137話 「ロザリナ」ノ行方 ~後編~
ロザリナが誘拐された。
シャルレシカの能力がヘルセラによって引き上げられたが、『マジックシール・ストーン』に遮られたロザリナの詳しい位置までは特定できなかった。
一方、連れさられたロザリナに怪しい男の影が忍び寄り、自分の孫だと耳元でささやくのであった。
ルティーナ達は、一刻でも早く行方不明になってしまったロザリナを探す為、ジェイストからルティーナの飛翔を駆使しても3日前後はかかってしまうノスガルドへの帰還方法を模索していた。
転移するとしても『ヒーリング・ストーン』の充電も考えると、シェシカの所、つまり一度認識のある『碧き閃光』の所へ行くのが、安全だと考えた。
「さすがにこの時間なら、夕食後ぐらいだろうから大丈夫だろ」
「そうだね任務中でなければ拠点に居るよね?」
(あはは、風呂の時間ってこともあるだろ?)
(私は念のため、目を閉じてるから全く問題ないわっ)
(そういう問題か?)
そして4人は、拠点に居ることを願いシェシカを目印にして『ディメンジョン・テレポート』を使うのであった。
――しかし転移先は、シェシカの部屋ではなく、大きな机の上に飛び出してしまった。
「「「「なっ!」」」」
「「「「「なっ!」」」」」
「なっ! お前たちっ!」
そこは、『碧き閃光』が作戦会議をしている真っ最中だったのだ。
机の上に4人は尻もちをつき、机の上に広げていた書類は空間が発生したため、粉砕して部屋中に飛び散ってしまった。
「もう、貴方たち、めちゃくちゃじゃない!」
「ところでサーミャ! 転移魔法が自在に使えるようになったのか?」
「あははは……この石を使えばな……すまねぇが、使えることは秘密にしといてくれよ」
「――じゃねぇっ緊急事態なんだ!」
「それは、こっちのセリフだ!」
アンハルトは、昼にカルラが大泣きしならがら『碧き閃光』に駆け込んできて、宿に泊まっていたルティーナ達の部屋が滅茶苦茶になって誰も居なくなったと大騒ぎしていたことを話した。
そして、全員がなんらかの事件に遭遇し、行方不明になったと思い宿を調査をし会議をしている最中であったのだ。
それを聞いたルティーナは、アンハルト達にロザリナと別行動をしていた経緯と今の現状を取り急ぎ説明するのであった。
「――つまり、ロザリナは魔法が封じられたどこかに軟禁されてるってことか?」
「おそらく……」
「しかし、どこにさらわれてしまったんだろう」
アンハルトは、カルラに宿で変わったことはなかったかを聞いていた話を共有した。
前日の夜、数日前から隣の部屋で宿を取っていていた2人組の40,50歳ぐらいの旅人が、部屋で大騒ぎの宴会をしていたらしく注意しても酔っ払いすぎて相手にならないとお父さんが言っていたと。
そして、次の日の朝早くその旅人は謝罪しながら自前の馬車で旅立って行ったのであった。
「つまり……疑うとしたらその2人組? 犯行時刻は、おそらく深夜から早朝……ロザリナは馬車にあらかじめ乗せられていた?」
「しかし、そんな夜中に大騒ぎされていたら、多少の何かあっても無視されちまうか」
「……」
「だが、お前らが言うとおりなら、ここから半日もかからないどこかの洞窟で、鎖に繋がれているってことだな」
「そういえば、ロザリナが魔法が封印って言ってたのに、なんでシャルの力で見えたんだ?」
シャルレシカは人を探すときは記憶や残留魔力次第で、自分の意識だけが直接、その場所付近まで飛び、そこで見えたものが水晶に映るらしい。
与えられた情報が新鮮、つまり直接触れている場合や、残留魔力が新しければ新しいほど、直接、調べたいものが詳しく見えると。
「「「「「?」」」」」
「ようは、調べたいことに対して魔法で自分の意識をそこに飛ばして、見えているものを水晶に映しているんです」
「本人もまさか自分が見ているものなんて思っていなかったようですが」
「だから、魔法が封印されているロザリナを、外から見たんだと思います」
「ところでよ、あらされた部屋には何か、リーナの荷物っぽいものは残ってなかったかい?」
彼らは既に荒らされた部屋を確認していたが、見覚えのない杖以外は、部屋の備品しかなく荷物らしいものは何一つなかったという。
「唯一、あった杖を持ってきてはいるのですが……ロザリナもサーミャさんも使われませんよね?」
「あっヘレンっそれ! それリーナのっ!」
ヘレンが偶然持ち帰っていたのは、アンナの使っていた杖であり、ロザリナが魔力安定の道具として『イルフェ鉱山』での任務で多用していたため、残留魔力が濃かった。
それを使い、再びシャルレシカはロザリナの居場所に繋がる情報を探すため、瞑想に入る。
(あぁ、本来はノキア王の野望を暴き、俺たちの目的に大きく近づくはずだったんだが……)
(すまない今回は……1日でも早くリーナを救出してやりたい……)
(気にしないで、あたりまえでしょ! リーナは大切な仲間なんだからっ)
シャルレシカの結果を待っている間、アンハルトは、ロザリナが誘拐した理由が解らないと皆に問う。
すると、サーミャとヘレンが同じことを言い始める。
――ドグルスが高度な技術をもつ光魔法使いを探していたと……。
「確かに、シェシカに執着してたな……ロザリナはさらに高度な能力を持っているからか……ありえなくはないな」
「しかし、ロザリナほどの腕を持ってりゃ、そんな50歳ぐらいの野郎どもなら簡単にボコれるぜ……」
ロザリナの格闘術、そして、睡眠薬や痺れなどの不意の攻撃をくらっても自動防衛で魔法回復されるにもかかわらず、簡単に捕まったことが納得できなかった。
だが、『マジックシール・ストーン』と睡眠薬等を一緒に使って襲撃されたなら、自動回復が使えないから不可能ではないと、馬琴はルティーナに伝えた。
それを聞いたアンハルト達は納得し、とにかく自分たちも乗りかかった船だと協力することを願い出る。
「ありがとうございます」
「このまま、ここでシャルの占いが終わったら作戦会議に付き合ってもらえますか?」
「もちろんだ」
「それなら待ってる間に、その『ヒーリング・ストーン』を貸しなさいよっ」
「充電すれば『ディメンジョン・テレポート』が使えるんでしょ?」
「さすがシェシカ、いい嫁になるぜ」
「シャル、あなただけが頼りよ……がんぱって」
(リーナ……無事でいてね)
(第伍章 「『アジャンレ村』ノ危機」編 完)
次回から、第漆章 「無明長夜」編 に入ります。
ルティーナ達は誘拐されたロザリナを無事救出し、その陰謀を叩くことができるのか?
そして、ノキア王の陰謀を叩くことができるのであろうか?




