132話 「バルスト」ノ危機
ヘルセラから『王都爆破事件』にあった背景を知ることになったルティーナ達。
ヘルアドが未来視で見た世界を滅ぼすと言われる『巨大な魔物』を倒すためには『勇者』の力を召喚するしかないと、ノキア王に打診したことから始まっていた。
しかし、約90年前にも同様なことが起こっていた。
だが、その時に召喚されたはずの『勇者』は存在していないと語られるのであった。
ルティーナ達がヘルセラと和解し引っ越しを手伝う中、アジャンレ村に暗雲が差し掛かっていた。
エリアルは日が暮れるまで二刀流で剣を振り回し、安定した動きを見せていた。
その様子を親のように、暖かく見つめるバルストであった。
「俺の剣を軽くしなくても、そこまで使いこなせればもう文句なしじゃよ」
「ありがとうございます、師匠っ」
「ほらほら、あなた達いつまでやっているの? ご飯ができましたよ」
「あぁわかったよ。また、腹が減ったとかフラザンが騒いでるんだろ?」
「……あの、お風呂を先にいただいてもいいですかね?」
「女の子ですもんね。ほんとごめんなさいね気が利かなくって」
「先に食べてるから、早く上がってきてね」
エリアルは浴場へ移動し、バルストとアンナは子供達と夕食を先に取るのであった。
しかし、食事の最中にバルストは村の入り口の異変に気付く。
念のためアンナに事情を説明し、急いでエリアルに与えた大剣をもち、外へ飛び出していった。
アンナは子供たちにそのまま食事をしているように指示し、急いでエリアルの元へ走る。
「エリアルっ助けて! 村の入り口に何か異変がっ」
「バルストがあなたの剣を借りて飛び出して行ったの」
「――わ、わかりました」
「(僕はお風呂に呪われてるのか?)」
「(しかたないっ、髪をかわかして鎧着ける時間なんてないわ、はずかしいけど……)」
一足先に村の入り口にたどり着いた、バルストが目にしたものは、数人の村人の死体と数匹のデーアベを従える女の姿があった。
「はん? 剣士がこの村にいるなんて聞いてないわよ」
「どいつにきいても、シャルレシカのことは知らないと言い張りやがる」
「こいつら、頭膿んでるんじゃねぇか?」
「(そうか、あいつら本当に村のルールは死んでも守るんだな……)」
「(なら尚更)おまえら! 許さんっ」
バルストはエリアルと特訓していた甲斐があり、平和ボケしていた体に剣を操る記憶がよみがえり、襲いかかってくるデーアベに対して予想以上に奮闘が出来ていた。
「あん? あの剣……」
「ば、バルスト! 剣豪バルストっなんで生きてやがるっ、てめぇドグルスに消されたはずじゃ?」
「なっ、お前らがあの時、ワシを殺そうとした連中か!」
「おやおやシャルレシカを調べていただけなのに、また、でっかい獲物が釣れたもんだ」
「あのババァに続いて、ノキアに手土産ができちまったなぁ」
「(ノキア……王?)」
スレイナは、デーアベを2匹残しバルストをまかせて、自分は孤児院の方へ足を運ぶ。
バルストも自分を暗殺しようとした理由を問おうとするがデーアベに阻まれ、スレイナは無視して去ってしまうのであった。
「くそっ! (エリアル、みんなを頼むっ)」
「なぁセフル? ルナのとうちゃんとかぁちゃん、ご飯の途中なのに、あわてて飛び出していっちまったぞ?」
「ただごとじゃないわね。フラザン、あんた外に出るんじゃないわよっ」
「大丈夫だって、セフルは大袈裟だなぁ~」
フラザンはセフルの制止も聞かずに外に様子を見に飛び出したが、デーアベに遭遇してしまい、大きな叫び後を出し身体が委縮して動けなくなってしまうのであった。
それは、遠目に映るバルストの戦闘姿がみえる程の距離であった。
「なっ! 馬鹿野郎っ! フラザン、なんで出てきたっ」
「ご、ごめんなさ~い、バルストおじさんっ」
スレイナは、子供達ならシャルレシカの事を聞きだせると思い、もし聞けなかったとしても人質にすれば村人は喋る気になるだろうと、確保するようにデーアベに指示をした。
「ひっひっ、こ、怖いよぉ~助けて――」
フラザンにデーアベの手が伸びた、その時、遠くから疾風が吹き荒れ、腕を切り落とすのであった。
「え、エリアルお姉ちゃんっ」
「大丈夫? フラザンっ! 走れる? アンナさんの所に戻って」
スレイナにとって、居ないはずのエリアルが目の前に立ちはだかった。
「っな、なんでてめえも居るんだっ! どうなってやがる」
「(また、シャルレシカにしてやられたのか?)」
「(だがおかしい、なんでこいつ……鎧を着けてない? 不自然だ……ここでだた生活していたとしか……)」
「えぇ、すぐに来るわよっ覚悟しなさいっ(早く戻ってきてくれ……あれだけ注意した手前、僕が1人になる時間帯でないと転移はしてこないか……)」
「まずは、僕が露払いをさせてもらうよっ」
「(……こいつら組織のやつらか)」
「助かった! エリアル~すまねぇ~大剣を借りてるっ! そっちは頼むぞっ」
「はいっ!」
エリアルは以前とは見違えるように迷いなく振る剣で、デーベアを簡単に切り刻み撃退するのであった。
その予想外の出来事にスレイナは再び、困惑していた。
毎回毎回、居ないはずの場所に湧いてくる『零の運命』の誰かしらが、全員揃っているわけでもなく、全員がその場にいつでも揃う気がする気持ち悪さに腹が立っていた。
村を襲撃するならとデーアベの薬しか使わなかったことに後悔はしていたが、そのうちにエリアルとバルストは魔物を殲滅してしまう。
「さて、全部やっつけたわ」
「あとは、あなた一人よっ! ルナ達が出る幕もなかったわね」
「……そうかい」
「?」
「よしよしっ、まだまだワシの腕も捨てたもんじゃないな」
「――んっ?」
バルストもデーアベを全て倒したが、村人の死体の山から何かが動く反応がした。
一瞬、アンナが居れば助すかる者がいるかもと緊張感が和らいだ。
そのうちに、騒ぎに気づいた村人達が、入り口や孤児院の回りに集まり始めて来た。
「「「どうしたんだい? バルストさ――」」」
村人達は転がる死体と魔物を目の当たりにし大騒ぎになりはじめた。
その時、死体の中から1人が急に恐ろしい形相になり村人に襲い始めた。
「ぎゃ~っ、ブルグさん! なにを……」
「くそっ、間に合わねぇっ」
バルストの目の前で、村人の一人が、死体の村人に襲われて噛みつかれてしまった。
「くそっなんてこった!」
「(死体が生き返って? 人を襲う? ……最悪だ……どうすれば)」
スレイナは、ゲレンガの『魔物化』の薬を使いながらも、自分が実験で作っていた『死者兵』の薬を村人の死体に施していたのであった。
今時点では、死体の細胞を強制的に活性化させ命令は聞かないもののとにかく暴れさせる程度の効果しかなかった。
「あれを見ても余裕を言ってられるのかな? エリアル」
「あなたは……誰っ!(額に痣の女? それってルナが言ってた奴?)」
「冥途の土産におしえてやるよ、私の名前はスレイナ」
「楽しいだろ? バルストはもう後始末で手一杯のようだな」
「あんたとはサシで勝負してやるよ」
スレイナは、懐から完成品の『魔物化』の薬を取り出し、自分の首に打ち込みながら不敵にも大笑いをはじめた。




