122話 「タリス」ノ案件
エリアルのピンチに駆けつけたサーミャのおかげで、無事にガイゼルを助ける事ができた。
しかし、彼女らを襲撃したのは、謎の組織の幹部スレイナ。
スレイナは魔物化の薬を使った実験を『零の運命』に行いつつ、あることを調べていたのだ。
そんな事も知らずに、アジャンレ村に戻ったサーミャとエリアルは、この事を真っ先にルティーナに伝えるのであった。
サーミャ達は魔物を撃退した後、一旦、馬車の中で雨が小降りになるのを待ち、エリアルが馬車を操舵してノスガルドへ向かうことにした。
その間、ロザリナは魔力回復に専念し、サーミャは追撃がないか外を監視していた。
そして日が落ち、ノモナーガの国境を越えた頃、カイゼルがやっと目を覚ますのであった。
ガイゼルはそこに髪が短くなったサーミャがいた事に色々驚いていたが、彼に護衛の最中に起きた出来事を説明し納得してもらうのであった。
そして、夜遅く無事に王都の近くまで移動し、カルラの宿で5人分の部屋を借り、ロザリナを残して2人はアジャンレ村まで転移してきたのであった。
「あの魔物が……」
「確かに魔物化を研究してたみたいだけど、もうほっとけない段階まできてるわね」
「しかし何者なんですかね?」
「どいつだろうと、とっとと潰しとかねぇとな、あたいやリーナも奴らの計画に巻き込まれていた被害者なんだからな」
「次は何をしかけてくるんだろうか?」
話しが煮詰まってしまった所で、エリアルはバルストに稽古を付けてもらえる話を詳しく聞かせてほしいと、ルティーナに尋ねた。
「あのさ、僕は剣技に限界を痛感してしまったんだ……今のままでは、足手まといになるかもしれない……」
エリアルは対人戦では、ある程度は自身を持っていたが、ここ数回の魔物相手の実戦経験が少ない事もあり、実際通用していないのではないかという葛藤に押しつぶされそうになっていた。
「(あ~その件な、今回、豪雨の中で戦ってたんだが、魔剣が自由に使えなかった様でさ、それで落ち込んでんだよ)」
「(そっか)」
「な~んだ、私と同じじゃないっ」
「ルナと同じ、だって君は無敵じゃないか――」
「そーでもねぇぜ、ルナも苦手な奴いるよな」
「ルナが?」
「エルなら、デルグーイとどう戦う?」
「そうだな、嵐の剣にして、風の刃を飛ばすかな?」
「ルナは、そういう芸当ができないんだよ」
「! そうか、カンジは描いたものを触れて写すか、手裏剣を投げるっていっても高く投げられない……」
「そうよ、空を飛ぶやつはミヤ頼りなのよ」
「マコトは何か考えてくれてたみたいだけど、今は実現が難しいって悩んでたわ」
ルティーナはエリアルを励まし、翌朝、バルストに紹介することにした。
そして翌朝の日が昇る前、孤児院の仕事で行動を始めているバルストに、エリアルを紹介し数日間ここで修行してもらうことにするのであった。
ルティーナはバルストとアンナに予定を説明した上で、しばらくの別れを告げエリアルを残しロザリナの元に転移するのであった。
早朝、ロザリナが居るカルラの宿に戻ったルティーナ達は、ロザリナを連れ『フォレスト高原』付近の案件があるか探しにギルドに向かった。
「なるほど、その案件があれば、自然に立ち寄れるわね」
「そういうこと! さぁ行くわよっみんな」
その行動を、宿から離れた裏路地から見つめるスレイナがいた。
「今度は全員居る? いやエリアルだけが居ない? どうなってるんだ?」
スレイナはドクルス同様、いや、それ以上に用心深い性格の為、ルティーナ達の行動が腑に落ちなかった。
まるで監視されている前提で、全員いるふりをしているのかいないのか? カマを掛けられている気分になってしまい、いろいろ裏の裏を考えてしまってうのであった。
奇しくも、些細な馬琴の行動計画と人員配置の配慮が、気づかない内に功を奏していたのだった。
「今はまだ、薬はあっても使えそうな駒を集めないと……」
「シャルレシカが居るだけで、こんなに厄介だとは」
スレイナは、この現状は全てシャルレシカの驚異的な索敵能力のありきでなければ成立しないとい思い込むようになっていた。
「どうしたのシャル?」
「いいぇ~、一瞬、悪意がぁ……」
(シャルが無索敵で反応した……20m以内に? どこだ!)
「広域索敵ぃ…………ん~勘違いですかねぇ~」
(気になるな……ノスガルドに居るのか? 組織の連中の手が)
(考えすぎじゃ――マコトの嫌な予感はあたるからね……)
(できるだけシャルに尾行を注意させよう)
(……)
ルティーナは周囲を警戒しながらも4人はギルドに行き、案件を探し始めるのであった。
「なぁルナ、おまえの実家って昔はこの辺にあったんだろ?」
「私が大怪我する前は、ノモナーガ王国のウルアって街に住んでたんだけど意外と端っこよ」
「お父さんは家を売り払って、トレンシリア王国の端にある『フォルスト高原』に介護の為に一軒家を立てたのよ」
「バルストさんって、本当にルナの事が大好きなんだな……(同じ父親でも、なんでこんなに違うんだろうな)」
「ミヤ?」
そんな話をしていると、ロザリナが良い案件を見つけ出す。
――任務の内容――
[鍛冶屋タリス→ギルド]
フォルスト高原の先のイルフェ鉱山にある『オブシディアン・ストーン』を100kg採取し持ち帰る
銅の冒険者以上 複数人要望
任務の詳細や日程は店にて調整
[報酬]
金貨1人20枚
「これなら都合が良さそうだけど、金貨20枚にしては誰も手を付けてないのが気になるな」
「銅の冒険者でも出来る内容なのに?」
内容からすれば護衛でなく採掘仕事、つまり力仕事ではないかとサーミャは懸念する。
しかも、「100kg採取」と書いてある事が決定打だと。
「とりあえず、タリスさんのところに行って話しを聞いてみましょう」
「そっかルナの手裏剣の御用達の店だし、話が早そうだな」
早速ルティーナ達は、鍛冶屋タリスに訪問し詳しい話を聞くことにするのであった。
タリスはてっきり武器の調達に来たのだと思っていたが、ルティーナから案件の事について話しを降られ動揺してしまう。
「いやいや、さすがにおまえらには頼めないと言うか、やりたくないだろ?」
「ほらな、力仕事だから男向きなんだよ、やっぱ――」
「うーん、話を聞いたら逆に断ると思うぜ」
「受けたやつも、ここ一カ月、任務失敗ばかりで、最高でも10kg採取がいいところ……案件を取り下げようかなって思ってたところさ」
(えっルナ……これなんかヤバい臭いしかしなくねぇ?)
「とりあえず詳細だけでも聞くかい?」