129話 「ルティーナ」ノ武器
目的を果たしたルティーナはサーミャ達と別れて1人でノスガルドまで移動し、日が落ちる頃、武器屋タリスの店に顔を出すのであった。
「タリスさ~ん、いらっしゃいますかぁ?」
「おぉ、ルナリカじゃねぇか? 予定より1日早くねぇか? さすがに無理だったか?」
「私だけ別行動しているんですよ。今、皆が持って移動しているので明日には予定通り200kg納めますよ」
「それと、デリエジの発生源も叩きましたんで、これからは安全に採掘できますよ」
期待以上の成果に唖然とするタリスであった。
タリスは流石に報酬が見合わないと、追加で報酬を支払うと言い出すがルティーナは、頼んだ武器の今後の調整費込みで面倒を見て欲しいと交換条件を出した。
彼も今後の発掘の安全性の価値と比べて、そんな程度でいいのかと呆れてしまう。
「なんか、すまねぇな」
「そうだ例の武器の試作はもう出来てるぜ! 試してみるかい?」
早速、タリスは工房へルティーナを連れて行くのであった。
そこで見た武器は――。
(結構、なんかいい感じじゃないか!)
(これが武器なの? どうやって使うの?)
「しかし本当こんなもんを、腕に装着するのかい? とても、攻撃なんて出来そうにないんだが」
タリスがいうには、外装は『オブシディアン・ストーン』で加工しており、内側の部分には電気を通しやすい針金状の金属をぐるぐる巻きにしていると説明された。
早速、ルティーナは裏庭を貸してもらい、試討をすることになった。
彼女本人もわからないまま、馬琴のいう通りに、右手首に装着し操作を始めた。
ルティーナは、手のひらに【電】を描き武器の左側にはそのまま、右側には反対向きになるように転写した。
(あとは、俺の想定通りに機能してくれるか……『起動』っ『起動』っ)
すると武器の内部の隙間に激しい放電が荒れ狂い始める。
怖がるルティーナであったが、武器の後ろにある隙間に紙切れを入れるように指示され試してみた。
紙は吸い込まれ、発射口から勢いよく飛び出すのであった。
(よしっ、磁力発生の方向は合ってる)
(ジリョク?)
(まぁ、子供の実験みたいなもんだ)
反対側に物を入れるだけで勢いよく飛び出したことに、どう考えてもそれで物を撃ちだすことなんてできない事が解っているタリスは困惑する。
ルティーナはとりあえずこの武器の理屈を、雷魔法をこの武器にかけたのだと適当な理屈を説明した。
「さぁ、ここからが本番ですよ」
ルティーナは、空にむかって銃口をかまえ、今度は手裏剣を隙間に入れた。
すると、凄まじい勢いで空高く射出されるのであった。
「しゅ、手裏剣が空に……消えていった? これなら……」
(簡易レールガン完成っ!)
(れ、れえる? どうでもいいや、 これもマコトの世界の技術なの?)
(でも、これなら投げるより簡単に攻撃できる! デグルーイなんて怖くない!)
タリスは口を開けたまま、飛んで行った手裏剣の方を見つめて呆然としていた。
「ありがとうタリスさんっ、ちょっと狙った方向にずれがあったので、お手数でなければ中の針金をもう少しムラが無いようにしてもらえると助かります」
「あと、手首でなく、腕に装着できる方がいいですかね」
「……そ、そうか、わかったよ! まかしとけ!」
「それでは、また明日」
そして翌朝、4人でタリスの店に『オブシディアン・ストーン』を運び任務を完遂したのであった。
タリスは依頼料を支払う時に、昨日のルティーナの注文どおりの修正をした武器を手渡したのであった。
「え、もう出来たんですか?」
「そりゃ、鉱山を元通りにしてくれた礼は、この程度じゃ安いもんさ」
(そもそも原因は俺なんだけどね……)
「ありがとうございますっ」
「それが例の武器か? 名前はなんて言うんだ」
「対空長距離攻撃用『デストラクション・シューター』よ」
「なんか凄い名前だな……」
――話しはルティーナ達が『イルフェ鉱山』に採掘に出かけた日に遡る。
スレイナはルティーナ達を追わずに、部下が調べていたシャルレシカの事について連絡を受けていた。
「そうか、あいつはアジェンレ村出身……か、何か弱みを調べられるかもしれねぇな」
「だが、こいつヘルアドの……」
「あと、ヘルアドの妹のヘルセラというものが、ジェイスト村にいるようです」
「あいつらにも少しは情報を提供してやるか……」
「私はどうすればよいですか?」
「お前は、ほら、あそこでルナリカ達が居る宿をこそこそ伺っている奴が居るだろ?」
「あいつは?」
「いいんだ、今はただの一般人さ、あいつを仲間にして宿に滞在するんだ!」
「それだけでいいんですかい?」
「あぁ、指示が来るまで、酒でも飲んで、あいつとそこにいろ」
そんな事も知らないルティーナ達はカルラの宿に戻り、サーミャの杖の事を知る老婆の事を調べるため、ロザリナを残して3人でエリアルの元へ転移するのであった。
最初は合流したエリアルと4人でジェイスト村に出かけるつもりであったが、彼女は剣の特訓を続けたいとバルストの大剣の容姿を作り変えてもらうのであった。
「エル? 軽くしておかなくていいの?」
「あぁ、今はこの重さで特訓したいんだ。わがままを聞いてくれてありがとう」
「んじゃ、留守番よろしくねエル」
そして3人は、シャルレシカの案内でジェイスト村に向かって移動を開始した。
近いと言っても、それなりの距離はあり、飛翔しながら移動しても日が暮れてしまうのであった。
しかたなく野宿し、次の日の朝早くジェイスト村にたどり着く。
早速、3人はロザリナが描いた似顔絵を手に村人に聞き込み、あっさり居所と名前が判明し、老婆の家の前までやってくるのであった。
「さぁてと、すみませ~んヘルセラさんいらっしゃいますか?」
「はい、はい、どちら――」
「な、碧い瞳の少女……災いを悪化させる者よ」
「そして、そこの緑髪っ……災いを呼び込む者よっ」
「えぇぇ~私の事ですぁか~」
「なっ、なんだよばあさんっ! 初対面の相手に対して吐く台詞かよっ」
「き、金髪……そ、それに『エクソシズム・ケーン』? まさか救世主様っ」
「「「きゅ、救世主ぅ?」」」
その老婆は、サーミャに対しては好意的な態度を見せるが、ルティーナ、特にシャルレシカには冷たい態度をとるのであった。
しかたなく話しを聞いてくれそうなサーミャが、何故このような態度をとるのかと老婆に問うのであった。
老婆の名前は、ヘルセラ=ベルメン。
彼女は、自分の姉が自分宛てに残した手紙を見せるのでった。
――蒼き瞳の少女来たりて、二つ魂が闇を染める
緑髪の乙女、災いを引き連れ現れ
それを討ち払う黄金の救世主が舞い降りる――
サーミャは一体何を言いたのかさっぱり理解できず、馬琴に助けてほしくルティーナに近寄ろうとしたが、ヘルセラに止められてしまった。
「私の姉は、大占師ヘルアドと呼ばれておった、これから起こる何らかの災いや出来事のある程度の時期までは見通せる未来視の力を持っておった」
「しかし自分は10年以内に死ぬと予言し、『エクソシズム・ケーン』を私に託し、その2年後、ノモナーガの王都に出向いた際に、不運にも爆破事件に巻き込まれ命を落としてしまったのさ」
(! 8年前の事件、何故、ヘルアドさんが巻き込まれていたんだ?)
「なぜ、ヘルアドさんは王都に……」
「貴様には何も話すことはないっ」
(困ったなぁ)




