124話 「ルティーナ」ノ実家
ルティーナ達は武器屋タリスの案件を受け、『イルフェ鉱山』の『オブシディアン・ストーン』の採取任務を請け負った。
そこに行く途中には、ルティーナがバルスト暗殺未遂事件に巻き込まれる前に済んでいた家と、『ウエンの森』があるのであった。
ひとまず、シャルレシカに周囲に監視がないか索敵した上で、1人、無人となった実家の様子を見る為、ルティーナは忍び込む。
ルティーナは何者かが家に侵入して物色されていたことまでは分かったが、アンナの部屋で『ヒーリング・ストーン』、バルストの部屋では頼まれていた大剣が無事に見つかった事に安心する。
しかし、馬琴はこれと言って何も盗まれていない事に疑問を感じながらも、とりあえず外の3人に合図を出し実家で合流したのであった。
「お待たせ~遅くなっちゃってゴメンね」
「外は大丈夫だった?」
「あぁ雑魚魔物が居るくらいで、あたいたちに悪意を持っている人間はいないらしい」
馬琴は前回のエリアル達の襲撃のように、組織が出かけた自分たちを追って仕掛けて来ないことに疑問は感じていたが、数日だけここで拠点を構えることに決めた。
「それじゃ、この『ヒーリング・ストーン』はミヤが大事に使ってね」
「悪りぃなぁ~」
ロザリナはルティーナの実家で過ごすことが決まった事で、早速、野宿用に買い込んだ食材を調理することにし、夕食にするのであった。
パーティーの中で唯一料理が作れる彼女は、調理器具がそろった台所で調理するのは久しぶりで気分が上がり、腕を振るって皆に料理をもてなすのであった。
「もうすぐ出来ますよ~。いっつもお父さんのご飯を作って程度の料理だけどね」
「リーナぁ~お腹ペコペコで眠いですぅ~」
「ドカ食いは抑えてくださいねシャルっ、今回は野宿3日分ギリギリしか買ってないんですから」
「うぅぅ~」
夕食が出来る前に、ルティーナは早く愛剣をバルストに届ければ、エリアルの修行に役に立つと想い、サーミャにエリアルの元へ転移してほしいとお願いした。
そして――。
――ザッパ~~ンっ
「きゃ~ぁぁぁっ」
「「へっ?」」
(――マコト見ちゃだめ~っ)
(なら、お前が見るなっ!)
エリアルは、予定外に転移してきた彼女たちに不機嫌そうな顔をして出迎える。
そう、彼女はバルストの特訓での汗を流す為、お風呂に入っている最中であったのだ。
「あのさぁ~、ルナ……ミヤ……ぅ~」
「こういうことがあるからさ~、むやみに『ディメンジョン・テレポート』は使わないでと」
「「あははは……ごめんって」」
「――どっ、どうしたんじゃエリアルっ~」
そこへ駆けつけるバルストであったが、ルティーナが慌てて風呂場から飛び出し、問題はないと制するのであった。
「! お父さんはっ入ってこないでぇ!」
「え? ルティーナ?」
その後、エリアルはそのまま風呂から、すぐ上がる準備をし、その間ルティーナは持て帰ってきた大剣をバルストに渡し、実家は無事であったことを2人に説明した。
「(そうか、いつか、また3人で暮らせるといいな)」
「この感触! これだよこれ! これがあればよりよい修行をしてやれるぞ、エリアルっ」
片手になってしまったバルストであったが、軽々と大剣を持ち上げ構える。
そこへ風呂上がりのエリアルがその光景を見て、さっきまでの不機嫌さが吹き飛ぶぐらいの笑顔に変わり目が輝いていた。
「師匠っ……かっこいい」
(な、なんだろう……この構図)
(あははは)
ルティーナ達は状況報告と、予想どおりエリアルの修行に役に立った大剣を渡せたことに満足して、もうすこし居てほしそうな顔をするバルストをよそに、ロザリナの元へトンボ帰りするのであった。
「――あらっ、早かったんですね」
「ちょうどご飯が出来ましたよ」
(そうだよね、転移したらこういう状況じゃないとね……やっぱり、相手の様子を理解してないと危険だなぁ……)
「?」
そして4人は、リーナが作った料理に舌鼓し、明日以降の計画を話し合っていた。
予定では、明日と明後日の2日で採掘作業の日程であるが、可能であればデリエジの根本を撃退して1日で作業を終わらせて、残り1日は『ウェンの森』を調べたいという。
そして、そのまま白々しくノスガルドに翌日に戻る作戦であった。
「でもデリエジが退治できたとしても、狙った石だけを簡単に探せるのかい?」
「それは安心して! これは私の『能力』の真骨頂だから、任せておいて」
ルティーナは、事前に『オブシディアン・ストーン』をひと欠片、タリスから貸してもらっていたのであった。
「あぁ、草探しぃ~と同じですねぇ~」
「? しかしまぁ、200Kgってどれくらいだ?」
「リーナが4人分かぁ?」
「わわわわわ、私、そんなに重くありませんっ」
「誰か留守番させておけばよかったな……」
実際、いくら重さを100分の1にできるとしても、女性3人(シャルは軽いのか?)で服と合わせて約200kg+『オブシディアン・ストーン』200kg+食料1日分と機材約5Kgと仮定しても、結果4kg以上を持ったまま飛翔することになるのだ。
「ルナの体力的に3人担いで飛んでも結構大変そうだったしな。さらに、その倍以上の重さだもんな」
「もぐもぐ……ルナぁ大変ですねぇ~」
「「「(あんただよ……一番、重いの……)」」」
「あ~そ、そうだぁ。あたいの転移で……シェシカんとこにでも飛ぶか?」
「ミヤぁ~さっきエリアルで失敗したじゃなぃのぉ~」
「そもそもシェシカさんが拠点に居るって限らないし、街を歩いてたらどうするのよっ」
「げっ確かに、そうとう緊急じゃねぇ限り、先に相槌を合わせて行動しないとキツイな転移は」
「そこでマコトからの作戦なんだけどぉ」
馬琴はロザリナに、初日の発掘の目途がつき次第、翌日の朝、シャルレシカと一緒に索敵をしてもらいながらノスガルドに戻るように指示した。
そして、カルラの宿を予約して2日間閉じこもるようにと。
「なるほど、そうしたら回収した『オブシディアン・ストーン』をミヤが転移で輸送できますね」
「合流したら、私が魔石に充電して、再びミヤはシャルをルナの所に送り返せばいいんてすね」
「んで、あたいら3人は崖を調査してから、ルナの魔石を使って宿に戻ればいいんだな……」
そして4人はルティーナの実家で一夜を過ごすのであった。




