135話 「スレイナ」ノ正体
馬琴はスレイナに逃亡されないように、わざとルティーナとの1対1の流れになるように仕組んだ。
スレイナも飛翔も出来ず、天空に攻撃する手段はないと侮っていたルティーナ相手に逃亡する選択肢はありえないと2人は戦闘に入る。
しかし、ルティーナは新兵器『デストラクション・シューター』をお披露目し、見事に攻撃が決まるのであった。
スレイナはボロボロになりながらも逃亡を始めるが飛翔したルティーナの猛追され、ついに人間体に戻ってしまった。
ルティーナに追い詰められたスレイナだったが、あきらめながらも逃走手段を必死に考えていた。
(額に痣がある……こいつだったのか)
「あなたには聞きたいことがあるわ! ゲレンガとドグルスの仲間よね」
「ちっ、そこまで知ってやがるのかいっ……ますます、あんたは危険な存在だね」
「(まずいなシャルレシカは居ないようだが、このままだと私の記憶が)」
「(年貢の納め時かねぇ……ナガアキ様から思念通信は都合よく来ない……か)」
「質問に答えてもらうわよ」
スレイナは覚悟を決めた。
逆に情報を多く集め、それをナガアキに伝えることに専念することにした。
「ヘルセラさんに刺客を差し向けたのは、あなた達でしょ?」
「……そうか、お前達はジェイストに居たのか」
「やっぱり、あなた達の仕業だったのね!」
「(そうか、ノキアも仕掛けていたのか) ああぁそうさ」
「だがこっちも気づいちまったよ、あんた、バルストの娘だろ? ルティーナって言ってたよな?」
「――っ!」
情報を得るつもりだった馬琴であったが、ルティーナが逆に動揺してしまい、言葉を詰まらせる。
「その驚きは……やっぱり当たりか」
「だがゲレンガが暗殺したはずの、バルスト一家が生きていたとは思わなかったぜ」
そしてスレイナは続ける……ルティーナの能力は『サモナー・ストーン』の破片を持っているからだと。
(『サモナー・ストーン』?)
(そうか、あの水晶の破片はそれか……やはり、俺や誉美は勇者として召喚されたって事になるのか)
「な、何言っての! あんた達が回収しておいてよく言うわよっ」
(ルナっ!)
ルティーナは動揺のあまり、つい、言わなくていいことをスレイナに言ってしまう。
「(回収した? どういうことだ?) あれはドグルスの仕事だから知らねぇよ」
「しかしさぁ、『サモナー・ストーン』の力を持ってるってことは、あんたも仲間じゃねぇか?」
(! 仲間だと?)
スレイナが何を言っているか理解が追いつかない馬琴とルティーナ。
(ど、どういうことだ? 勇者は巨大な魔物を倒して平和を取り戻したはず……何か食い違ってる?)
「そうか、おまえらは勇者が役目を果たした後、どうなるか知らねぇようだな?」
スレイナはルティーナを仲間に引き込もうと、ナガアキから聞いている勇者の話しを語り始める。
勇者がなぜ召喚されたかまでは知らされていなかったが、国に利用されるだけ利用されて処分されたことを伝えた上で、ルティーナの力を正しく使わないかと説得を始める。
(処分された……だと……どういうことだ)
(役目を果たしても……自分の居た世界に帰れない? こいつらを指揮しているのは、勇者……)
(仲間に引き込むためのハッタリなのか? でも、話にほころびが見あたらないっ)
(嘘は言ってないってこと?)
スレイナは正直に知っていることを話すことにした。
そうすることで、疑いたくなることで悩ませ、無理に嘘をついてボロを出してしまうより楽だと。
しかし――。
「((――スレイナよ……喋りすぎだ))」
「(な、ナガアキ様っ……よかった、ご報告が……)」
(どうしたんだ? あいつ……急に白目に)
「((――そうか、それは面白い情報だな))」
「((ということはロザリナは1人ということか))」
「(? あ……ありがとうございますナガアキ様! あとは、あいつを仲間に引――)」
「((いや、必要はない))」
「えっ! そ、それ――ぐわっ」
急に苦しみだすスレイナ、何かするのではないかと身構えるルティーナであったが、彼女の身体は突然、膨張し始め爆裂するのであった。
(えっ! 自爆した……なぜ?)
(これじゃ、シャルでも情報は探れないか……)
(マコト……お父さん達のところに戻らなきゃ)
その頃、サーミャとエリアルは大量の魔物相手に引くこともなく互角以上に対峙していた。
「こっちは片付いたぜエルっ、そっちはどうだ? 助けてやろうかぁ~」
「いいえ、大丈夫よっ、これで……」
「最後っ」
「へぇ、すげぇな真っ二つ? いや真っ四つってやつだな」
「ミヤ、油断しすぎてない?」
「ん?」
倒したデボアの死体の下から1匹のデフルウが、サーミャの背後から忍び寄り襲い掛かってきた。
「ちっ、詠唱が間に合わ――」
エリアルは風の刃を飛ばし、デフルウを真っ二つにするのであった。
「助かったよエル」
「お~い! お前たち、大丈夫かぁ~っ」
「はい師匠っ」
「2人ともありがとう……被害者を5人で抑えられたのはみんなのおかげじゃ」
バルストはみんなの活躍で村を救えたとは言え、一緒に生活していた仲間である村人に被害者を出してしまったことを悔やんでいた。
それ以上に、彼らがシャルレシカの事を黙っててくれたことに感謝を込めて敬意を払うのであった。
「あなた……被害にあったご家族の人には、シャルちゃんがらみの話しはしない方がよさそうね」
「そうさの。嘘はつきたくないが……魔物が強襲してきたってことにしておくしかなさそうだな」
「お~い! みんな無事?」
「ルティーナぁあぁぁっ~、怪我はないかい?」
「「「「(あははは……始まった)」」」」
合流したルティーナは、スレイナは自害したことを伝え、得た情報を共有したのであった。
「ルティーナ、そういえばあいつ、確かノキア王に俺がこの村にいることを伝えると言っていたんだ」
「ノキア王……」
馬琴は、ゲレンガとヘルセラを始末しようとした2人組の『過去視』による風景が、王宮に招かれた時の光景に似ていることを思い出した。
そして黒幕2人は、ノキア王と勇者と確信するが全くの別組織と判断しかねていた。
ノキア王は勇者を始末しようとしていた以上、敵対勢力のはず――。
ゲレンガはノキア王の指示でバルストを始末しようとしていたのでノキア王側……だが、勇者側のスレイナが仲間だと認めていたことに疑問を持っていた。
『王宮爆破事件』の犯人は勇者側の組織であれば納得がいく。そう、これ以上、『勇者召喚』という馬鹿げたことをさせないはずである。
結局の所、決め手となる情報をスレイナから得られなかったことを悔やんでいた。
「それよりルナっ、私たちが村人たちへの説明や後始末はやっておくから……あなた達はここから早く去りなさい」
「とりあえずエリアルが着替えてる間に、『ヒーリング・ストーン』を充電してあげるから、貸しなさいっ」
「ありがとう、お母さん」




