128話 「エリアル」ノ継承
時は遡りルティーナ達が目的を遂行する中、エリアルはアジャンレ村で必死にバルストの特訓を受けていた。
バルストは、エリアルが剣の扱い方は教えてもらっただけとしても、独学でここまでで出来たのはそれなりの素質がある血筋ではないかと察するが、孤児院に捨てられていたという話しをルティーナから聞いていたため深入りはしなかった。
しかし、彼女は魔剣の能力をあてにしている傾向が強い為、通常の戦いでは隙が多い事を見抜いていた。
「戦う相手が複数の場合でも、魔法使いだけとか、剣士だけとかなら戦いようがあるが、一度に2種類の相手が混在していると結構苦戦する」
「だがエリアルは、1人で2種類の相手を演じられるところが強味なんじゃ」
「……しかしその事と、利き手の反対で剣を使う特訓と何か関係があるのですか?」
「それは俺の試験に合格したら教えてやるよ」
「なら頑張るしかありませんね」
バルストは片手ながらも大剣を振り回し、踏み込んでいくエリアルも簡単に剣が弾き返され、剣を突きつけられる。
「せっかくの盾が役に立っていないぞ」
エリアルは攻撃が最大の防御だという教えを受けていたため、盾で剣をあまり捌いたことがなかったのだ。
しかし、バルストと戦ううちに、大剣の異様な形状にエリアルは気付く。
「……師匠のその大剣の中心に持ちてがあるのはもしかして――」
「そうじゃ、こうすると盾にもなるんだ」
「だが今じゃ片手しかないからの、剣としてしか使えんがな」
バルストは本来、普通の剣と盾の代わりになる大剣の2本、つまり二刀流として戦場を駆けていた頃の話を語った。
それを聞いたエリアルは、バルストの愛剣の剣幅が無駄に広いことに納得するのであった。
「……いかに唯一無二の戦い方を見いだすかで、自分が優位になれる」
「おまえさんは剣と魔法が使えるだけも十分だが……魔法に頼りきっているから生かせていないんだ」
「確かにそうですね……(唯一無二か……)」
「次は、わしの大剣とおまえさんの剣を交換して特訓じゃ」
「えっ? 交換?」
エリアルは大剣を利き手で持とうとするが、あまりにもの重さに耐えきれず両手で持って構えてしまう。
そんな彼女を見つめるバルストは、これが最後の試練だと伝える。
そとりあえず両手で扱うのを許可し、慣れたころに利き手の反対でも扱えるように指示し特訓を再開する。
「(剣を降り下ろすどころじゃ……ない)」
エリアルはバルストからの攻撃を四苦八苦しながら、剣をどう扱えば戦えるのかを必死に模索していた。
苦労しながらも剣を振れるようになっていくが、防戦一方で反撃すらできなかった。
「だめだだめだ、そんな腰の入れ方じゃ、どっしり構えてみろっ」
「は、はいっ、あっ」
「おっ、以外と様になったじゃねぇか」
その日はバルストの大剣を夕方まで素振りをする練習で明け暮れるのであった。
――そして翌日、エリアルは極度な筋肉痛に陥り苦しんでいたが、バルストは特訓できる時間は少ないと休暇を認めなかった。
流石に大剣を振り上げる精一杯になるエリアルは、ふと嘆く――。
「(くそっ、風の力があれば勢いをつけて振り上げられるのに……)」
(【嵐】)
突然、大剣は風をまとい『ソード・オブ・ウィンドストーム』と同じ状態になり、大剣を振り上げバルストに攻撃ができたのであった。
「なっ! なんで俺の剣が――」
「わ、わかりません……ただ、風の補助がほしいと願っ――」
「(まさか、る……ルナと同じ能力じゃないか! )」
「(どういうことだ? トモミさんは僕の剣の中に居るはず……)」
エリアルは、試しにバルストに剣を持たせたまま『ソード・オブ・ヴォルケーノ』と叫んでみた。
しかし大剣の方が炎を纏い、バルストが持っている剣は何も怒らなかった。
「おい、おまえさんの剣は魔剣じゃないってことか? 持っている剣が魔剣になるってことじゃないか?」
エリアルは、大剣を地面に刺し、バルストが持っている自分の剣を返してもらい魔剣になるかを試し、やはり魔剣になる事を確認したのであった。
「やはり、普通に使える……」
「(何が起こっている? マコマコに相談してみるか)」
「ルティーナの力には十分驚いたが、まさかおまえさんも同じとはな……」
「なぁ、魔法剣の二刀流をやってみんか?」
「え? なにを急に?」
「最初は、剣と盾を自由に持ち替えて戦えるように、利き手でない方でも使えるように特訓をさせてたんじゃが」
「持っている剣が魔剣になるなら、唯一無二じゃねぇかっ」
「魔法を使ってでも構わん、大剣に慣れとけっ」
「わ、わかりました。やってみます」
それからエリアルはバルストと剣を交換したまま特訓を続け、2日が過ぎようとしていた。
「よしっ、最後の試験だ」
「お互い自分の剣で戦うぞ、魔法は使わずに俺に一撃入れてみろいっ」
「はいっ」
「(重たい剣のおかけで、腕力と剣筋が安定し始めたけど……)」
エリアルは、今までにないくらいの機敏な動きでバルストの剣を軽々と交わし、特訓を始めて初めて優位に立っていた。
そして、バルストが大剣を振りおとした隙に、失っている腕の方に回り込み、素早く剣をつきたてるのであった。
「あははは、降参じゃっ」
「――っ!」
「今まで狙ってこんかったから油断したわい、そう、ちゃんと相手の弱点は利用するんだ! じゃがそれは卑怯でもなんでもないぞ!」
「合格じゃ エリアル!」
「あ、ありがとうございますっ」
「(初めて、名前で……)」
エリアルはバルストに一矢報いて合格したことよりも、自分の名前を呼んでもらえたことに認めてもらえたのだと涙がこみあげてくるのであった。
「そうだな卒業祝に、この剣をくれてやるっ」
「えっでも、これは愛剣では?」
「見ての通り、もう剣士では働けん」
「俺の剣で……これからもルティーナを守ってやってくれねぇか?」
「わかりました。僕がかならずルナを守る剣になりますっ」
「頼もしいな、あいつらが次に迎えに来るときまでに、使いこなしとけよ」
「しかし、その剣は界隈じゃ知られてるからな、ルティーナにちょっと形状を作り変えてもらえばいいじゃないか?」
「『亡き俺にあこがれて作った』とか言えばごまかせるじゃろ?」
「(これで、少しは皆の役に立てる!)」




