると、その通路の先に暗がりで分かりづらかったが、あわてて奥に逃げようとする人影が写った。
「手っ取り早く、あいつを捕まえてロザリナの事を吐かせるぞっ」
人影を追いかけることに集中してしまったサーミャ達は、一番後方を歩いていたシェシカの肩の上に止まっていた小鳥が死んだかのようにポトリと落ちるのであった。
そして、急に動き出し地面の上をウロウロ彷徨っていたことに誰も気づいてはいなかった。
「なっ、ちょっと待ってみんなっ」
「どうした! シェシカっ」
「ヘレンの小鳥が……小鳥が居ないのっ」
「まさかっ! 『ライトニング・ニードル』っ」
「くそっ、はめられた! 早く、さっきの道を戻――」
しかしその状況をあざ笑うかのように、通路の前後を挟みこむように天井が崩れ始めた。
「シャルっ――」
「姉さんっ、危な――」
後方に居たシェシカとグルバスは、すぐに逆走できたため天井崩れには巻き込まれなかったが、シャルレシカは片足が巻き込まれてしまった。
彼女は、偶然サーミャが突き飛ばしてくれたことで足の負傷で済んでいたのであった。
―― 一方、交わし切れなかったサーミャとブライアンは……。
「おぃっブライアンっ、ブライアンっ! しっかりしろっ 死ぬなっ」
「馬鹿野郎ぅ~……あたいをかばいやがって……」
ブライアンはサーミャをかばい、落石に巻き込まれてしまった。
サーミャは火魔法を放ち明かりを確保し、彼にかぶさる岩をのけ、とりあえず安全な場所まで引きずり移動した。
「ね、姉さんは……怪我はないで……すか……守れてよかった……」
「黙ってろっ『キュア・ヒール』っ――くそっ!」
サーミャはブライアンに『ヒーリング・ストーン』を持たせて、怪我を治そうと必死だったが、『マジックシール・ストーン』の影響下のこの場所では石が光ることはなかった。
「転移に……必要な石……を……」
「俺のことは……気にしないで……誤……解とは言え、殺そ……うとした男ですよ……」
「……まだ気にしてやがったのかよ」
「あたいを守るっつって死んでんじゃねぇ~っ……」
サーミャはとりあえずブライアンの止血をしたが、ブライアンは傷の痛みと出血で意識を失ってしまった。
「早くしねぇと、ブライアンが……あぁ考えがまとまんねっ」
「……~い……お~い……さ~……みゃ」
「! グルバス? とにかく岩をぶち破れよ! ブライアンがぁ~ぅ」
岩壁に阻まれたサーミャであったが、グルバスが無理やり岩を撤去しながら、会話ができるぐらいの小さな風穴を開けるのがやっとだった。
そして、今の状況を確認し合うのであった。
シャルレシカは大事に至らず、シェシカが魔法を使える場所まで戻り治療を開始していると聞き、サーミャは一安心する。
そしてブライアンの状態を聞いたグルバスは、大急ぎで岩の撤去を開始する。
一方、シェシカはシャルレシカの治療が終わり、鳥目で動けなくなっていた小鳥を捕まえヘレンに状況を伝えていた。
「――グルバス~」
「どうした? シェシカっ」
「サーミャにルナちゃんから伝言を伝えてちょうだいっ」
「――わかった(ルナ、ありがとよ)」
「ブライアン、剣を借りるぜ。もう少し我慢してくれっ」
サーミャはルティーナから指示の通りに、正面の土砂崩れと反対側の土砂崩れの間までの距離を歩幅で計り始めた。
両脇の土砂崩れは範囲内にしないと効果がないと想定されるため中央に仕掛けられている可能性が高いと思うが、サーミャが実際魔法を無効化された時の経験で判断するしかなかった。
そして『マジックシール・ストーン』は埋めるとしても土魔法では石が壊れてしまうため、手で地面に埋めている可能性が高いと指示をうけていた。
「土砂崩れの両端では魔法は全く使えない……この間の距離はたぶん40m……そして、グルバスの居るところから小鳥とヘレンの接続が途切れた場所までは10mから20mってところか」
「石の効果範囲を考えれば? 単純に半径30m以上……石が大きいほど効果範囲が広いなら埋めるのは困難」
サーミャは、ドグルスと戦っていた時に使われていた『マジックシール・ストーン』の大きさと自分が魔法を使えなくなった範囲を思い出し、おおよその石が埋まってそうな違和感のある地面を探すのであった。




