121話 「エリアル」ノ苦悩
ロザリナとエリアルは、ガイゼルの護衛任務の最終日、もう少しでノモナーガ王国に入ろうとした峠で大豪雨に襲われ身動きが取れなくなっていた。
そんな中、スレイナにより『魔物化の薬』を使った魔物達の襲撃を受ける。
しかし、エリアルの剣は豪雨と相性が悪かったが、新しく雨を利用する剣へと成長させた。
2人の力でなんとか魔物は撃退したものの、無常にも落雷が落ち轟く――。
魔物たちを迎撃し安心したロザリナ達をよそに、落雷はガイゼルの乗る馬車を直撃していた。
あわてて2人はガイゼルの元へ走る。
そこには落雷に気絶した馬と、黒焦げになってしまったガイゼルが倒れていた。
「「ガイゼルさ~んっ!」」
「ガ……息をしてな――リーナっ!」
「『シャイン・レストレーション』っ」
「息をしてよっガイゼルさんっ――お願いだからぁ~っ」
豪雨の中、ロザリナの悲痛な叫びが響き渡る。
しかし、先の人間の魔物を浄化するために、『シャイン・レストレーション』を使っていたため、魔力切れが近づいていた。
エリアルはそんなロザリナに無理をさせているのは承知で、ガイゼルの無事を祈るのであった。
そして光が消えていく中、ロザリナは魔力が尽きガイゼルの上に覆いかぶさるように倒れてしまうのであった。
「リーナっ!」
「ガイゼルさん……い、息をしている……っ! 息をしているぞっリーナっ! 凄いよ君はっ」
「(僕がこの魔物達を炎の剣で退治できていれば、ガイゼルさんをこんな目に逢わせなかったかもしれないのに……)」
ロザリナの必死な献身によりガイゼルは無傷で呼吸も普通に戻っていたが、ショックで意識を失ったままであった。
しかし、彼女たちの元へ地上に叩きつけた魔物4体が起き上がり、すぐ近くまで忍び寄ってきていた。
「くそっ! 地上に叩きつけて頭を破壊したのに……それでも再生できるのか……」
「『ソード・オブ・メイルシュトローム』っ」
(【渦】)
エリアルは再び魔物に水流を放つが、4体は攻撃を理解して分散していた。
なんとか水流を操り2体を巻き込み、先ほどよりさらに高い場所まで舞い上げ地面に叩きつけ今度はほとんど再生できないぐらいに潰した。
しかし、残る2体が目の前に迫っていたため水流を振りかざすのが間に合わなかった。
「くそ、やはり知能があるのか…………僕に出来ることは……」
そこで一か八か魔物たちを自分に引き付けた上で、『ソード・オブ・ブリザード』を使うことにした。
すると、剣の回りの雨が凄い勢いで伝播するように凍り始め、自分もろとも魔物を氷の中に巻き込むのであった。
「(……やっぱり……こうな……るか……『ソード・……オブ・ボル……ケーノ』)」
(【炎】)
エリアルは自分の周りの氷を溶かしかろうじて脱出するが、固めた氷にもヒビが入り中から魔物が顔を出し、今にも氷を割り中から出てくる勢いを感じたのであった。
「ち、ちくしょぉ~っ」
そこへ、聞き覚えのある力強い声が響き渡る――。
「そこから出来るだけ離れなっエルっ! どでかいのかますぜっ」
「! ミ――」
「『フィフス・エクスプロージョン』っ」
稲妻と水流と火炎と風の刃と氷石をまき散らした黒く光る玉は、豪雨の雨粒を巻き込みながら魔物を包んでいる氷に触れた瞬間に大爆発を起こし、魔物を粉々に粉砕するのであった。
「しかし、なんでイスガの魔物が?」
「ミ、ミヤ……なんだいあの技はっ! それより……合流は明日のはずでは?」
「その件は後だ!」
「でも助かりました。ありがとうございます」
「気にすんな」
「リーナの所に転移したら、ガイゼルのおっさんの上で気絶してるし、どんな状況だよって、びっくりしたわ」
「とりあえず、リーナが目を覚ましてくれたから、事情は簡単に聞いたが……」
「……サーミャだと? やはり最初から居たんだな」
「ということはルナリカも馬車の中に潜んでる? ……くそっ、こっちの動きをシャルレシカが察知して、構えてやがったか!」
「やはり、シャルレシカは邪魔だな……」
スレイナは魔物を使い切ってしまった上に、ルティーナが居ることに撤退を余儀なくされた。
しかし、彼女には一番の収穫があったのだった。
「さすがに1対4は分が悪すぎる。一度、引いてやるよ」
「だが、ロザリナの光魔法がここまでとは……やっと見つけたかもしれませんよナガアキ様」
サーミャとエリアルは、魔物の気配がなくなったのを確認し警戒しつつも、ロザリナが気絶しているガイゼルを連れて入った馬車の中で合流するのであった。
そしてサーミャは2人に、先日ルティーナ達と決めた計画を説明するのであった。
「しかし、あの魔物がこんなところに……組織が2人を尾行していたとはな」
「ミヤが来てくれたおかげで、5人居るのではと警戒してくれたのではないでしょうか?」
「……」
「そういえばエル……元気ねぇな? まぁ、こんなことがあったらしゃ~ないか」
「この豪雨の中では、剣が無力でした。やはり自分の剣技だけでは皆さんの役に――」
サーミャはそんなエリアルに、ルティーナがアジャンレ村に来てほしいと言っていたことを話した。
バルストが指南してくれると聴き、エリアルの不安な顔は喜びで一蹴した。これで少しは強くなり皆の役に立てると。
「あぁ、とりあえずリーナの魔力が回復してガイゼルさんの無事が確認出来たら、この石を充電してもらって早速『ディメンジョン・テレポート』だ」
その頃、アジャンレ村の孤児院――。
「ミヤはぁちゃんと着きましたかねぇ……」
「でもまぁ、びっくりしたわよ、朝、目を覚したかと思ったらいきなり騒ぎ出すんだものっ」
「リーナが倒れて、エルが氷漬けになってるって……」
「経緯は全くぅ、わからないんですけどねぇ~」
「断片すぎるけど、シャルの夢は当たるからね」
「あわててサーミャが転移して行ったけど……」
「~ミヤぁ帰ってきませんねぇ」
「シャルの見た夢の通りなら、ロザリナが倒れてるってことだから、石の充電が出来ないんじゃないかな?」
「それに今、戻ってきたら逆に子供たちが大騒ぎするから、時間がかかりそうなら夜に帰ってきてって言ってあるし。気長に待ちましょう」
そんな、憂鬱な顔をしているルティーナの元へ、孤児院の男の子が近寄ってくる。
「なぁ、ルナぁ~何を真剣な顔してるんだぁ~」
「もしかして、新婚旅行はどこに行くかぁ悩んでたのかぁ~」
グリグリッ――。
「フラザンっんな訳ないでしょっ! んなことばっかり言ってたら、お父さんに頭を撒きの代わりにかち割られちゃうわよ」
「痛い痛い痛い~」
そしてシャルレシカとルティーナは、孤児院の子供達と久しぶりに1日中遊び、時間を潰すのであった。
――夜になり部屋でサーミャを待つ2人の元へ黒い空間が現れ、サーミャとエリアルが転移してきたのであった。
「皆~よかったぁ無事だったのね」
「遅くなっちまったな、シャルが夢を見なかったら、普通に昼間に合流するつもりだったからな」
「全部、僕のせいだ……すまない」
「全員、無事だったんでしょ? 大丈夫よ」
「何があったか教えてくれる?」
「あぁ、奴らが直接的に動き出したんだ」
「!」