133話 「スレイナ」ノ変貌
エリアルはアジャンレ村で剣の特訓に明け暮れていた。
そんなある日の夜、スレイナがデーアベを引き連れアジャンレ村を襲撃する。
迎撃するバルストとエリアルであったが、居ないはずの2人が村に居ることにスレイナは驚愕する。
さらに魔物化したデーアベをいとも簡単に殲滅されてしまったスレイナは次の手を打つ。
スレイナが自らに投与した薬の効果で、体は羽で覆われ、手と足の爪は鋭利に伸び、口が嘴に変わった。
以前のゲレンガが作っていた薬を完成させていたため、変貌するのに数秒もかからなかった。
エリアルが凝視する中、背中から大きな羽が生え、ひと羽ばたきで空に大きく舞うのであった。
「ふはははっ、なんだこりゃ~ちょ~気持ちいいじゃねぇか! こりゃ、雑魚には使えねぇ薬だわ」
「で、デルグーイになった……これが魔物化する方法なんだね」
「(空を飛ぶ敵ならこれが有効か?) 『ソード・オブ・プラズマ』っ」
(【雷】)
エリアルは剣を振り降ろし、スレイナに向かって高速の雷を放ち直撃させるが、羽を伝って体中に雷がいなされてしまった。
全く効いていないと判断し、火炎の剣に切り替え、再び、スレイナに向かって火炎を飛ばす。
「どうだっ」
だが雷撃とは違い火炎では攻撃速度が遅いため、簡単にかわされてしまった。
反撃に備え構えるエリアルであったが、スレイナは近寄らずに翼をエリアルの方に向かって一振りするのであった。
すると、翼から羽根が数本抜け出しエリアルを狙ってまっすぐに撃ちだされた。
「なっ」
エリアルはそのまま火炎の剣で、飛んでくる羽根を焼き払い攻撃をかわすが、繰り返しスレイナは羽根の本数を増やしながら、まるで遊んでるかのようにいろいろな角度から打ち込み始めた。
「くそっこれじゃ、反撃できないっ……大剣があれば……防御しながら――」
数本撃ち漏らした羽根が、スレイナの衣服と肌を軽く切り裂く。
鎧を装備をしていなかったため、普段より防御に集中しなければいけない状況が続くのであった。
「おやおや、だんだん撃ち漏らしはしめたかい? どんどんいくよっ」
そのうちエリアルは急に目の前がぼやけて見え、体に不調をきたすようになってきた。
そうスレイナの放つ羽には毒が埋め込まれていたのだ。
「どうだい、毒羽根の味は? 切り傷からでも効果は十分だろ?」
「くそっ」
エリアルは羽根を炎で振り払うのをやめ、剣で地面に振り下ろし爆炎の壁を作ることでスレイナからの視覚から消え、その隙に物陰に隠れるのであった。
「ふんっ、隠れたか」
「どうした? ルナリカは来ねぇじゃねぇかっ? たまたま、ここに居合わせただけだったようだなっ」
「もう時間の問題だな」
「(な、なんとかしなきゃ……僕が1人ってのもバレてる……せっかく剣術が向上してもこの程度なのか……)」
「エリアル大丈夫っ?」
「え、アンナさんっ? なぜ、こんな所に」
「子供たちは全員逃がしたから気にしないで! これでも私も元冒険者なのよ」
「『キュア・ポイズン』っ」
「くそっ! どこに隠れた!? 空からでは探せない場所か? ……もうそのままでも戦闘不能か、探す必要はねぇか……なら」
「ありがとうございますアンナさんっ」
「これで動けますっ」
「私もまだまだ捨てたもんじゃないでしょ」
「伊達に剣士の相棒をしていたわけじゃないのよっ、私も手伝うわ」
「あいつはどこへ――しまった!」
エリアルが一瞬目を離した隙に、スレイナはバルストを攻撃対象に切り替え、羽根を打ち込み邪魔をしていた。
バルストは大剣を盾にすることで身を守っていたが、村人の死体の猛攻を止める事が出来なくなり苦戦している内に、毒羽の洗礼を浴びてしまう。
「くそっ、これは毒か! (アンナが居てくれれば……)」
「あなたっ!」
「なんでここにいるっ! 来ちゃいかんっ!」
「大丈夫ですっ! 僕が必ず守りますっ!」
「『ソード・オブ・ブリザード』っ」
(【凍】)
エリアルは剣を振り下ろし、動く死体を氷の中に封じ込めるのであった。
「助かったぞエリアルっ、これを使えっ!」
スレイナの毒羽が飛び交うなか、バルストは気にせずに大剣をエリアルに投げ、彼女はそれを受け取る。
エリアルはその意図を汲み取り、すぐさま2本とも雷撃の剣にし、大剣を地面にさし放電を展開させることで毒羽を封殺した。
「アンナさんっ、今のうちに師匠に解毒魔法を!」
「エリアルが何故? あの女っ、光魔法が使えるのか……いや、それだけではない――」
スレイナはエリアルが使っている剣以外で、魔法を使えるという事実に驚愕した。
羽での攻撃に見切りをつけたスレイナは高速で急降下し爪で襲い掛るが、それを迎え撃つエリアルとの一進一退で攻防が続く。
「(くそっここまでとは、これではラチが明かないか……)」
「(だが、次の手は打ってある)」
数分の攻防が続く中、村の壊れた門に怪しい赤い光が、複数見え始めた。
「なっ今度はなんじゃっ」
「あ、あなた……デアボとデフルウの群れが」
「エリアル! わしらのことはいいから、魔物を――」
「さぁ、エリアルどうするよ」
「ただシャルレシカのことを調べるだけのつもりだったが……時間をかけすぎちまったみたいだ」
「村は魔物に襲撃されて全員死んだことになってもらうよ」
「(僕、1人じゃ防ぎきれないっ!)」
――反撃の手を見いだせずに苦しんでいるエリアルの前に、黒い空間が突然、現れた。
「お待たせぇ~っ」
ルティーナはとっさに、手のひらに【輝】を描き、発動することでその場を攪乱され、スレイナをその場から離脱させた。
「ルナ、ミヤ、助かったわ!」
「ルティーナっ! サーミャ! よく帰って来てくれた!」
「(! ルティーナ?)」
「(な、なんだ突然現れた……転移ができるとでもいうのか? シャルレシカに踊らされていた訳でなく、これがいつでもどこでも湧いて出る理由かっ)」
「なっ、人型のデルグーイじゃないっ! これがシャルが見た夢だったのね」
「出現位置が悪かったら攻撃をくらってたじゃねぇっか、危ねぇ~っ」
「しかし、転移が使えることが組織にバレちまったぞ」
ヘルセラの引っ越しを終えたルティーナ達は、シャルレシカの為に少し時間を設けていた。
しかしヘルセラは本来、『未来視』ができる一族にもかかわらず『過去視』を得意とするシャルレシカに興味を持ち、彼女には少し先の『予知夢』であれば極まれに見るという話しを聞き、一族の幼少期に施すおまじないを試してみたのであった。
早速、睡眠に入ったシャルレシカは、数分もしないうちに飛び起き、アジャンレ村で魔物が暴れている様子が見えたと騒ぎ出し、あわててサーミャに連れられ2人はエリアルの元へ転移するのであった。
「くそがぁぁぁぁ~~っ」




