134話 「ルティーナ」ノ猛追
エリアルはデグルーイ化したスレイナと対峙する。
徐々に毒羽により劣勢に陥るエリアルにアンナが治療に参戦し、体制を立て直す。
そうしている間に、スレイナはバルストに牙を向き始める。
復活したエリアルはバルストから剣を託され、二刀流でその場の危機を回避ができた。
そして、真打、ルティーナが転移魔法で参戦するのであった。
ルティーナとサーミャは2人の戦闘の間に割り込み、一瞬、戦況が凍りついた。
「とにかく、転移の事が知れ渡る前にあいつを捕まえるわよっ」
「あぁわかってるさ、なら出し惜しみなしだなっ『フィルス・フリーズ・ランス』っ」
スレイナは見た事もない魔法に脅威を感じ咄嗟にかわしたが、当たってもいない左足首が凍りつくのであった。
その状況にあわてて急上昇し距離を空けた。
「か、かわしたはずなのに……(氷系魔法なのに雷系のように速く効果範囲が?)」
スレイナは考えていた。
サーミャの魔法の威力やエリアルの二刀流、不思議な力を使うルティーナ、そして左足首の凍結……。
このまま1対3になる状況は歩が悪いと判断し、逃亡しナガアキに『転移魔法』や調べたことを報告すべきだと。
馬琴も同じように考えを巡らせていた――このままでは逃亡されるのがオチだと。
魔物の群れも放置するわけにもいかず、スレイナがこの場に残り戦闘させる手段はただ1つとルティーナに伝える。
「さぁて、鷹女っ! 私が相手よっ」
「ミヤはエルと、雑魚をお願い!」
「「あぁ」」
「ところでエル、えらい格好してんな? 魔物は色気じゃ勝てねぇぞ?」
「しかたないでしょ~お風呂の最中に襲撃されたんだからぁ! 問題ないわっ、二刀流を見せてあげる」
スレイナは1対1になる状況下で、空中戦が唯一不得意なルティーナが残ることに違和感はぬぐえなかったが、小娘1人相手に逃げ出すという選択肢だけは許せなかった。
「うぬぼれるな! 空中戦で、私に勝てるとでも?」
(ルナ、目に物見せてやれっ!)
ルティーナは転移する前から、エリアルが危険な状況にすぐ対応できるように、あらかじめ『デストラクション・シューター』の左右に【電】をあらかじめ2cmの大きさで描き、背中にも【翼】を描いて準備をしていた。
スレイナは地上に降りなければ攻撃されないと解っていたため、空から毒羽を撃ち込みルティーナを牽制するのであった。
馬琴も初めて実戦で使う武器のため、『初見殺し』になるように慎重に使うタイミングを図っていた。
ルティーナもそれは承知しており、短剣で毒羽を叩き落とし不自然にならないように攻撃を交わした。
「おらおらっ空中からの攻撃の味はぁ」
(そろそろ、油断してるんじゃないか? 反撃の頃合いだ)
(この先端のとんがってるところを目印にして構えたらいいんだよね)
ルティーナは【煙】を描いた手裏剣を空に投げ、適当な高さで『起動』させることでスレイナから姿を隠すのであった。
「ちっ」
(今回は実験した時の2倍の威力のはずだっ)
(ルナ、2mの【爆】手裏剣を、おみまいしてやれっ)
うっすらと煙が晴れ、スレイナは自分に向かって何かを構えているルティーナを視認した。
「(あいつら? なんだあの武器?)」
ルティーナは『デストラクション・シューター』をスレイナに狙いを定め、手裏剣を打ち出した。
スレイナは何か飛んでくる音を察知し身構えてはいたが、想像以上の速度で飛来する手裏剣を識別できなかった。
(『起動』っ)
さすがにルティーナはスレイナに命中させることはできなかったが、馬琴はスレイナとの距離と射出速度から最適なタイミングで起爆したことにより、スレイナの真横で大爆発が起こる。
スレイナの羽に引火し、何が起こったかわからないまま火を必死に掻き消そうと羽ばたき焦るのであった。
「(なっなんだ? あいつの攻撃がこんなところに?)」
スレイナが動揺し躊躇している間に、ルティーナは容赦なく【爆】を描いた手裏剣を数枚、撃ちだすのであった。
そしてスレイナの周りで連続して大爆発が起き、再び身体や羽根に引火しかき消すことに必死になってしまった。
「(……くそっ夜でなければ……何かが飛んできているのは間違いない! あの腕についている怪しい道具か……)」
「(っ! 私とあろうものが……こんな醜い姿にまでなったのに……)」
「(つまらないプライドが邪魔したが……ここは撤退すべきか)」
スレイナは今の攻撃は近づけば使えないと察し、迷わずルティーナに突進し襲うフリをし、るませた一瞬の隙に大きく羽ばたき戦線を離脱しようとしていた。
(逃亡を選んだか――ルナっ! 追うぞっ)
(うんっ)
ルティーナはすぐさま飛翔し、『デストラクション・シューター』を構えながらスレイナを追尾した。
さすがのデグルーイの姿でもダメージが大きいため、ルティーナの飛翔でも十分追いつくことができた。
「(な、あいつ、空まで飛べたのか! このままでは逃げきれない……くそガキがっ!)」
「くらえっ~っ!」
手裏剣には【凍】が描かれており、スレイナの周りで氷結が始まり羽の一部が凍結し、失速する。
そして追い打ちで【酸】と描いた手裏剣を打ち込むのであった。
(『起動』っ)
するとスレイナの周辺で大量の酸が吹き出し、それを浴びてしまったため飛行がままならず森の中に墜落してしまった。
「くそっ~がぁあぁぁぁぁ~」
「(木々が緩衝材になって助かった……しかし、どう逃げる?)」
スレイナは木々が茂る場所に墜落したため、それがクッションとなり大きなダメージなく地面に叩きつけられるのであった。
そして彼女の体に異変が起こる――。
「(ぐっ……く、薬が……切れる)」
スレイナは身体が酸で焼かれ、体の一部も凍ったまま元の人間の姿に戻ってしまった。
墜落した時に体も強打しているため、もうその場からほとんど動くことはできなかった。
(追いつめたわねっ)
(油断するなよ)
「あんたが、刺客の正体ね」
「さぁ、もう逃げられないわよっ、いろいろ聞かせてもらうからね」
ルティーナは『デストラクション・シューター』を動けなくなったスレイナに向けたまま、空中で構え立ちふさがるのであった。
(シャルを置いて来たのは失敗だったわね)
(しょうがないさ、せっかく会えた肉親とゆっくりさせてやりたいだろ?)
(この女、素直に白状してくれるといいんだが……)




